2-25
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「酷いものだったわね」
「ああ、出るわ出るわ犯罪のデパートだったな、ありゃ」
「腹が立って仕方なかったですわ……あんなのが国の政策を立てていたかと思うと……」
「佐久間さん、私もそうでしたよ」
「今まで誰も手を出さなかったのが不思議なくらいだったわねぇ……」
「調べていた者は結構いたようだ。それに与党も押さえていたらしいぞ、手札の一枚としてさ」
「それも頭にきますなぁ……政治ゲームなんぞしおって!」
「まったくです。それで国民のみなさまに負担をかけていたかと思うと情けなくなってきますよ……」
「ですな!」
「ええ」
(みんな怒ってるね、カズちゃん)
(そりゃそうだろう、一応同じ公僕だからな。信兄達も批判されかねないもの)
(そんなもの?)
(人によるだろうけどさ)
(むー)
今、俺達は車で移動中だ。
ワンボックスカーに『特対』のメンバーが乗っている。
そしてとある政治家の話で盛り上がっている所だ。
浅井さん、信兄、佐久間さんが怒っている。
特に佐久間さんの怒りを感じる……車を運転しているのが佐久間さんなのでほどほどにしてほしい。
だが怒りを他所に安心安定な運転の佐久間さん、さすがです!
怒り方は色々だが間違いなく全員怒っている。
そう、《降臨の家》と癒着していた政治家である。
隠す事もせずに堂々と圧力をかけようとしてきた奴でもある。
バカでしたね、ええ。
まぁ、全て過去形なのですよ。
もう調べ終わって捜査の手が伸びて時間の問題という所まで来ています。
選挙応援で表に出て来たので見に行った。
腹が窮屈そうなスーツを着た男で、ワシに任せたまえ!その代わりわかっとるだろうね?ガッハッハ、そんな事を言いそうなおっさんだったよ!内面が表に出ているようなおっさん……よく当選できたと思うよ……誰かの力が働いたとしか思えなかったね!
ここぞとばかりに調べましたとも!
『人を殺した回数』
『殺人教唆をした回数』
『議員として賄賂を受けとった回数』
『議員として便宜を図った回数』
『《降臨の家》関係者で知っている名前の数』
『《降臨の家》幹部で知っている名前の数』
『《降臨の家》からの依頼で犯した罪の回数』
『外国人からの依頼で犯した罪の数』
エトセトラエトセトラ……。
調べるのが嫌になるくらい数字が出ましたね……しかも桁が多いものもありました。
ある建設会社との癒着が酷かった。
賄賂も相当額受け取っていた模様。
林さんが下調べをしていてくれたんですが、俺の知らない人物の名前でたくさん調べさせられました。
そのほとんどの人物で色々と数字が出たので、関係者は多そうです。
そして《降臨の家》どころか外国からの依頼で便宜を図ったり、犯罪をしていました。
驚きですよ!
売国奴ってやつです!
本当になんであんな奴が当選したのやら……怒りより呆れてしまいますぜ……。
「まぁ、もう時間の問題ですよ。上が好きなように動けと言ってくれましたからね」
「うちだけじゃなく他でも動いてるものね」
「良かったですよ、失望せずに済みました」
「ですね」
「ええ」
「誰が隠そうとしても、既に信用出来るマスコミにリークしたから世論も味方になりますよ」
信兄、浅井さん、佐久間さんは少し溜飲を下げている。
その中には自分達が所属している組織自体への期待があるようだ。
上層部からの圧力はなく、期待は裏切られずにすんだ模様。
良い事である。
「車なんてあんまり乗らないから楽しいね!」
「おう!」
「お前ら子供かよ!」
「そういうシンラも楽しそうに窓の外を眺めている件」
「うるせーぞ!タイヘー!お前だって似たようなものじゃねーか!」
「くっ……」
「いいじゃないのー、楽しいは楽しいでいいんだよ!」
「詩織が良い事を言った」
大人達の憤りを耳にしつつも口を挟まない俺達。
贔屓のチームの話、宗教、政治の話は難しいのだ。
誰が何で怒るか判らない。
そんな俺達は車での移動を楽しんでいた。
