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第5話 皇女と魔王

後半◇以降は視点変わってます。

「どうしたアーロン? 貴様、口だけか?」


 懐に入り込んだ私は、アーロンに向かって剣を振り払う。

 私の攻撃はアーロンの剣に受け止められるが、脚を振り上げ相手の頭部にめがけて蹴り込む

 アーロンは腕をあげ頭部へのダメージを防ぐ。


「テレスティアルラスター!」


 私の足元からアーロンに向かって光が伸びる。

 アーロンは咄嗟に反応し体を反らすが、一筋の光が頬を切り裂く。


「ぐぅっ!」


 私はそのまま光線を操作し、アーロンの首を切り落とそうとする。

 すかさずアーロンは私の胴体に蹴りを入れ弾き飛ばす。

 私はダメージを受け流すために、アーロンに蹴られるより先に後ろに飛ぶ。

 その際、地上から足が離れてしまい魔法が解除されたために光の筋が消える。


「チッ!」


 この魔法はやっぱり最初の攻撃で仕留めないとダメだな。

 テレスティアルラスターは、1撃目は光の魔法による直線の刺突攻撃、2撃目は伸びた光の筋で対象を切断する斬撃攻撃である。

 難点は1撃目から2撃目に移るまでの時間で対処が出来るという事と、私が一度でも地上から脚を離すと魔法が解除されるという事だろう。


「リリィ、相変わらず気の強い女だ」


 アーロンは頬に付いた血を指先で拭う。

 実力の差は明白、私は傷一つ負っていないが、アーロンはもう体のいたる所に傷を作っている。


「えぇい、ちょこまかと、大人しく切られろアーロン! 貴様では私に勝てぬ!!」


 アーロンはどうしてこの程度で叛逆を起こそうと思ったのか。

 アルの命令に士気は上がり、全体の戦況はすでにこちらが有利だ。

 交戦中の私の従者4人も、余裕を持って立ち回っている。

 私というイレギュラーのせいもあるだろうが、それでも結果は変わらないと思う。

 なぜならアーロンならば、ウォルターのように自分の同等やそれ以上の騎士がこの国にいる事は把握しているはずだ。

 この戦いが始まる前に感じた違和感は私の中まだ消えない。

 そのせいで少し焦っているのかもしれないと、反省しつつ呼吸を整えていく。


「認めようリリィ、今の私では君には勝てないと」


 卑しく笑うアーロンの顔には、昔から嫌悪感しか感じぬ。


「だが、これならばどうだ!」


 アーロンは武器を捨て、自分の胸の中に手をねじ込む。

 私の頭の中に警笛が鳴り響く。


「ゲイルエアレイド!」


 私の詠唱と共に、上空から風の刃が地上に降り注がれる。

 もはや、周囲の状況など気にしていられるか、あれはそれほどまでに危険だと私の直感が囁く。


「来い! ベーゼントエーデルシュタイン!!」


 アーロンは自分の体の中から身の丈より大きな剣を引き抜くと、上空から降り注ぐ風の刃に向かって振り払う。

 すると信じられないことに、私の展開した魔法は全て、奴の剣の纏う闇に飲まれていく。


「なっ!」


 一体何が起こった?

 いや、答えは明白か、あんな事ができる武器は決まっておる。


「...神器」


 誰が呟いたか、その声に交戦中の敵味方も距離を置き戦闘を中断した。


「なぜだ、なぜ貴様が神器を持っている!」


 奥の祭壇から神官長が叫ぶ。

 疑問に思うのは当然である。

 何故なら、あやつが我が国の神器を持っていないのは皆が知る所だからだ。

 私はその答えに見当がある、他にも何人かは気づいた者がいるだろう。 


「それは、他国の神器か?」


 たどり着く答えはそこしかないだろう。

 すでに使者に紛れ、我が国に侵略してきた他国の兵士達を見れば答えは明らかである。


「流石だリリィ、先代の皇帝...お前のクソ親父のエドガーは俺に神器を与えなかった!」


 馬鹿かこやつわ、私でも与えぬわ阿呆。


「だが、見てみろ! 俺はこうやって神器を手に入れた! もう、お前には負けぬ!!」


 アーロンは私に向かって剣を振り払う。

 この攻撃に直接触れ合うのは危険な気がする。


「ライトニングエッジ!」


 私は検証のために雷の刃を飛ばし横に跳ねる。

 案の定、私の雷の刃はあの剣に吸収されていく。

 ならば、これならどうかな?


