23.足りない物
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翌日、エリーに相談した。医師や薬師になるには勉強も大変だし、中途半端ではいけないと思う。でも、騎士や兵士の治療に役立つ知識から学んで行きたいと。
「いいわよ。そうしましょう。」
すると意外にもあっさり受け入れられた。
その後エリーから王妃様を通して、新たに講師を迎えることになり、『戦の前線で役に立つ医学と薬学』をテーマにした授業が始まった。
ルーシィ先生も馬に乗るらしいと話をしたら、短剣術の授業の後に乗馬の訓練も組み込まれる事となった。
医学の授業では、エリーが取り寄せたゲンパーク・ランガックスギタ著書の、『新・解体書』を参考にしながら、体の仕組みから学び始めた。
しばらくは座学にて、騎士や兵士のよくある怪我や、疾病の症状、応急処置の方法、それに対応したポーションの処方などを学んだ。
座学がある程度進むと、実際に負傷した騎士の治療訓練も行った。
騎士団専属医師であるノートン・ブルックナー医師の医務室まで赴き、医師見習いのリカルド様に手ほどきを受けながら、体の部位別に包帯の巻き方、骨折したときの添え木の当て方などを学んだ。
エリーが手当てをした騎士の中には、「天にも昇るほどの幸せ者です。」とか、「もう、いつ死んでも悔いはありません。」とか言って泣き出す人もいる。
死んでもらっては困るから、わたし達が頑張っているのに。それにしても騎士の人達はよく泣く人達だと思った。
薬学の授業での、ポーションの調合実習は楽しかった。馬に乗り王族専用の森まで行って、薬草採取をした。直に薬草に触れ、香りを感じ、根、茎、葉、花、実を使い分け、出来上がった物を味見し、まるで調理実習のようにポーションを調合した。疲労回復の内服用ポーションは自ら飲んだりもした。わたしは聖女になるより薬師の方が自分に合っているのではないかと思った。でも、エリーと一緒に聖女になるって約束したからね・・・。
通常のお勉強に加えて、医学と薬学のお勉強と、乗馬もやるようになってからはとても忙しくて、毎日が充実し、気が付けば二年の歳月が過ぎていた。
そんなある日、エリーがわたしに問いかけた。
「マリー、私達に足りない物、何か気が付かない?」
わたし達に足りない物?最高で完璧なわたし達に?はて?
「うーん・・・。胸?」
「それは目覚ましい成長の最中よ!」
違ったか。じっとエリーの瞳を見つめる。
「うーん・・・。謙虚さ?」
「なによぅ。私に言っている訳?」
エリーが口を尖らせた。これも違うらしい。
「うーん・・・。わたし達が最高で完璧過ぎること?」
「何言ってんのよ。そういう事じゃなくて、制服よ。セ、イ、フ、ク!」
「制服?」
「そうよ。騎士には騎士の制服があるじゃない?私達も馬に乗ったり、森へ行ったりするでしょ。動きやすくてかわいい制服を作ろうと思うの。」
「制服!素敵な考えです!」
「でしょ?早速、服飾デザイナーを呼んでるの。授業後に打合せをするから、マリーも一緒に来てちょうだい。」
「はい!楽しみです。」
前世の高校ではブレザーだった。どんなデザインにしようかと楽しみにしていた。
授業後になり、王室御用達の服飾工房から、デザイナーのロゼッタ・ウインストン氏を迎え、制服作りの打合せをした。
打合せ中、エリーの機嫌は悪かった。
とびっきりかわいいデザインにしたかったらしいが、華美なデザインは真剣に剣を振るう騎士達の気が削がれてしまうし、王族専用の森へ入った時には、良からぬ者が潜んでいた場合、目立ちすぎるとの事でことごとくジェシカに提案を却下されるからだ。
「生地の色はオレンジ色で・・・。」
「なりません。」
「ここにレースをあしらって・・・。」
「華美過ぎます。」
「ここに大きなリボンを・・・。」
「却下です。」
「もうっ。何だったらいいのよ!
マリー、貴女だったらどのようなデザインする?」
派手で華美な色はダメ・・・。前世で着ていたブレザーの色を思い出す。
「色はモスグリーンはどうでしょうか?森にも溶け込みやすく、騎士達の神経を逆撫でる事はないでしょう。」
「採用です。」
装飾は無い方が良さそうだ・・・。
「装飾は極力抑えて、袖をパフスリーブ、襟だけにレース、ちょっとおしゃれなボタンをダブルにするくらいが制服らしいと思います。」
「採用です。」
馬に乗る時の事も考えなくちゃね。
「馬に乗る時用と、平常の時とスカートのデザインを変えた方がいいと思います。
乗馬の時はスカートの下に乗馬ズボンと乗馬ブーツを履き、スカートの介助の要らない丈を考えて短くします。」
「採用です。」
「それでは地味過ぎだわ。」
「姫様、今後騎士や兵士の治療や治癒に携わる機会が益々増えて参ります。
彼等は生きるか死ぬかの戦いをくぐり抜けて来た者達でございます。
華美な物はどうかご遠慮下さいませ。」
エリーは不服そうだったが、別途、フリフリのエプロンドレスを作ることで最終的には受け入れられた。
一月後に制服が完成した。
わたし達は一日の大半を制服で過ごすようになっていった。
エリーは「地味だけど気楽でいいわね。」とまんざらでもない様子だった。
 




