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第6話 皇女の輪舞

◇を境に視点が変わってます。

前後はリリィヴァイス(中身ベーゼントエーデルシュタイン)の視点になります。

『神器ミストラルスペンサー』


 目の前に立ちふさがる愚かなる者達に向けて、無秩序に短剣を振り払う。

 ミストラルスペンサーによって切り払われた空間は風を生み、斬撃として飛ばすことが可能だ。


「回避!」


 赤髪の大男、この女の記憶ではウォルターと言ったか、なかなか勘の働く男のようだ。

 ウォルターの声に反応した3人、ノエル、ヘイス、ルディの3人が回避行動を取り始める。


『甘いぞ、ウォルター!』


 私が放った斬撃は軌道を変え、避ける4人を追従した。

 神器には様々な特性があり、このミストラルスペンサーであれば風を操る事に長けている。


「ふんっ」


 ウォルターは大剣を振り下ろし斬撃を砕く。

 壁際に逃れたノエルは、待ち受けた斬撃を寸前で回避し壁にぶつける。

 ヘイスは魔法を使い、私の斬撃を相殺していく。

 至近距離で回避するルディの動きについていけなかった斬撃は、軌道を反らされ壁面に激突した。

 

『ほう』


 嬉しい誤算に私は口角を上げる。

 どうやらこの娘、リリィヴァイスは良い部下を持っているようだ。

 このレベルの相手であれば、慣れない体のリハビリにもちょうど良いだろう。

 胸のでかい女人の体が、こうも動きずらいのは予想外だったしな。


『おっと』


 余計なことを考えていると、剣を振り上げたウォルターが目前まで迫っていた。


『神器アナベルリッター』


 私の周りを舞っていた神器の一つ、長剣のアナベルリッターが地面に突き刺さる。

 すると、その地面からフルプレートの騎士が現れ自らの長剣を操り、ウォルターの攻撃をいなしていく。


「んなの、ありかっ!?」


 ウォルターがアナベルリッターと競り合う最中、私の死角からノエルとルディが迫る。


『神器カテドラルヴァイオレット』


 縦長いクリスタルのような形状の神器が周囲に砕け飛ぶ。 


「クレッセントイージス! 踏み込むな!!」


 ルディの言葉に、ノエルは踏みとどまる。

 さすがは獣人族だ、本能で悟ったか。

 私は腕を上げ指輪の形をした神器を、砕け散ったクリスタルの破片に向ける。


『神器レナードマライカ』


 指輪から放たれた幾つかの光の瞬きが、砕け散ったクリスタルを反射板にしてルディとノエルを牽制する。

 本来であればこの2つは単独で応用するものだ。

 神器カテドラルヴァイオレットは魔法を弾くためのもであり、神器レナードマライカは光の光線を飛ばすだけである。

 本来こういう使い方をするには所持者が2人で協力するしかないのだが、なんともまぁ無茶苦茶な女だ。


「くぅ、これでは君主の元に近づけません」

 

 それにしてもちょこまかと鬱陶しいな。

 私は方針を転換し、まずは敵の動きを制限する事にした。


『神器グレイシアサーマン』


 私は音叉の神器を手に取り鳴らす。

 聖域の中を音が反響しあい、それに合わせて周囲の気温が下がっていく。

 こ奴を完全に活用するためには、ある程度温度を下げる必要があるからな。


「思うようにはさせませんよ!」


 意味がわからずとも私が何かしようとしているの事に気がついたヘイスは、炎の魔法を使い抵抗する。

 無駄な抵抗をする、単純な力比べで神器とリリィヴァイスの魔力の組み合わせには勝てんよ。


『神器フレイムタイラント!』


 もう1人の神器使いアルフレッドは剣を振るい、周囲の気温をあげ中和させる。

 そういえば、こやつの存在を忘れておったわ。


『私の意図に気がついたか...いや、タイラントの奴が教えたのか』


 しかし、これも私の思い違いであった。

 目の前にいるアルフレッドの雰囲気は、リリィヴァイスの記憶にある者とは違う。

 寧ろ、私が知っているタイラントに近い者であった。


『ベーゼント! 戯はよせ、その娘の体を返すんだ!』


 数百年ぶりの旧友との邂逅に胸が滾る。

 

