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「弾の持ち方からして、散弾銃一、拳銃一かな」
「銃を持ってるのか!?」
「厄介ね」
「えー、ナツ姉避けてたんでしょー?」
「ああ、《東洋会》との初顔合わせの時か、俺も聞いた」
「うん。通路を縦横無尽に跳び回ってたって聞いたよ!見たかったなぁ」
「そんな事もあったわね」
「あっさりだーっ!」
道の先に林さんが送ってくれたログハウスの画像と同じ建物が見えている。
その前には車が三台。
建物の中にアゲハとタイヘーがいるのは間違いない。
他にも八名いるが敵かその他か……。
俺が力で調べた建物内部の武装状態を伝えると、信兄と浅井さんが渋い顔になった。
さすがに銃器まで持っているとは思っていなかったのだろう。
そんじょそこらに転がっている武器ではないからな。
そこまで治安は悪くないのだ。
修羅の国ではないのです。
銃器を厄介と言った浅井さんに詩織がツッコんだ。
ナツ姉ってのは浅井さんね。
浅井夏美、それが本名です。
俺はさすがに下の名前では呼べない……武術の先生だし女の人だからな。
そして詩織は浅井さんが活躍した《東洋会》襲撃事件の事を口に出した。
レストラン内部のさして広くもない通路での戦い。
賊は銃も持っていたし撃っていた。
でも浅井さんは無傷でほとんど倒したんだよねぇ……どこの達人かと思ったよ。
実際達人らしいんだけども。
俺は身を持って知ったけどな。
浅井さんの教え方はスパルタ教育です。
ええ……手加減はしてくれているんだろうけど、とても痛い目にあってますよ……今だに。
「佐久間さん達は、まだ時間がかかるな……」
「でも要求はどこにも出てないんでしょ?」
「ああ。誘拐って線はなさそうだ」
「なら……」
「何かを待っているのか?時間?夜?……何が目的だ?」
「時間と共に状況は悪化するのだけは解るわ」
「二人が危ない。やはり行くしかないか」
「ええ」
信兄と浅井さんがこれからの動きについて話している。
俺と詩織は隣で、それを黙って聞く。
ここは俺達が口を出す場面ではない。
建物、周囲の状況、それらが判明した今、判断を下すのは信兄だ。
そして最大武力の浅井さんが信兄の相談に乗ってくれているのだから、俺達は指示に従うだけだ。
二人の判断は突入、救出に傾いた。
時間、時間が問題らしい。
早く動けばそれだけアゲハとタイヘーの身の安全度が高まるようだ。
俺にはよくわからない。
「こちらの武装は、俺と浅井さんの拳銃二丁と警棒二本か」
「ええ」
「アゲハ達がいるからなるべく飛び道具は使いたくない所だな」
「そうね。私が中の様子を探って突入、アゲハ達の保護がいいかしら」
「君は大丈夫だろうが、アゲハ達は弾なんて避けられないだろう?縛られているかも知れないしな」
「私だって散弾は避けきれる自信なんてないわよ」
「本当か?」
「たぶん」
こちらの武器は信兄と浅井さんが持っているモノだけだ。
それを持っている二人が打ち合わせを始めた。
時間と共にアゲハ達の危険が増すという事に危機を感じているようだ。
もう突入なんて話にまでいっている。
「あのさ……私がやるよ?」
「詩織?」
「ん?あ、あぁっ!そうだったな!」
「そう、そうね!まだ慣れてないのね私達」
少し焦った感じの大人二人に向かって詩織が声をかけた。
俺は隣にいる詩織に視線を送る。
真面目な顔の詩織。
何やら決意を固めている感じだ。
やる?
俺は何をやるんだ?と聞き返そうとしたが信兄と浅井さんには解ったようであった。
慣れていない?
あぁ、異能、力か!
