2-18
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「つ、疲れた……」
「カズちゃん、お疲れ様」
「カズ、助かった」
土日は信兄の所でバイト。
明日もバイトなのだが、今日と同じくらい忙しかったらきつすぎる……ユキと子猫たちに会いたいなぁ……現実逃避してみたり。
今日はかなり忙しかった。
朝もはよから、『カウンター』、昼飯を食べたら『カウンター』、信兄が内線を受けたと思ったら『カウンター』である。
自分が役に立っていると感じられるのは嬉しいが、酷使しすぎではないかと思う。
特に朝一番で調べた相手、《降臨の家》関係者のアジト捜索は苦労した。
寝泊まりした回数、都道府県、市、町、丁と少しづつ掘り下げて調べるのには時間がかかった。
だがアジトは二か所の候補まで絞れた。
後は足を使っての調査という所までもっていけた。
昼飯後は死体遺棄場所を探した。
容疑者の話が二転三転して信用ならず、俺に仕事が回って来たのだ。
これも時間をかけて掘り下げていった。
山に埋めたと言っても細かい場所までは特定出来なかった。
この辺りにも『カウンター』の弱点というか、限界があると解った。
そして信兄が内線を受けてからの仕事は警察内部の問題だった。
賄賂、汚職、そう言った腐敗についての調査。
えっ!?と思ったが多かれ少なかれあるのだという。
そう言ったのは信兄だった。
俺が驚き、その後でガッカリした顔をしたからだろう。
そんな信兄は淡々と言い、無表情だった。
少し怖かった。
詩織は俺の横でデータ作成。
俺が情報を掘り下げては記録していってくれた。
時にはお茶を入れたりもしてくれた。
詩織の助けや信兄、浅井さんからの感謝がなければ続けられない仕事かも知れない。
「明日は佐久間さんとタイヘーに付いていってくれ」
「お?『カウンター』は使わなくていいの?」
ぐったりと机に突っ伏している俺に信兄が告げてきた。
俺は顔だけ信兄に向けて問いかける。
俺が一番役に立てるのは『カウンター』で間違いない。
バイトとは言え仕事なんだから頑張りますよ?
そんな気持ちを込めて問いかけた。
「さすがに今日はカズを頑張らせすぎた。明日は呪術関係の仕事を見て来い」
「おぉ!呪術!」
「やっと見れるね!呪術師のお仕事」
苦笑している信兄。
『カウンター』を使っても特に何か代償を払っているとは感じないとは伝えてある。
だが精神的な疲れがあると、今の俺を見て理解しているのだろう。
正直、ありがたい提案。
見聞を広めるとともに休めって所だな。
呪術師であるタイヘー。
だが彼の力をちゃんと見た事はなかった。
陰陽師であるアゲハとは違い、周りの者が確認し辛い力だという。
それを見て来いと信兄は言っているのだ。
喜ぶ俺と詩織。
現金なもので、俺に活力が戻って来た。
俺の様子を見て、更に苦笑する信兄。
「そういや子猫……ユキは竹中さんちに戻ったんだって?」
「うん……」
「そうなんだよ……」
信兄が話をコロッと変えた。
俺と詩織は同時に暗い顔になる。
猫又のマタさん、そして子猫は昨日うちから出ていったのだ……。
英二が名付けた子猫のユキが元気になったからだ。
いや元気と言えばシンラが力を使って治癒した翌日には元気を取り戻していたんだ。
でも英二、詩織、俺が引き止めた。
まだ様子を見るべき!そう言ってね。
うちの母親は呆れながらも「今週一杯よ」と了承してくれた。
子猫の親であるマタさんも直ぐに帰る必要はないと言って、うちにいてくれた。
だが白猫を囲んでの楽しい日は昨日で終わった……。
マタさんの子供はユキだけではないと言うので引き止められなかった。
泣く泣く、神社前のお屋敷、竹中さんちまで俺、英二、詩織の三人でマタさん、ユキを送っていった。
竹中さんちは大きかった!豪農というか立派で古めかしい和風の屋敷だったよ。
敷地も広かった。
屋敷を覆う生垣の様子から察するにサッカーができそうなくらい広かったと思う。
まぁ、俺達は竹中さんちにお邪魔出来た訳ではない。
屋敷の前まで送っただけだ。
知り合いでもなんでもないからな。
ただマタさんが呼んでくれた白い旦那猫とユキの兄妹達とは会えた。
ええ、可愛かったです!
