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第4話 老兵マキシム

 農村から出立し3日の時が立っていた。

 3日前に第四王女が宣戦布告し、北星騎士団を中心とした王国軍と反乱軍の本体が交戦を開始。

 こちらの思惑通り、ストレルカ王国側が保持する戦力の大半以上はそちらへと向かった。

 戦力差に物を言わせる王国軍に対して、反乱軍はジリジリと戦線を後退させる。

 このままいけば、間違いなく王国側が勝利するのは誰が見ても明らかだ。

 しかし、それはあくまでも囮であり、王を倒すのは私たち別働隊と、王都に控えているオーラン達である。

 我らが王都で行動を開始した時には、王都から引き離された王国軍はもう戻ってこれない。

 そうなると、王国軍が取る行動は、我らが国王を討つより先に王女を討ち取るか、王国に残る軍隊が我らを討つか、そのどちらかだ。


「デッドエンドディーヴァ、此方に向かっているのは俺たちだけではないようだ」


 私とルディは馬に乗り並走する。

 おそらくルディが感じた気配は、ディミトリー達だろう。

 もう王都は目の前だというのに、我らの動きに気がつくのが早すぎだ。


「このままいけば邂逅までどれくらいだ?」


 聞くまでもないが、おそらくディミトリーは追いついてくるだろうな。

 これだけ早く此方の動きを悟り、行動したという事は、そこで追いつき、挟撃に持ち込むつもりだと考えられる。

 ルディが感知する距離まで来ているという事は、先行させた早馬で王都側にも我々の動きを知らせているだろう。

 反乱軍の本隊に向かった王国軍がどう動くにしても、ここからは時間の勝負だ。


「敵はどうやら街道ルートから西門に向かっているようだ、このまま行けば俺たちもそこで激突する事になる」


 私たちは極力戦闘を避けるために、最初の2日は極力、相手の目につかないルートを進軍していた。

 そのため、現在は街道から逸れたところを進軍している。

 我々の方がディミトリー軍より前にいるが、王都近辺で迂回し西門に回る必要があるため、そこで追いつかれてしまう。


「西門は諦めて正門に回りましょう」


 別働隊の指揮官が私に提言する。

 我らの動きがバレたという事は、既に王国側は正門にも兵を配置しているだろう。

 思い切りの良い国王であればマキシムを正門側に配し、我らが正門で戸惑っている隙にディミトリーを迂回させて挟撃させるだろうし、その逆も然り。

 ならば、ここは相手の想定していない選択をするべきだろう。


「いいや、このまま突っ切る!」


「へ?」


 私の進言に指揮官は素っ頓狂な声を上げる。

 当然だろう、数十メートルはある門壁を超える事ができるのは東西南北に作られた四つの門のみ。

 このまま突っ込んでも、壁に激突するだけだ。

 だからこそ、相手の裏をかける。


「私が先頭に出る! お前達はこのスピードのまま私に後に続け!!」


 戸惑う指揮官を置いて私は前に出る。

 もはや、説明している時間はない。

 なぜなら門壁はもう目前にまで迫ってきているのだから。

 側道を抜け開けた所に出ると、街道を走るディミトリーの部隊らしき者達の土埃が見えた。


「悪いな、ディミトリー」


 私はそう呟くと、左耳のイヤリングに手をかける。


「神器エスターエストレア!」


 手を突き出し空に掲げたエスターエストレアは、発光しそのまま天に伸びる。

 光によって貫かれた雲の隙間から、小振りの隕石が門壁に向かって降り注いでいく。

 隕石によって、あっという間に門壁の一部が破壊され道ができる。


「は!?」


 反乱軍の兵士たちが驚くのも無理はない。

 隕石を引き寄せる神器など、ぱっと見では反則にも程がある。

 しかし、これは少し使い勝手が悪いのだ。

 まず扱うのに魔力を大量に喰らうので、かなりの時間を要しチャージしなければない事。

 また、チャージした量によって引き寄せる距離や大きさも変わる。

 そして、もっとも欠点なのが、先程の隕石のスピードであれば、私やルディくらいのレベルになれば回避できてしまうのだ。

 それでも、門壁みたいな動かない的には無類の強さを誇るので、使い所は多い。


「惚けている場合ではないぞ! このまま王都に突っ込み、オーラン達と合流する! みな私の後に続け!!」


「「「おぉっ!!」」」


 隕石によって崩された門壁の瓦礫の山の上を駆け登っていく。

 さすがは北方の軍馬、雪や氷と言った足場の悪い所で鍛えられているだけの事はある。

 これだけの距離を走り、よくここまで持ってくれた。

 王都を駆け抜け、王城まであと少し。