「ハーミットピアッシング!」


 アーロンの影、死角から闇魔法の刺突攻撃が伸びる。

 しかし、攻撃が直撃しようとしたその矢先、私の魔法は吸い込まれるかの如く剣の方向に軌道を反らされた。


「自動防御機能とは恐れ入る」


 さて、どうやってあれを攻略するかな。

 やはり本体を直接斬るしかないのだろうが、あの剣と刃を交えたくはない。


「イグニッションバーストォォォ」


 私が頭を悩ませていると、アーロンの足元から爆炎が吹き上がった。

 一気に吸収できないところを見ると、さすがの神器も同じ神器相手にはやはり苦労するみたいだな。


「姉様! ご無事ですか!!」


「アル!」


 流石はアル、丁度いいタイミングだ、あとで目一杯甘やかしてやろう。

 私は振り向き、駆け寄ってくるアルと交差する。


「皇帝陛下よ、しばしここは任せる、後、今回の武功による褒賞、先払いで頂くぞ!」


「へっ!?」


 アルがアーロンを止めている間に、私は一気に赤絨毯の上を真っ直ぐに駆け抜ける。

 祭壇の手前で跳躍し手前の祭壇に飛び乗ると、母上の穏やかな死に顔が目に入った。

 母上が心置きなく逝けたのは、きっと、アルのおかげだろう。

 その隣では、私が何をしようとしているのかに気がついた神官長が口を開く。

 だが、もう遅い、私は再び跳躍し奥の祭壇へと飛び乗った。

 アルの時とは違い、祭壇にあったいくつかの神器が煌めく。

 悪いが武器を選んでる余裕はないし、試練を受ける時間もない。


「面倒だ! 纏めて可愛がってやるからさっさと私の元へ下れ!!」


 私は自らの魔力を祭壇の上で一気に放出していく。

 その魔力に反応した10本の神器が台座から引き抜かれ、私の周囲を均一化された動きで舞い踊る。


「あわわわわわ」


 それを見た神官長は泡を吹いて後ろに倒れる。

 受け止めた後ろの従者はナイスキャッチだぞ!

 私を見ていた者達は、驚愕で口が開けっぱなしになる者、衝撃に目を見開く者、反応は様々だ。

 その中でも私の従者はというと、ルディは腹を抱えて笑い、ウォルターは頭を抱えていた。

 ウォルターは近い将来、多分禿げるな。

 ヘイスの奴は冷静を装っていたが、冷や汗が吹き出しておるのが隠せておらんぞ。

 ノエルは私の魔力に反応したのか、恍惚とした表情で剣を振るっていた。

 あやつだけは、血を与えてる時もたまに怖くなる時があるのだが、私の気のせいだろうか?


「さて、そろそろかな」


 私は短剣のような神器、ミストラルスペンサーの力を借りて、祭壇の上から風に乗ってアルの隣に降り立つ。


「さすが姉様です!」


 アルは目を輝かせ喜ぶ。

 見たか弟よ、これが姉の壁だ!!