ユキと離れるのでしょんぼりしていた英二も、計四匹の子猫を見て元気を取り戻していた。
俺と詩織もだけどね。
だが今日になって見ると喪失感がハンパない。
マンションでは飼えない。
それが解っているから尚更だ。
いなくなった事を言われると、また思い出してしまったのだ。
「また会いにいけばいいじゃないか」
「そうなんだけどさぁ……」
「うぅ……」
「ざ、座敷童には会えたのか?」
フォローしてくれる信兄。
だが一度思い出してしまった俺と詩織は引きずってしまう。
更にフォロー、そして話題をずらしてくる信兄。
座敷童。
猫又のマタさんが言っていた、うち周辺にいる妖怪の片割れだ。
「チラッと見えたよ」
「柱の陰からちょっとだけ覗いてたの!小さくて可愛い気がしたー!」
「お、そうなのか。ちょっとだけどはいえ見れたのか」
「うん!黒髪をおかっぱ頭にして蝶々柄の着物を着てたよ!」
「そこまでは見えなかったぞ、俺。ぼんやりと何かいるなーくらいだった」
「私には見えたよ!恥ずかしそうにしてた!可愛いの!!」
俺にはハッキリとは見えなかった。
屋敷の中は暗かった。
だけどそれだけじゃなくて存在そのものがぼやけて見えたと思う。
俺とは違い詩織には見えていたらしい。
でも一瞬だったんだよな……直ぐに奥へ引っ込んじゃったしさ。
恥ずかしがりやなんじゃないかな?座敷童。
詩織もそう思っていたようだ。
信兄は興味ありそうに俺達の話を聞いている。
だが苦笑もしていたり。
俺達があっさりと話題に乗ったせいかも知れない。
単純ですまぬ。
「俺も竹中さんちを見に行ってみるかな」
「えーちゃんも誘って行こうね!」
「だな」
そんな信兄もマタさん家族と座敷童を見たいようだ。
詩織もまた見たいと言う。
ちゃんと英二の事も含めている辺り、良く解っている。
英二にとって良いお姉さんだな、詩織は。
思わず嬉しくなった。
浅井さんが溜息を吐きながら部屋に戻って来た。
何やらお疲れのご様子。
書類作成が終わったら一緒に夕飯をとる事になった。
自分で作らない夕飯。
何を食べようかな……。
▼
「話通りですねぇ……呪詛を受けていますよ」
タイヘーが言う。
ここは警察病院。
俺達の目の前にはベッドに横たわっているおじさん。
タイヘーの言葉を聞いて絶句していたり。
そんなおじさんの顔には隈が出来ている。
頬もこけて、まさに病人といった感じに見える。
だが違うらしい。
病人ではない?
「呪詛……か」
「です。病気じゃありません」
「そ、そうなのか?」
「ええ。大丈夫!安心してください。俺が返せる呪詛ですよ」
「お、おぉ」
佐久間さんが顎に手を当てて呪詛かと呟く。
それに答えるタイヘー。
俺と詩織は黙って事の成り行きを見守っている。
だが興味深々。
タイヘーの言葉を受け、動揺を隠せないおじさん。
このおじさんは公安の人だという。
《降臨の家》を内偵していた現場指揮官でもあるらしい。
《降臨の家》……俺を学校の屋上で襲った黒スーツの男が関係している組織。
宗教関係らしいのだが、薬物だけじゃなく呪術にも関係があると確信出来た。
その証拠がこのおじさんだ。
具合を悪くしての入院。
だが体に異常はないという。
倦怠感、頭痛、不眠、それらの症状があるというのにだ。
浅井さん経由で信兄の耳にも入り、その場で聞いていたタイヘーが呪術を疑った。
そして今日来た訳である。
(ぼんやりと黒いオーラみたいのが見えるんだが……)
(私にも何となく見えるよ。頭の辺りだよね?)
(おう。あれが呪詛かな?)
(そうなんじゃないかな?)
俺と詩織はベッドで横になっているおじさんの頭部から、ぼんやりと黒いオーラがにじみ出ているのを見ている。
初めて見る現象だった。
タイヘーにもこれが見えているのだと思われる。
頭だけで体は黒いオーラに覆われていない。
「ちょっと呪詛返しの準備をしますよー」
「お、お願いします」
「ええ。大丈夫ですからねー」
呑気な声で言うタイヘー。
その様子から大事ではなさそう。
タイヘーは持って来ているリュックを背中から外してゴソゴソしだした。
透明な瓶に入った水っぽいモノ。
それから薬が入ってそうな白い紙の包みが二つ。
タイヘーのリュックから出て来たのはそれらだった。
ベッドの横にあるテーブルに広げていた。
「目を閉じてー。深呼吸ー」
タイヘーがおじさんに言う。
催眠術でもかけるかのような感じのしゃべり。
おじさんは目を閉じて大きく息を吸い込み、吐き出す。
それを二回ほど繰り返した。
タイヘーの言う事を素直に受け止めているおじさん。
ただの病気ではないと自分でも感じているのだろう。
異常はないという医者のいう事も疑ってはいなそう。
「そのままねー」
目を閉じたままのおじさんに指示を出すタイヘー。
そして薬包紙を開け、瓶の蓋を外した。
何をするのだろう?
