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あたしも聖女をしております  作者: 斉藤加奈子
第一章

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40.ライオネルの思案

誤字脱字報告ありがとうございます!感謝です!

 『王命である。北方の少数民族の襲来問題を解決せよ。』


 陛下から与えられた課題だった。この課題をどう解決するのか、将来国を背負う王としての資質を試されている。そう思った。


 北方の少数民族が略奪にほぼ毎年エステルスーン領の村を襲う。エステルスーン辺境伯は食糧難の北方に同情的なところがあり、しかも略奪と言っても食糧のみを狙い、むやみに殺生したり家財を奪ったりする事が無いので、毎回追い払うだけで捕らえて処刑する事などしなかった。


────エステルスーン辺境伯が北方の少数民族に同情的なのも理由がある。


その昔、エステルスーン領と北方の間には、国境など無かった。あったとしても非常に曖昧で、自由に往来のできる平和な場所だった。


その時代の北方の少数民族の多くは、夏は北方で、冬の寒さが厳しい季節にはエステルスーン領の中心辺りまで移動し、狩猟や採集、家畜の遊牧をして生計を立てていた。


しかし約百年前の事だった。


時は大戦時代───。


 覇権を狙う国、守る国、隙を突いて領土拡大を狙う国、報復する国・・・。


 この世の至るところで戦が繰り広げられていた。当ナディール王国は北からの侵略を防ぐ為、エステルスーン領と北方の間に、国境を分ける壁を建設する事になった。


 国境壁を建設する際、各少数民族の首長を交え、ナディール王国はある選択を迫った。


『北方を捨て、我が国の民となるのならば定住の地を与えよう。

しかし我が国の民となる事を拒むのならば、冬季に我が国へ民族で移動して来る事は叶わなくなる。

民となり税を納めるか、自由だが厳しい冬を送らねばならないのか。

さあ、どちらか選べ。』


 その選択により、ナディール王国の国民となる事を選んだ者は、エステルスーン領の国境付近に住み着き、痩せた土地ながらも農地を得て、それがやがて村となっていった。


 その一方で、北方で生きて行く道を選んだ者も多かった。信じる神が違う事や、『我らは自由の民』と言って国に属する事を受け入れられなかったからだ。


 例え自ら選んだ道だとは言え、農作物が育ち難く、冬の寒さが厳しい北方では生活が苦しくなるばかりだった。


 そんな北方の少数民族に対して、冬の寒さが厳しい時期の、南下してのエステルスーン領での生活を奪ったという負い目を感じてか、辺境伯は厳しい対応をする事は無かった。


しかし、いつまでも略奪を許している訳には行かない。そこで二度と略奪をさせぬよう、この問題にけりをつけるべく、王都から私が派遣される事となった。


────国の騎士団も遣わす意味


それは北方の少数民族の殲滅も厭わないと言うことだ。殲滅・・・それが一番確かな解決法かも知れない。


しかし、俺の私情かも知れないが殲滅は避けてやりたい。

ならば見せしめのために捕虜を処刑するか?

いや、北方に残っている少数民族は報復を考えるだろうし、略奪は無くならないだろう。


そしてもう一つの解決法として、北方を我が国の領土とし実効支配するか?

いや、こんな何も無い、税収も見込めないような土地は抱えているだけで赤字だな。


殲滅か、見せしめの処刑か、実効支配か・・・。他に手立てはないものか・・・。


 私は気分転換に、外の空気を吸おうと廊下を歩いていた。そしてふと窓の外に目を向けると、沈みゆく夕日が見えた。きっととこの景色だけは百年前と変わらないのだろう。そんなことを考えていた時だった。


「ライオネル王太子殿下、ご機嫌よう。」


 後ろから声をかけてくる者がいた。

───マリエッタ嬢だった。


マリエッタ嬢との会話はいい気分転換になった。新種の小麦に自分の名前を付けるとか面白い事を言っていた。


『ところで寒冷地でも育つという小麦はこの辺りでも育つのでしょうか?』


ふとマリエッタ嬢に問いかけられた言葉を思い出して、ある事を思いついた。

殲滅でもない、見せしめの処刑でもない、実効支配でもない。


───経済的支配だ。


寒冷地でも育つ新種の小麦の種子を、北方の少数民族に分け与え育てさせる。同時に栽培方法の技術指導もする。その代わりに種子料、技術料、新種の小麦を栽培出来る権利料、それに今までの略奪の損害賠償、慰謝料を含めて請求する名目で、収穫量の三割を毎年納めさせるのだ。


しばらくは食糧を前貸しという形で支給してやってもいい。犯罪者相手に支援は出来ないからあくまでも前貸しだ。


これでもかなりの温情をかけた方法だと思う。それでも首を縦に振らなければ・・・殲滅も致し方ない。

よし、今夜の会議はこの案を推し進めるか。


シュナイダー殿とグレーデン殿には少数民族の説得役として動いて貰うのが適任であろう。


さて、小麦の名前は何にしようか・・・。


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