浅井さんの慣れていないって言葉から、ようやく何を示しているのはが解った。
俺も持っているのにね。
確かに未だに慣れていないかも知れない。
詩織は『スリープ』を使うと言っているのだ。
浅井さんが最大武力なら詩織は最大鎮圧力と言える。
人を傷つけずに場を収める事にかけて、これほど頼りになるものはない。
もっとも状況次第では怪我人も出るし、怪我をした事によって眠りから覚める例もある。
立っている人が眠って倒れ頭を打ったり、尖ったモノが刺さったりとかね。
あれだ、ラノベ的に言うと眠りそうな場面で自分の足にナイフを刺したりとかそんな感じね。
『へへっ』『お前!自分の足にナイフを!?』的な。
「詩織、頼めるか?」
「任せて!!」
「距離があっても効くってのはありがたいもんだな」
「それなら私達は距離をとった方がいいわね。直ぐ動けるように」
「ああ。それでいこう!」
「うん!あ、もうちょっと近づかないとダメかも」
「そっか、射程距離ってもんがあったな」
「たぶん百メートルくらいが限界だと思うの」
「俺は詩織の側にいるよ。何が起こるか判らないしな」
「カズちゃん!」
「……カズ、詩織を頼むぞ、守ってやってくれ」
「そうね。私達が離れた後、詩織ちゃんが無防備になっちゃうものね。カズ君お願い」
「あいよ!」
信兄が詩織に力を使ってくれと頼んだ。
詩織に危険が伴うがアゲハとタイヘーの事も考えての決断だろう。
シスコンだから悩んだろうなぁ……。
ちゃんと上司してるじゃん、俺の中で更に信兄の株があがった。
気合の入った返事をする詩織。
だが、この場から建物の中へ力を及ばせられない模様。
そうだった!有効射程距離は百メートルくらいだった!
ここから建物まで二百メートルほどだろうか?
いや、もうちょっとありそうだな。
つまり詩織は建物に近づかなくてはならない。
突入部隊の信兄、浅井さんは詩織が力を発揮するとともに動かなくてはいけない。
だから詩織が『スリープ』を使う時に距離をとっていなければいけないって事だ。
なら……俺のやる事は一つだけ。
不測の事態に備えて詩織の近くにいるべきだ。
銃を持っている奴がいる建物に詩織だけ歩いて行かせるなんて事はさせないぜ。
俺の言葉を聞いて嬉しそうに俺の名前を呼ぶ詩織。
ああ、嬉しそうに笑うなぁ……頑張ろう。
そんな俺と詩織を見て信兄が守ってやってくれと言って来た。
表情と口調から察するに葛藤があったのではないだろうか。
苦渋の決断、そんな気がする。
それもそうか……一番危なそうな場所をバイトであり妹、弟分に任せる事になるのだから……。
浅井さんが俺の肩を叩いて来た。
そして詩織の事を頼まれた。
俺は気会いを入れて返事をしましたとも。
まぁ、詩織の力が発動したら俺は寝る事になるんだろうけどね……。
方針は決まった。
信兄と浅井さんは俺達から離れて木々の中へ入っていった。
建物に近い場所、そして俺達から距離をとれる場所に向かったのだ。
俺と詩織は道を塞ぐように止まっている車の側で待機中。
信兄達から行動開始の合図があるまで待機だ。
「ふぅ……」
「カズちゃん、緊張するね」
「おう。まぁ、歩いて近づく、そして詩織が力を使い、俺は眠るだけ、簡単な仕事さ」
「ふふっ。そうだね」
「そうだとも」
「アゲハとタイヘー……助けようね」
「ああ」
俺は一つ息を吐き出した。
俺の心境を察してか詩織が話しかけてくる。
そうだな。
緊張するぜ。
だが俺の口から出た言葉は軽く、おちゃらけた言葉だった。
軽く肩を竦めて見たり。
詩織を無駄に緊張させる必要はない。
これから何があっても詩織の責任ではないのだ。
そんな俺の言葉を受けた詩織は笑った。
笑いはぎこちなかったが……。
そして詩織から決意の込められた言葉。
俺も同意見だ。
姿の小さくなった信兄、浅井さんが俺達に向かって手を振ったのが見えた。
俺は詩織を見た。
詩織は頷く。
さぁ、行くぞ!