 既に街中にも爆煙が上がっている事から、オーラン達も予定通り行動を開始したようだ。


「デッドエンドディーヴァ!」


 ルディの声に反応した時は遅かった。

 神器を展開するより早く、私の乗っていた馬の胴体を雷が貫く。

 何とか直撃する前に飛び降りたものの、馬の方は虫の息だった。

 せっかくここまで運んでくれたと言うのに、すまないと心の中で追悼する。


「ルディ! お前は先に行け! ディミトリーがそちらに行ったら私が行くまで耐えよ!!」


 私の前に、重厚な甲冑を纏った初老の男性が立ち塞がる。

 その立ち姿からも、男が歴戦の戦士であるのは誰に目にも明らかだ。


「お嬢さん、見たところ貴女が一番危険そうだ、ここで足止めさせて貰う」


 一目見ただけで、この男が誰か、直ぐに把握できた。

 北星騎士団団長マキシム。

 自らの身の丈をも上回る芯の太い槍を片手で持ち上げ、片方の手には、自らの全身も覆い隠せそうな巨大な盾を構える。

 その迫力に肌がピリつく。


「ふふん、いいのか? 私をここで止めても王が落とされれば意味がないぞ?」


 私は揺さぶりをかけるが、マキシムは全く動じた素振りを見ない。


「問題ない、うちの副団長は若いが、実力は確かだからな」


 言われなくても知っているさ。


「故に、私は貴女との戦いに集中させて貰おう」


 マキシムの手に持った槍に雷が走る。


「神器ヴェロニカグロム!」


「神器カテドラルヴァイオレット!」


 槍から放たれた雷撃をクリスタルが反射する。

 ベーゼントはレナードマライカと合わせて使っていたが、これが本来の扱い方だ。

 先程も、雷撃にもう少し早く気づいていれば間に合っていたのだがな。


「ふん!」


 マキシムは、反射された自らの雷を難なく盾で受け流す。

 単純に反射しあって時間を稼いでもいいが、向こうもそれには付き合ってくれそうにない。

 マキシムはそのまま盾を押し出し、此方に向かって突進してくる。


「神器ジェラルドペネトレイト!」


 私は盾ごと貫こうと、槍の神器を至近距離から振り抜く。

 しかしマキシムは、槍が盾に接触するギリギリで反らせて受け流す。

 その一連の動きの中で、今度は奴の持った槍が此方に向かう。


「神器アナーー


 アナベルリッターは間に合わぬ!

 私は咄嗟の判断で神器の展開を諦め、横に転がり敵の攻撃を回避する。


「見事な判断だ、しかし!」


 マキシムは手首を返し、突きを繰り出した体勢から横に逃れた私に向かって槍を振り払う。


「ぐぅっ!」


 何とか腰に差していた扇子を引き抜き、槍と自らの体の間に滑り込ませ直撃を防ぐ。

 普通であれば扇など簡単に破壊されるが、破壊不可能な神器同士だからこそ可能である。

 それでも、相手の力を殺すことはできず、建物の壁に向かって吹き飛ばされた。


「神器レナードマライカ!」


 壁に激突するよりも前に壁を破壊する。

 それと同時にマキシムに向かって光を放ち、敵のさらなる追撃を防ぐ。

 私たちは再び距離を取る。

 なるほど、神器が多ければ有利かと思ったが……本当の強者とはこうも強いのか。

 私はベーゼントより自らの神器の扱いが劣るのは理解していたが、マキシム1人にこうも押されるとは思ってもいなかった。

 ディミトリーと同時であれば、既にやられていたかもしれないな。

 自らの認識の甘さに反吐がでる。


「驚いたな、それだけの数の神器を使いこなすとは、お嬢さん、何者だ?」


 オーラン達使者は、私の情報は伏せているからマキシムが知らないのも当然だろう。

 だからこそ、バカ真面目に答えてやる必要もない。


「ただの白豹族の行商人……と言ったら信じてくれるかしら?」


 私は、わざと余裕を見せるために微笑む。


「なるほど、男心を擽るお嬢さんだ、謎が多いと解き明かしたくなるな」


 マキシムと私は、再び戦闘体勢を取り向き合う。

 この老兵の強さを肌で感じ、他の神器持ちと対峙するかもしれない部下達の事も気にかかったが、そんな余裕はない。

 私は目の前に敵を倒すべく策をめぐらせた。

ブクマ、評価ありがとうございました。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 神器や、主人公の口調、神器の魔法?の呪文がとても気に入り、いいと思いました。 [気になる点] 早く続きが読みたい [一言] これからも書きつづけてください。 お願いします。
2022/08/16 10:36 星宮 にゃあ
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