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Counter!!  作者: 大和尚
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「ふごっ!」



 俺は腹の痛みで起きた。

一瞬息が止まってたと思う。




「カズちゃん、起きた!?まだ?うーん、じゃあもう一回……」

「起きた!起きたぞ!詩織!!」



 詩織の物騒な呟きに慌てて身を起こした。

腹痛い。

顔も痛い。

鏡を見るのがなんとなく恐い。

あ……。




「俺、どのくらい寝てた!?アゲハ、タイヘーは!?」


「私、気合入れたから一分ちょっとくらいだと思う。お兄ちゃんとナツ姉が突入したよ!私達も行こう!!」


「お、おう。気合入れてくれたか。行こう!!」



 俺は何をしていたのかを思い出した。

俺の問いに答えてくれる詩織。

どうやら詩織は俺を起こすのにかなり気合を入れてくれたらしい……解る、顔と腹が痛いもの……。

まだ終わっていない!

俺と詩織は立ち上がって、建物へ急いだ。

念のために詩織は俺の後ろを走らせた。


 建物から音はしていない。

少なくとも銃声は聞こえて来てはいない。

詩織の『スリープ』がやってくれたか!?


 建物の前に倒れている者が三人。

持っていたはずの散弾銃の姿は見えない。

信兄か浅井さんが確保してくれたのだろう。

さすがに縛り上げる余裕はなかったようだが……。

寝ているから大丈夫だろう。

それより俺達も中へ急ぎたい。

アゲハとタイヘーが気になる。




「詩織、周囲に気を配りつつ中へ進むぞ」

「うん」



 俺は詩織にそう言いながらログハウスの入口に近づいた。

扉の周辺に人の気配は感じない。

たぶん大丈夫。


 俺は扉をこっそり開けた。

何の反応もない。

大丈夫かな?

あ、離れて天に伸びる数字で位置を確認しておけばよかったな……失敗。

そう思いながら扉から中を伺った。

居間っぽい……中央にテーブルと椅子。

椅子の側に男が二人倒れている。

俺達に気付いて警戒していたから座っていなかったのだろう。

テーブルに乗っているのはパソコンとマグカップが五つ、それから煎餅の袋とチョコレート菓子。

休憩中だった模様。


 信兄と浅井さんの姿はない。

それに後、三人いるはずだ。

俺は詩織に大丈夫だ、来いとジェスチャー。

詩織は恐る恐るログハウスへ入って来た。

部屋の中をキョロキョロ見ている。


 居間の奥に扉が二つ。

両方開いている……。

その一つから信兄が顔を出した。

良かった無事でいてくれた。

俺はその扉へ向かった。




「よくやってくれた」


「うん!」

「銃って怖いね……」



 信兄が扉の所から声をかけてくれた。

詩織は褒められて嬉しそう。

俺は素直な感想を告げた。

音だけで十分怖かったもの……その後に落ちる葉っぱもな。


 そして奥の部屋、その中が見えた……。




「えっ!?おい!タイヘー!?アゲハ!?」

「きゃあっ!!」



 俺の目に映ったのは床で倒れているアゲハとタイヘーの姿だった……タイヘーの顔は血塗れ、アゲハもスーツの下に着ている白いシャツが赤くなっていた……

床にも血の跡。

二人はロープで縛られていたのであろうが、今は外されていて床にロープが放られていた。

浅井さんは二人の側に立って俯いていた。

えっ!?

えっ!!

詩織から悲鳴があがった。

まさか……間に合わなかった?嘘だろ?

嘘だと言ってくれ!!

俺は目の前が暗くなり、崩れ落ちそうになった。

体から力が抜け膝をつく。

痛い。

膝が痛い……夢じゃない。

ははっ、何だこれ……。

またも四つん這いになってしまった。

体を起こせない。


 アゲハ……タイヘー……。




『出来るだけ急いでくれ』



 信兄の声が聞こえた。

誰かに連絡しているのか?

救急車?

まだ大丈夫!?

俺は顔をあげた。

そして血塗れになっている二人に向かって膝を進める。

お前ら……まだ間に合うのか?

死ぬなよ?




「死ぬんじゃねーぞ!おい!!」



 俺は倒れたままの二人に向かって吠えた。

詩織も俺の隣で女の子座りをして二人を見つめている。

茫然としている……俺と同じ気持ちだったのだろう。


 信兄が部屋から出て行った気配を感じた。

俯いていた浅井さんが肩を震わせている。





「きゅ、救急車!お医者さん!!カズちゃん!!」

「おう!」



「二人なら大丈夫よ?」

「えっ!?」

「二人共大きな怪我はしてないから」

「はっ!?」

「血はタイヘーの鼻血だったわ」

「……」


「大丈夫なの!?やったぁ!!」



 黙っていた浅井さんが俺達に向かって明るい声で言って来た。

大丈夫だと。

俺は思わず浅井さんを見上げて凝視してしまう。

えっ?はっ?

怪我をしていない?

でも血が……タイヘーの鼻血?

頭が回らない。

そんな俺の横で詩織が歓声をあげた。




「息も整ってるし脈も正常よ。たぶんだけどこれを取るためにタイヘーが顔を突っ込んだんじゃないかしら?」


「タイヘー……」



 浅井さんはそう言って血の付いているアゲハのシャツ、その近くにあるスーツの内側を見せてくれた。

内ポケットに入っていたのは白い紙。

式神に使うヤツだった。

ああ……縛られて動けないけどタイヘーがそこに顔を突っ込んで式神を取り出したんだな。

確かにアゲハの胸の辺りに付いてる血がタイヘーのものであるならば、そう推察できる。

アゲハはシャツに血を付けている以外、何ともなさそう。

胸で鼻血ブーか……。

良かった、良かったけど笑えるぞ?タイヘー。

後々まで語り継がれる事請け合いだな。

シンラや林さんに知られたらからかわれるに違いない。

そんな事を思ったら、俺もようやく力を抜くことが出来た。

座り込む、俺。


 あぁ、浅井さんが俯いていたり肩を震わせていたのはタイヘーの事を考えたり、俺の様子を見ておかしかったのかな……先に教えて欲しかったよ!結構酷いぞ浅井さん!!

