18.戦地より引き上げ隊①
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本日は、一月に一度の騎士団全体集会が行われた。大訓練場にはおよそ二千人の騎士が並び、演台には騎士団長であるグレゴール・ブロイド団長が声を張り上げる。
「我等が忠誠を誓う!ナディール王国の王女殿下が!先日事故で負傷した者を!治癒の能力を使って!完全治癒してくださったのは記憶に新しい!
その、王女殿下が!我々のために!
不測の事態や緊急時には!協力を惜しまないとおっしゃっられている!」
「「「「「おおー!!!」」」」」
「王女殿下が?王族がこんなことをしてくださるなんて、信じられない。」
「まだ十二才だろ?なんて心優しいんだ。」
「俺、間近で治癒をしているところ見てたけどホント、凄かったぜ。みるみるうちに傷が塞がるんだ。」
「真っ先に駆けつけてくれてなぁ。生々しい傷に臆する事無く、対応してくれたぜ。」
「王女殿下が、ついてくれていたら怖いもん無しだな。」
「ああ。ありがたいな!」
「王女殿下のお気持ちに応えるべく!我々は更なる忠誠をここに誓う!!
全体、敬礼!!」
大訓練場に集められた総勢二千人の騎士は一同に、掲げられた王家の旗に向かい敬礼をした。
エリザベートを称賛する声は、エリザベートが完全治癒をしたあの日、居合わせた二十数人の騎士から、遠征している隊と警備中の隊を除いた二千人の騎士へと伝わり、やがて全ての騎士や兵士へと広がっていった。
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王女が騎士団へ緊急に治癒の必要な時には協力する、と公表されてから一ヶ月経った頃だった。
季節は凍てつく冬を終え、草花の蕾ほころぶ春を迎えていた。
そんなうららかな春の陽気とは真逆に、王城の室内訓練場には、さながら戦場のような様子が広がっていた。
三ヶ月にも及ぶ遠征から帰還したばかりの負傷した騎士や兵士で埋め尽くされ、痛みによる呻き声が響き、治療に当たる医師や医師見習い、手助けする騎士たちがあちこちと駆け回っていた。
「リカルド君。そちらは終わったかね?」
騎士団専属医師であるノートン・ブルックナーは、治療の手を休める事無く駆け寄った医師見習いに声をかける。
「はい、先生。疲労回復と、治癒力増強の内服用ポーションは全員に配り終えました。」
医師見習いのリカルドも話をしながら手伝う。
「新たに到着した部隊には神殿での上聖女の治癒が必要な者は何名ほどいる?」
「十六名ほどです。」
「合わせて三十八名か・・・。予算が足らんな。・・・仕方あるまい。
三十八名、全員神殿へ搬送するよう、騎士団へ伝えてくれ。神殿への献金予算は私が上へ掛け合う。」
「予算を掛け合う時は、私も立ち会わせて下さい。これでもランチェスター公爵家の次男ですので、話も通りやすくなるでしょう。」
「ああ、助かるよ。私は一人でも患者が助かるのなら、医師見習いの君のコネだって何だって使うよ。軽蔑するかい?」
「いいえ、全く。私もこの家柄と血筋はできるだけ利用してやろうと思ってますので。」
リカルドは少しだけ微笑むと、近くにいた騎士に、三十八名の負傷者を神殿へ搬送するように伝えた。
その時だった。少し離れたところから、ノートンを呼ぶ声がした。
「先生!!ノートン先生!!重篤な患者です!どうか見て下さい!!」
「直ぐ行く!」
診ている患者の治療を手早く終えると、呼ばれた方へと駆け寄った。
ノートンとリカルドは、そこに寝かされた騎士の姿に目を見張った。
左大腿部に深い刀傷を負い、広範囲まで壊死が進んでいる。動かそうとしてもほぼ動かない。
騎士も意識がもうろうとし、呼吸が荒い。熱が出ているようだった。深い傷までは効果の及ばない外用ポーションでは、役に立たなかったのであろう。
「リカルド君。見立ては?」
「壊死が広範囲に進んでいます。このままでは・・・。神殿の上聖女の治癒でさえも難しいでしょう。」
「うむ。では治療法は?」
「左脚切断が生きのびる道だと思います。」
「左脚切断のデメリットは?」
「患者が痛みとそのショックに耐えられるか?でしょうか。」
この世界には麻酔というものはない。外科治療は全て麻酔無しで行われる。
多額の献金を用意出来る者だけが、神殿へ行き、痛みのない上聖女の治癒を受ける事ができたのであった。
ちなみにこの国の上聖女で、治癒の能力を持つ者は最高で聖力五だった。あまりにも重篤な患者は神殿では受け入れてはくれなかった。
「その通りだ。別室で左脚切断手術を行う。準備の手配を頼む。」
意識ももうろうとしていた騎士が、左脚切断と聞き拒否をしだした。
「嫌だっ!頼むっ!脚を切らないでくれ!
脚が無ければどうやって生きていけばいい!
家族にも迷惑がかかる!」
貴族階級で無ければ、脚を切断されてしまうと就ける仕事も無く、生きていくのは難しいであろう。
いや、貴族階級でもお荷物扱いとなるのが目に見えている。
「しかしこのままでは貴方の命さえも危ういのですよ!」
「どうか、どうか切るのだけは・・・助けて下さい・・・。」
リカルドとしてもどうにかできるものならどうにかしてやりたかった。
しかしこのままでは命に関わる。
それに何とか体力が持つうちに切断しなければショック死の可能性も増すばかりだった。
献金を用意できず、聖女の治癒が受けられない者たちを助けたくて、医師見習いになったリカルドであったが、それだけではどうにもならない現実に奥歯を噛んだ。
すると隣で手伝っていた一人の騎士が声をかけてきた。
「王女様に頼んでみてはいかがでしょうか?
王女様は協力してくださるとおっしゃって下さいました。」
「しかし、ここまで重篤だと王女様でも無理だ。」
「王女様が無理ならば、この者も諦めがつきます!」
諦めとは、脚を諦めることなのか、それともこのまま家族に迷惑をかけることなくその命を諦めることなのか。
そこまでは分からなかった。
「分かった。王女様に協力を求めよう。」
ノートンがそう言うと、一人の騎士が駆けて行った。