「うぉぉぉおおおおお!!」


 アーロンの剣が、捲き起こる爆炎を全ての飲み込んだ。


「はぁ、はぁ、見たか! 全て飲み込んでやったぞ!!」


 ふむ、やはり神器と言っても持ち主次第ということか。

 アルはまだ若いといっても皇族だ。

 皇族の魔力は平民はおろか、貴族と比べても大きく差がある。

 しかもアルは、今日一つの壁を乗り越えたのか、覚醒しつつある力の端を覗かせた。

 このまま弟に任せても良いかと思ったが、やはりアルは辛そうだ。

 手負いのまま戦っているのもあるが、先ほどの魔法でもう魔力は限界だろう。


「アル、下がっておれ、あとは私がやる」


「はいリリィ姉様! 正直、もう限界でした」


 アルは後ろに下がり、自らの従者に体を預ける。


「はぁっ? なんだそれは!!」


 アーロンは私の周りをくるくる廻る神器を指差す。


「阿呆、貴様と同じ神器に決まっているだろう」


 爆炎に遮られていたせいで見ていなかったとは言え、神器持ちなら普通はわかるだろう。

 本当にバカかこいつ、こいつを騎士団長の1人にしていた我が国が少し心配になったぞ。


「なっ、何!?」


 アーロンは間抜けな面を晒す。


「これでもう憂いはないな、さっさと終わらせるぞ」


 そっけない私の言葉に怒ったのか、アーロンは私に向かって飛びかかる。

 勝負は一瞬だった。


「神器ジェラルドペネトレイト」


 槍の形状をした神器をアーロンに向けて振り放つ。

 神器ジェラルドペネトレイトは、アーロンの持っていた神器すらも弾く。

 その勢いのままアーロンの心臓を一突で貫通し、聖域の壁に突き刺さり止まった。


「あっけない最後だったな」


 全てを飲み込む神器とはいえ、魔力で上回る私が同等の神器を扱えばこうなるのは当然だろう。

 勝負が終結したと知った反逆者達は武器を捨て投降した。

 それに加担した他国の者達は自殺を図るが、周囲の者達が抑え阻止する。

 アルも周囲の者達に指示を出し、みんな戦いは終わったものだと感じていた。

 私も疲れていたのか息を吐き、完全に気を抜いていたのだろう。

 突如現れた殺気に反応する頃にはもう遅かった。


「リリィ!」


 聴き覚えのある声が会場に響く。

 だが私には、その声の主を確認する余裕はなかった。

 声に反応した者達が私を見て目を見開く。


「ぐはっ」


 私は地面に血を吐き捨てる。

 遠のく意識の最中、私は必死に腹につき去った持ち主のいない神器、先程までアーロンが使っていた、ベーゼントエーデルシュタインを引き抜こうと足掻く。


『やっと手に入れたぞ、私に相応しい真の体を』


 頭の中に突き刺さった神器の声が響き、私の意識はそこで途切れた。







「リリィ姉様...?」


 アルフレッドは思わず地面に膝をつく。


『はははっ、ようやく手に入れたぞ、アーロンとかいう雑魚では魔力が足りずここまで侵食できなかったがこの娘の魔力であれば申し分ない』


 リリィヴァイスの体を乗っ取ったベーゼントエーデルシュタインは、恍惚とした表情で自らを眺める。


『しかし、この娘の魔力は...そうか、そういえば、何処かの国に魔王研究をしていた馬鹿な魔法使いがいたな』


 周囲の者達には、まだ何が起こっているのか頭の処理が追いついてない者も多かった。

 しかし、その中でもこの状況を理解した者達がリリィヴァイスとアルフレッドの間に陣取る。


「ははは、まさか、デッドエンドディーヴァの言うような展開になるとはな」


 金髪褐色の獣人はどこか楽しそうにナイフをくるくると回す。


「まったく、頭が痛いにも程があるぞ、殿下には発言も謹んでいただかないと」


 頭を抱えた赤髪の大男は鉈のような大剣を肩から降ろす。


「君主よ、今の貴女様は美しくない」


 男装の麗人、エルフは蔑んだ瞳でレイピアを構えた。


「皇女殿下...今、お助けします」


 杖を持った黒髪の眼鏡執事は、ネクタイを解き首元を緩める。

 彼ら4人の先には、神器を11本も持ち、人を超越した魔力を放つ存在が佇む。

 皇女リリィヴァイスと、従者4人達の戦いが切って落とされた。

ブクマありがとうございます。

前回短かかったのでちょっと長いです。


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