『ははっ、貴様もその小僧を乗っ取っておるではないか!』


 おそらく持ち主であるアルフレッドが意識を手放したのだろう。

 タイラントは私と違って優しい奴だからな、私のように無理やり主導権を奪ったりはしない。


『俺はちゃんとアルに許可を取っている!』


 タイラントは自らの肉体である神器に魔力を流し、温度を上げていく。


『まぁいい、今は久しぶりの再会を楽しもうではないか!』


 私は周囲に舞うミストラルスペンサーに音叉を当て、音を鳴らす。

 空中に無数の氷の礫が発生し、それらが風に運ばれブリザードの如くタイラントに迫る。


『くぅ!』


 タイラントは、残り少ないアルフレッドの魔力を絞り出し爆炎を起こす。

 側にいたヘイスはも協力し、なんとかブリザードの攻撃を耐える。







「このままではジリ貧です!」


 圧倒的な力の差を前に、ノエルの額に汗が浮かぶ。


「どうするブレイブヴァーミリオン? 俺が獣化してもデッドエンドディーヴァをどうにかできる気はせんぞ」


 こんな状況でも、ルディは平然としているように見えた。


「むぅ」


 アナベルリッターから距離をとったウォルターは思い悩む。

 どうやらあれは、距離が離れるとこちらには追ってこないようだ。


「どうにかしたとしても、その後が問題か...」


 リリィヴァイスが選んだ4人には、それぞれ隠し球がある。

 ルディは獣化、ノエルは吸血鬼化によりそのスペックを上昇させる事が可能だ。

 ヘイスにも禁術があり、その分の余力は残しているだろう。

 これにウォルターが本気を出せば、一瞬だがリリィヴァイスに迫り得るかもしれない。

 だが、リリィヴァイス本人を助けるとなると皆目見当もつかないのである。


「みなさん、私の作戦に協力してくれませんでしょうか?」


 ウォルターが声の方向に視線を向けると、金髪の少年が立っていた。


「君...貴方様は?」


 少年の衣装を見て、貴族位であろうと察したウォルターは言葉を言い直す。


「私の名前はルーファス・アブレイズ=オウサム・チェックメイトオーシャン、リリィ...リリィヴァイス皇女殿下を助けるために協力して欲しいのです」


 太子のルーファスは、友好国の一つであるアブレイズ皇国の代表として、皇帝の葬儀のために早くから招かれていた。


「太子、お待ちください! 危険すぎます、ここは逃げましょう!!」


 慌てて駆け寄ったルーファスの従者は、主人であるルーファスの行動を止めようとする。


「ダメだ! リリィをこのままにはしておけない、それに、ベーゼントだったか、アレを止めなきゃコイツにも怒られそうだしな」


 ルーファスは腰にぶら下げた剣に視線を落とす。

 それを見たウォルターは、一目でそれが神器であると悟った。


「皇帝陛下の状況を見る限り迷ってる時間はなさそうだ...アブレイズ皇国の太子殿下よ、我らはどうすればよろしいでしょうか?」


 手詰まり状態であったウォルターは覚悟を決め、ルーファスに指示を仰ぐ。


「緊急時ですので呼び捨てで、それとお互い敬語はなしでいきましょう」


 ノエルやルディもルーファスの側に駆け寄る


「それと方法ですが、リリィを元に戻すために僕が接触する必要があります、皆さんにはそこにたどり着くために協力して欲しいのです」


「わかった、俺たちが必ずルーファスを殿下の元に贈りとどけよう」


 素早く作戦を立てたウォルターは、3人にそれぞれの動きを伝える。







『どうした、タイラント!』


 防戦一方のタイラントは苦悶の表情を浮かべる。

 アルフレッドが大人であったら、そうでなくてもせめて万全の状況であれば、もう少しは楽しめただろうな。

 旧友と本気でやり会えなかった事を残念だが、仕方あるまい。


『さて、そろそろ決着をつけようか』


 私は音叉を鳴らし、この戦いの決着をつけようとした。