俺、詩織、佐久間さんはタイヘーの一挙一動に注目した。
未知の術。
恐れと興味。
二種類の粉薬?でおじさんの顔、特に額へ文様を描いて行くタイヘー。
白い粉と黄色い粉で、どこかの部族みたいになっていく。
そして左手に瓶から水?を零した。
右手の人差指をそこへピッピッと付けた。
その指をおじさんの額に当てた。
ビクッと身じろぐおじさん。
それでも目は開けたりしなかった。
恐れながらもタイヘーの指示を守っている。
ブツブツと小声で何かを呟くタイヘー。
俺には聞き取れなかった。
意味のある単語とは思えない。
少なくとも日常会話で使うような文言ではなかったと思う。
「「あっ!」」
俺と詩織は同時に声を上げた。
お互いの顔を見合わせる俺達。
そんな俺達を見る佐久間さん。
佐久間さんには見えていないモノかも知れない。
タイヘーはブツブツ言いながらおじさんの額に指を当てている。
俺はおじさんの頭を覆う黒いオーラは揺らめき頭上へ集まるのを見た。
詩織も同じなんじゃないかな?
タイヘーがやっている事は呪詛返しだという。
黒いオーラが呪詛の塊であるならば、おじさんから離れてこれをかけてきた相手に返すのだろう。
俺がそう考えている間にも黒いオーラがおじさんから離れて頭上に集まっていく。
黒く丸いこぶし大の玉。
「はっ!!」
タイヘーが気合を発した。
すると黒い玉が病室の窓からどこかへ向かって飛んでいった。
おじさんは目を瞑ったままだ。
「タイヘー、黒い玉がどっかに飛んでいったよな?」
「ね」
「見えたか。そうだ、呪術師に返っていった。もう大丈夫だろう」
「ほぅ……」
俺が見えたままをタイヘーに伝えると詩織も同意。
やはり詩織にも同じモノが見えていた模様。
タイヘーは俺達に見えた事を驚くでもなく淡々と状況を教えてくれた。
佐久間さんはよく解っていなそう。
「あ、おじさん、そのまま動かないでね」
タイヘーはそう言ってタオルでおじさんの顔を拭い出した。
濡れタオルらしい。
へー、タイヘーが男、しかもおじさんに向かってこんなに優しくするなんてな……。
いや呪術師としてやらねばならない事なのだろう。
おじさんの顔から文様が消えた。
隈はあるし頬もこけたままだが、穏やかな顔になっている気がする。
「呪詛返しは成功したよ。後は食事をキッチリとって、体力の回復に努めてください」
「あり、ありがとう!」
「はい」
タイヘーがチャラくない。
タイヘーらしくないが、仕事は別という事だろうか。
凄くまともな人に見える。
おじさんがタイヘーに礼を言っている。
言葉の様子から感極まったという感じだ。
何か実感できるモノがあったのかも知れない。
うーん、このタイヘー本物かな?
俺の中でタイヘー偽物説が浮上していたり……。
うそうそ。
俺はタイヘーを見直した。
上から目線で申し訳ないが、本当に見直した。
ただのチャラ男じゃなかったんだな。
やる時はやる男、タイヘー。
詩織も佐久間さんも珍しいものを見たといった表情。
「ここの食堂って美味いのかねー?」
一仕事終えたら、もう飯ですか!?
「中々いけるらしい。おごってやろう」
「ゴチになりやす!」
佐久間さんは少し笑っている。
タイヘー、いつもの顔だ。
真面目な顔は長く続かなかったね!
おじさんを寝かしつけてから部屋を出た俺達。
「こっちから行こうぜ」
タイヘーが行きとは違う通路を選んだ。
特に反対する理由もなかったのでついていく。
病院って苦手だな、匂いが苦手だ。
病院独特の匂いを嗅ぎながら歩くのであった。
「カズ、『カウンター』を使ってみ?」
「ん?いいけど……なんでもいいのか?」
「おう」
「……」
タイヘーが足を止めて俺に言って来た。
力を使えと。
詩織は妙に静かだ。
佐久間さんは黙って俺達を見ている。
何か意味があるんだろうなと思いつつ『カウンター』『人を殺した回数』を発動。
危ない人を探ったりするのにいいんだよ、物騒だけどさ。
って、あれ!?
俺は少し前にある扉の辺りに数字が出ているのに気付いた。
目を擦って見る。
やっぱり数字は出ている……誰もいないのにだ。
俺は力を使わせたタイヘーを見る。
「見えなくても力は効く見たいだな」
タイヘーは悪戯が成功したって感じの顔。
「カズちゃん……扉の所にモヤモヤしたのが……幽霊か、な?」
「えっ!?」
「なにっ!?」
「当たり!詩織ちゃんには解るんだねぇ」
「きゃあぁぁっ!!」
いつの間にか俺の後ろに回っていた詩織。
その詩織が服の裾を掴んで言って来た。
モヤモヤしたのがいると、幽霊かなと。
俺と同時に佐久間さんも驚きの声をあげた。
驚きではない声もあがる……タイヘーの楽しそうな声だった。
幽霊がいるという事を肯定されて、詩織が悲鳴をあげた。
俺は詩織を背後に置いたまま確認。
霊安室……扉にはそう書かれていた。
俺の力は人間以外にも効くんだな……そんな考えが頭に浮かんだのであった。
そして霊安室には幽霊って付き物なのかな?とも思った。




