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あたしも聖女をしております  作者: 斉藤加奈子
第一章

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19.戦地より引き上げ隊②

誤字脱字報告ありがとうございます!感謝です!

 歴史の授業を受けている時だった。


珍しく王宮筆頭執事のベルナルドさんが学習室に訪れていた。


連絡事項があれば側仕えのメリッサに言うはずだし、授業を中断させてまで伝える事があるとは、ただごとではない気がする。


ルーシィ先生とベルナルドさんがひそひそと話をしている。


「────分かりましたわ。それは仕方ございませんね。」


「ありがとうございます。

 ───エリザベート王女様、騎士団から緊急の治癒の要請が来ております。いかがなさいますか?」


初めての治癒の要請だった。エリーは表情を引き締めた。


「もちろん参りますわ。ルーシィ先生、申し訳ございませんが、授業を中断してよろしいでしょうか?」


「ええ。もちろんです。あまり無理はなさらないで下さいね。」


「はい。ありがとうございます。

マリー!行くわよ!」


「え?あっ!はいっ!!」


慌ててわたしも立ち上がると、エリーと一緒に軽く一礼して学習室を去った。


学習室の外には、護衛勤務中の騎士とは違う騎士が一人控えていた。


「この者が知らせの騎士です。

さあ、ご案内して差し上げて。」


「はっ!ご案内致します。」


「急ぎましょう。」


エリーがそれだけ言うと、わたし達は駆けるように室内訓練場へ向かって行った。



 室内訓練場へ着くと、騎士団長のグレゴール・ブロイド団長と騎士団専属医師のノートン・ブルックナー医師が出迎えてくれた。


苛酷な行軍だったのだと思う。そこには数多くの疲弊した騎士や兵士が横たわり、外傷だけでなく、発熱や咳き込んでいる人も多く見られた。


「ご足労いただきまして、誠に感謝致します。」


「挨拶は結構よ。どのような怪我を?」


「はい。左脚大腿部に深い刀傷を受けまして、初期段階で充分な治療を受けられなかったのでしょう。広い範囲で壊死が見られ、切断しなければ命が危うい状態です。しかし本人が脚の切断は拒否してまして・・・。」


「この者です。」


ノートン医師が目配せすると、医師見習いの若い人が、騎士の左脚に掛けられているシーツを捲った。


あれ?リカルド様だ。

何でこんな所に。と思ったが、話しかける様な場ではないので、負傷している騎士の方を見た。


 エリーはしっかりと患部を目視しているが、わたしは怖いので全体的に見る事しかできなかった。ただ左脚が土色に変色しているのだけはよく分かった。


 エリーは左脚側の、最も症状が酷い場所まで近づくと、手を組み祈り始めた。


「我らが唯一神で在らせられる女神

セディア神よ

我は御前で忠誠を誓う者なり

この清く穢れなき魂を以て祈り奉る我に

神の加護と治癒の御力を賜らん」


 するとエリーの組んでいる手がぽわっと光り始め、その手を患部へかざした。

いつ見ても治癒の能力は神秘的だと思う。


そんなことを思いながら見とれていたら、いつの間にかわたしの隣にリカルド様が来ていた。


「マリー姫も手伝ってくれないかな?

 患者の脚を軽く触れて『良くなれ。』と願うだけでもいいからさ。」


リカルド様はそっとわたしの耳元で囁くと、柔らかなイケメンスマイルを向けてきた。

一瞬だけ(本当に、女神に誓って、ほんの一瞬です。)見とれてしまったが、直ぐに我に返った。


「!! それもそうですね。わたしもお手伝いしなければ。」


慌ててエリーの側へ駆け寄ると、エリーは眉を苦しそうに歪め、汗をかいていた。

エリーが倒れてしまうのではないか?と心配になり、支えるようにエリーの背中にそっと左手を置いた。

そして負傷した騎士の左脚を、右手でそっと触れる。


 脚を切断だなんて、怖くて想像もつかない。しかもこの世界には麻酔が無いと聞く。

思わず身震いしてしまった。


 前世では車椅子があった。障害者年金とかいうものもあったと思う。車だって運転出来るらしい。


 でも、この世界で脚を無くして生きていくのは、前世の日本より大変だと思う。


 何とか治って欲しい。

この国の為に戦った人が、これからの人生を、大変な思いをして生きていかなければならないだなんて。


エリー。苦しいでしょうけど、頑張って。

この騎士を救って・・・。


わたしも心の中で、この騎士の左脚が良くなることを願った。


すると、苦しそうに呻いていた騎士は安らかに眠り始めた。一瞬心配になり、ノートン医師に目線を向けると、「眠ったようです。」と言ったので安心した。


再び目線を騎士の左脚に向けると、土色から、肌色へと血色が良くなっていた。


「おい、土色だった左脚が元の色に戻っているぞ。」


「本当だ!これは奇跡だ!」


「王女様が治癒を?」


「ああ。だから言っただろ?わが国の王女様は我々と共にあると。」


気付けば周りに人だかりができていた。エリーが褒められれば、褒められるほど、誇らしく思う。


わたしのエリーは凄いんだから!


左脚の怪我ももう一踏ん張りで治りそうだ。

エリー、頑張れ!あともうちょっと!傷よ!塞がれ!


そう心の中で呟いていると、エリーがふらっとわたしに倒れかかってきた。傷は完全治癒して、力尽きてしまった様だ。慌ててエリーを支えた瞬間、


「「「「「おお────!」」」」」


室内訓練場が割れんばかりの歓声が響いた。


「奇跡だ!完全治癒だ!」


「王女様は我々の為に力を尽くして下さった・・・。」


「なんて尊い・・・。」


泣きだす人もいる。

眠っていた騎士も気が付き、自分の脚が動くのを見て、声にならない声を上げて泣いていた。


エリーはこんなにも人の心を動かすのかと、より一層エリーに対して敬愛の気持ちを抱かずにはいられなかった。


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