歩き出した俺の後を追う詩織。
山を流れる風が木々の葉を揺らす音しか聞こえない。
建物からは何の音も聞こえてこない。
まるで人なんていないようだ。
俺は前に進む。
念のために道から少し離れた木の間を歩く。
草で一杯の地面。
少し斜度がある。
黙って歩く俺の手を温かな手が握って来た。
俺は振り向かない。
詩織の手だって解っているからな。
黙って握り返す。
この温もりは守って見せる。
俺の決意は揺るがない。
そろそろ有効射程距離に入ったか?
もうちょっとか?
まだか?
俺は木々の奥に見える建物を見ていた。
パァンッ!
静かな山に乾いた音が響いた。
俺は建物に背を向け詩織とともに地に伏せた。
大丈夫、どこも痛くない。
銃声と共に飛び出したであろう弾は当たっていない!
しかし、気づかれていたのか!?
車から直接建物は見えなかったはずなのに。
異能か?
いや監視カメラくらいあってもおかしくない。
悪い事をしようってヤツらだもの。
それくらいの対策は打っている可能性がある。
こっちに林さんがいればそっち方面の事は潰せたのに!
理由なんて後で調べるさ!今は自分の仕事を全うするだけ!!
「詩織、身を低くして前に進むぞ!」
「うん!」
俺は詩織を危険に晒すであろう提案をした。
建物にいる奴らに見つかってしまった。
そしてアゲハ達が人質として前に出される可能性が高まった事も理解していた。
だからこその提案。
危険ではあるが打ち合わせ通りに建物ごと眠らせるのが一番安全だと判断したからだ。
銃の命中率なんて解らない。
あちらには散弾銃もありそうだが射程距離は長くなかったはず。
距離を詰めるのは今しかないと思った。
詩織からの返事は明るい返事だった。
俺は詩織からの信頼を感じた。
俺は返事ではなく行動で答える。
匍匐前進といきたかったが、そんな慣れていない事はしなかった。
四つん這いで草の中を前に進んだ。
ちょっと恰好悪いに違いない。
また銃声が響いた。
目の前に葉っぱが落ちてくる。
俺達がいる場所は、確かにばれてしまっているらしい。
山の木々に助けられているようだ。
視線を葉っぱから建物へ移す。
建物から二人出て来ていた。
持っている長いモノは散弾銃だろう。
ヤバイ。
「詩織、どうだ!?」
「もうちょっと!もうちょっと前にいこう!」
「おう!俺の後ろを離れるなよ!」
「うん!」
俺は詩織に声をかけた。
今の所無事ではあるが、距離を詰められたら終わりだ。
散弾銃に抵抗する術を俺は持っていない。
殴り合いなら可能性はあるだろうが……。
詩織はもうちょっと前に行こうとの返事。
詩織が行くと言うなら前に進むだけだ。
俺は見栄だけで進んでいると思う。
詩織にガッカリされたくないんだ。
恐怖に打ち勝つ見栄って凄いよな?
心は押されていても動いてくれる体に感謝。
「そこにいるのはわかってんだよぉっ!!」
「大人しく出て来いや!」
「くそがっ!どうしてだ!?」
建物から出て来た二人組の声。
割と若そうな声。
そして柄が悪い。
チンピラっぽい声だった。
わかってるなら来いよと思った。
あ、違う声も聞こえた。
三人目か。
あっちもこちらを怖がっているのでは?
俺はそう思ったら少し心が落ち着いた。
返事などせずに四つん這いで前に進む。
「カズちゃん、ありがとう!『スリープ』!!」
俺は詩織の感謝の言葉を聞いた。
そして暗くなっていく視界。
山は静かな方が似合う……。