俺の中にあったクールでカッコイイ大人の女性像が崩れていく。



「カズ君、ごめんね?私も驚いて立ち尽くしたのよ?」


「浅井さん、結構お茶目なんですね……」

「そ、そうだねー」



 俺の様子から思考を読んだのか、浅井さんがウインクしながら謝って来た。

えっと……自分だけ愕然としたのは悔しい?他の人にも味わってほしい?

そんな所だろうか?

うーん。

意外な一面を見た気がする。

詩織も驚いて浅井さんを見ている。

詩織にとっても意外だったのだろう。




「タイヘーは顔に殴られた跡もあるわ……ちゃんとアゲハを守ってくれたのね……」


「おぉ……」

「偉い!後で褒めてあげないとだね!」

「そうね」



 殴られたのは顔だけとは思えない。

腹なんかも殴られただろう。

タイヘー、男だな。

詩織、浅井さんもタイヘーが頑張ったであろう事を褒めている。


 その浅井さんの奥には三人の男が倒れていた。

ずっとそうだったんだろうけど、気づかなかった。

余裕がなかったんだな……俺。

外に三人、居間に二人、そしてこの部屋に三人、計八人だ。

俺が見たのも八人、全員揃っている。

縛られているのがアゲハとタイヘーだけの所を見るに、他に攫われて来た人ではなさそう。

悪い奴かな。




「アゲハとタイヘーはこのまま寝かせておきましょ」


「そうですね!今は休んでいてもらいたいです!」

「ええ。それじゃ私はこいつらを縛り上げていくわ」

「俺も手伝いますよ」

「んー、カズ君も頑張ったから休んでいていいわ、詩織ちゃんもね。私達は働くというほどの事はしてないから、これから頑張るわ」

「そうっすか。お言葉に甘えます」

「うん」


「ええ」



 浅井さんが動き出した。

俺と詩織は休んでいていいと言ってくれている。

正直助かる。

体はともかく心が疲れた。

浅井さんはアゲハ達を縛るのに使っていたであろうロープで倒れている者達を縛りだした。

俺と詩織はそんな浅井さんを見ながらアゲハとタイヘーの側で座り込んでいる。

良かった、本当に良かった。

ようやく実感が湧いて来た。

間に合ったのだ。






「敵だ!」



 ホッと一息ついた所に大きな声が聞こえた。

信兄の声だ。

敵?

それに続く声は信兄からあがらなかった。


 敵……俺は直ぐに立ち上がった。

既に浅井さんは部屋を飛び出している。

速い!


 外で争っている音も聞こえた。

信兄が戦っている?

詩織も立ち上がっていた。

俺は部屋を見回す。

浅井さんが縛り上げた三人……問題ない。




「行くぞ」

「うん」



 アゲハ達に問題が出ない事を確認して、俺と詩織も部屋を出る。

居間で倒れている二人を見ながら外へ続く扉へ向かう。

敵?八人以外で?いや外で寝ていた奴が起きた?


 俺は扉からこっそり外を見た。

信兄と対峙しているのは男だった。

外で寝ていた誰でもない。

長袖Tシャツに半そでオレンジTシャツを重ね着してジーパンを履いている男。

若い。

俺やタイヘーに近い年齢だと思われる男だ。

右手にナイフを持っている。

信兄は怪我をしている様子はない、ちゃんと警棒を手にして応戦していたようだ。

部屋を飛び出していた浅井さんがナイフを持った若い男の背後に回り込む。


 奴の退路は断たれた。

信兄が抑え、浅井さんが動く、良いコンビネーション。




「ッチ!」



 舌打ちが聞こえた。

三台あった車の側にオフロードバイクが一台。

そうか、後から上って来たんだな。

俺達の車が途中にあったはずだから、異変を察知しつつも向かって来たんだろう。

仲間意識が強いのだろうか?

いい方向で生かせばいいのに、そう思ったね。


 信兄が前に出て距離を詰める。

連動しているかのように浅井さんも背後で動いた。

信兄が振るった横なぎの一撃を後ろに下がって躱す男、そして背後から迫った浅井さんの蹴りをも跳んで避けた!

やる!!

やるぞアイツ!!

さすがに攻勢にでる余裕はなかったようだが、あの攻撃を躱しきるなんてアイツも只者ではない。

だが信兄も浅井さんも止まらない。

追撃に次ぐ追撃。

それでも仕留められないでいた。

俺は飛び出せなかった。

怖かったからだ。

何が?

仲間に失望されるのがだ……あの技量を持つ者達の中に入っていったら逆に仲間の足を引っ張りかねない。

今の俺では無理なのだ……。




「詩織、俺達では足手まといになりかねないから参戦はなしな。俺は寝ている奴らを縛っていくから、戦いに異変が起きたら教えてくれ」

「わかった。大丈夫かな?」

「あの二人だぞ?問題ないさ」

「そう、そうだね!」



 俺は戦いの監視を詩織に頼んで、八人全員を縛る作業に入った。

浅井さんがやってくれたのを除けば、残り五人。

こいつらが起きて参戦されたら状況がひっくり返りかねない。

俺は俺の出来る事をやる。


 俺はロープを手に取るのであった。

信兄、浅井さんで敵わないないなら俺達では勝てない。

悔しい、悔しいに決まっているがいずれ追いついて見せる。


 だから今は信じるだけだ。




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