ドライブ気分である。
遠くに見える山、見慣れない景色、知らない店の看板。
なんでも楽しい。
まして知らない人は乗っていないのだ、盛り上がろうというものである。
静かな人もいるけどね……アゲハは車が苦手らしい。
少し顔色を悪くして黙って目を閉じていたり。
誰にでも苦手な事はあるもんだ。
そして俺達の目的地は……。
「やっと市内に入ったみたいだぜ!」
「着いたか!」
「あんまり変わらないねー」
「そりゃそうだろ」
《降臨の家》の本拠地である。
目的地の名前を見てタイヘーがみんなに告げた。
そして俺達はキョロキョロ。
詩織よ……いくら影響力のある宗教組織が本拠地にしていても、早々住まいやらなんやらは変わらないと思うぞ……。
まぁ、それはいい。
見た目はどうでもいい。
敵の本拠地。
俺達が来たからといって襲われたりはしないはずだ。
俺達は捜査に来ましたなんて看板はぶらさげていないからな。
目的は俺、アゲハの力での調査、偵察だ。
『カウンター』と式神による外からの偵察である。
俺の力は、ある程度近くに来なくてはならない。
有効範囲はそれなりに広いが、それなりはそれなりというものだ。
見た目はどこにでもある県、市、町。
幹線道路と駅周辺以外は寂れた感じの地方都市。
一極集中の弊害がー、なんて林さんは言っていた。
でも田園風景は心落ち着く感じだった。
悪くない、そう思ったよ。
上から目線で申し訳ないっす。
(『カウンター』『《降臨の家》のために働いた回数』)
俺は下調べのつもりで力を使った。
どのくらい影響力があるのかなってね。
道行く人の頭上に数字が出る……ゼロの人がいない……。
思わず見入ってしまった。
いやこれは聞き方が悪かったかな。
仕事をしていたらそうなる可能性が高い。
(『カウンター』『《降臨の家》にお布施をした回数』)
あぁ、これでもゼロの人が少ない。
一回いくらお布施をしているかは判らないが、どれだけのお金になっている事やら……。
眩暈がしてきそう。
車ですれ違う人達、三人に一人くらいは信者らしい。
さすがに子供はゼロだけどさ。
数千、いや数万の信者がいてもおかしくはない。
恐ろしい。
これが宗教の力か……なんとなく道行く人が恐ろしい何かに見えて来た。
普通の恰好をした普通に生活している人に見えるのにだ。
俺の宗教観がそう見せているのかも知れない。
異世界モノのラノベでありがちな狂信者のイメージが強いせいだろう。
だが自分の信じている神様を否定されて怒らない人はいないはず。
《降臨の家》は新興宗教で教祖がある意味神様らしい。
それを俺達が調べ捕まえようというのだ。
結果として組織として残るかは判らない。
神様を否定された人達がどう動くのか想像も出来ない。
判らない事は恐ろしい。
道行く人が襲い掛かってくる気さえしてきた。
ブルリと体が震えた。
敵は強い。
衆の力は民主主義国家では強大だ。
本当に《降臨の家》を相手に出来るのか?相手にしていいのか?という疑問が湧き上がる。
戦うと決めて来たのに、現場に来てみたら決心が揺らいだ。
やはり自分の目で見て感じないと判らない事もあるのだろう。
いや!あの黒スーツを思い出せ!不気味な目をしたあいつ!クスリが蔓延したらあんなのがそこら辺を歩き回る事になりかねない。
その暴力の先が英二、母親、織田さんちの人に向いたら?許せない……。
学校の奴らだってそうだ、大友さん、柴田や前田、それから……氏家とか?
特別仲が良いとは言えない。
だけど通り魔的だったあいつみたいなのに襲われたらと思うと怒りがこみあげてくる。
理不尽、俺が嫌いな事の一つだ。
許せない!
絶対に許せる事ではない!
俺は頭を振って気合を入れなおす。
頬だって叩いちゃう。
何だか俺に視線が集まっていたり……いきなり頭を降り出したかと思えば自分の頬を張る男がいたら、見ちゃうわな。
詩織からの温かい目が痛い。
だがこの視線すら守らねばなるまい!
俺は冷えた戦意を熱く取り戻すのであった。
いざ行かん!敵の本拠地は何処!