「やらせん!」


 振り向くとウォルター達が戦いに乱入しようと、こちらに向かってきているのが目に入る。


『無駄な事を』


 私は音叉を左手に持ちかえ、指輪をつけた右腕をかざす。

 神器レナードマライカは光を放ち、神器カテドラルヴァイオレットを介し、ウォルター達に迫る。


「主君の体を返してもらう...!」


 先頭に飛び出たノエルは上着を脱ぎ捨て、地面にレイピアを突き立て跪いた。

 ノエルの着ているシャツの背中の部分が弾け飛び、そこから溢れ出た闇の翼が光を飲み込んでいく。


『そういえば吸血鬼の血が混じっていたのだったな!』

 

 私を睨むノエルの瞳は赤く光り、ショートカットの青みがかった金髪は、ロングヘアーのピンクの混ざった金髪に変化し、息を吐く唇から牙を覗かせた。


『しまっ...』


 その退廃的な美しさに油断した私は、一瞬の隙を突かれる。

 ノエルの横を獣人化したルディが追い越す。

 金に輝く美しい毛並みを風になびかせた1匹の豹が、切り裂くようなスピードで駆け抜ける。


『神器アナベルリッター!』


 ルディは最初から狙いを定めていたようで、アナベルリッターが剣を構えるよりも早くそのまま突進し押し出していく。

 このチャンスをタイラントは逃さなかった。


『神器フレイムタイラント!』


 炎の塊が私の頭上から降り注ぐ。

 タイラントの奴め、さすが勝負所がわかっているな。

 残った全ての魔力を注ぎ込んだか。


『神器グレイシアサーマン!!』


 音叉を振り上げ炎の落下を塞きとめる。

 いくらこの娘の魔力の量が異常とはいえ、これでは耐えられぬ。

 私はここでようやく後手に回されている事に気がつく。


『神器ベーゼントエーデルシュタイン!!』


 さすがに遊びすぎたかと、私は炎の塊を吸収しようと自らを起動する。

 私がまだ焦りを感じずにいられるのは、この切り札があるためだ。


「禁術シーリングエンコード」


 周囲を舞っていたベーゼントエーデルシュタインが震える。

 魔法によって阻害されているのか挙動が定まらず、吸収するどこか外に魔力を放出してしまう。


『はぁっ!?』


 私は素っ頓狂な声を上げると、タイラントの後ろのヘイスが片手でメガネをクイッとあげ笑みをこぼす。

 くそっ、あのぼっちメガネめ! 何をやったか知らんが後で覚えていろよ!!

 焦りを感じた私は、目前にウォルターが迫っている事に気がつく。


『神器ジェラルドペネトレイト!!!』


 一撃必殺の槍がウォルターに向かって飛んでいく。

 ウォルターはギリギリまで槍を引きつけると、体を反らせて穂先を自らの肉体に滑らせるように薄皮一枚で回避し、槍の横っ面をその大きな剣で弾き飛ばす。

 ジェラルドペネトレイトの推進力を無理やり力技で弾き飛ばすとか、あいつは人間か!?


「後は任せたぞ! ルーファス!!」


 ウォルターの後ろから金髪の少年ルーファスが現れる。


『神器ミストラルーー

「神器アーサーエタンセル!」


 私の神器をルーファスの剣が弾き飛ばす。

 くそったれ! こいつも神器持ちか!!

 ルーファスはそのまま踏み込み私の懐に入り込む。

 このままでは刺される。

 そう思った瞬間、ルーファスは剣を捨て両手で私の頬を掴む。


「リリィ! 戻ってきてください!!」


 ルーファスは私の唇に触れると、自らの魔力を私に押し流す。

 もはやここまでか、ルーファスの魔力に絡め取られ引き上げられたリリィヴァイスの精神が、私から肉体の主導権を奪っていく。

 敗れはしたが、なんと心地のいいことか。

 私は静かに目を閉じ眠りにつき、その肉体を本来の持ち主へと返した。


ブクマありがとうございます。

次で一旦区切りになります、ここまで付き合ってくれた人に感謝。


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