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「カズちゃん、今日の夕飯はなににするの?カレー?」
「どうすっかなぁ?ってカレー推し?」
「えーちゃんだって好きでしょう?」
「まぁなって詩織も食べるつもりなのか?」
「軽く!軽くだよっ!」
「家のご飯も食べるんだろ?太るぞ?」
「私、余計なお肉は付かないんだよねー!」
「ほぅ……」
学校の玄関で靴に履き替えた所で、詩織が夕飯をなににするか聞いて来た。
詩織は謎のカレー推し。
今日はカレーの気分なのだろうか?
因みにうちのノーマルカレーは豚だ。
ちょっと脂身のあるやつをゴロッとね。
脂の甘味がいいんだよ!
そして二つのカレールーを混ぜる!これがいいんだよ!
カレーって外で食べるのも美味しいけど家のが最強だと思うのです。
因みに、英二は辛いのが好きなので辛口カレーです。
どうやら詩織は家で食べる夕飯の前に前菜としてうちのカレーを食べるつもりらしい。
いいけどさ。
余計なお肉が付かないと自慢げにいう詩織。
つい胸に視線がいってしまったのは無理もなかろう。
豊満って事はないな、年相応?
なんて思ってたらシンラ並のフックが肝臓に来た。
俺の周りにいる女子、みな世界を狙えそう……。
俺の視線はバレバレだそうだ。
そして殴ったくせに顔は怒っていない?よく解らん。
うーむ。
式神さん、おいでませ、視線を誤魔化したいです。
「あっ!カズちゃん、カズちゃん!黒猫だよ!!」
「あ、おい」
校内の木の下をテクテク歩いていた黒猫を追って走り出した詩織。
詩織は可愛い生き物が大好きだ。
残念ながら、俺達のマンションはペット禁止だから飼えないので触れ合える機会は少ない。
前田が猫を飼っているので頻繁にお邪魔しているとは聞いている。
ほわほわのほほんとした前田と似た猫だと詩織は言っていた。
俺?俺が女子の家にお邪魔出来るはずもない。
放っておいてくれませんかね?
とにかく、詩織は犬や猫が歩いていると直ぐに飛んで行ってしまう。
今もそうだ。
詩織は元気に走っていった。
あー、走って近寄ったら逃げるわな……。
それでも諦めずに追いかける詩織。
根性あり。
だがやり方を間違っているぜ。
頭では解っていても体が動いてしまっているに違いない。
そういうやつなのだ詩織は。
仕方ないので俺も詩織の跡を追う。
おっ!女バレのメンバーが走って来た!
うちの女バレは巨乳率が高い。
走っている姿は、とてもよかです。
上に下に左に右に……目を離せなくなる。
俺と似たような男連中が一杯いたり。
みな立ち止まり黙って見つめている。
ジャージ姿でも隠せるものではない。
逆に際立ってさえいる。
これはもうあれだな、女バレは解っていてやっていると見た!生徒会に予算の増額をするよう嘆願しておこう。
あれ?詩織はどこだ?
「織田さん、あなたは魔法使い、魔女ですよね?」
見失った詩織を探して校舎裏まで来た所で詩織に向けて発せられたであろう言葉が耳に入った。
魔法使い?
魔女?
俺、詩織は最近、常識が変わった。
自分のみならず、変わった事が出来る人達がいる事を知ったからね。
だから魔法使い、魔女と言われて笑い飛ばす事が出来なくなった。
俺は校舎の陰から声の主をコッソリと見た。
詩織と……大友さん!?
大友さんの足元には黒猫がお座りをしている。
あ、詩織、話をそっちのけで黒猫を凝視してるな?俺には解る。
黒猫が尻尾を振ると微かに詩織の頭が揺れているのがその証拠だ!
目で追っていると思われる。
大友さんが真面目そうな顔で話しているのが不憫なり。
「ふふっ、黙っている所を見ると当たりのようですね」
「……」
「私、屋上で見ました。魔力の行使、その兆候を感じて駆けつけたんですからね。近くにいて良かった」
「……」
大友さんは自分の考えが当たっていたと思い、ご満悦。
黙っている詩織。
詩織、やっぱり黒猫に意識が持って行かれているな。
ちょっとは聞いてやろうよ……。
黒猫が大きく口を開けて欠伸をした。
詩織の顔は見えないけど、嬉しそうな顔をしてるんだろうなぁ……。
そんな緊張感のない状況。
だが大友さんが言った言葉に俺は驚愕した。
屋上?
魔力の行使?
兆候?
屋上での事件。
俺は大友さんらしき女子が扉の所にいたのを最後に見た。
大友さんは偶然ではなく何かを感じて屋上に来ていたと言うのか!?
それが魔力?
詩織の力は魔力で発動しているってのか!?
マジでっ!?
俺もなのかな!?
魔力、いや霊力と同じ力なのかも知れない。
アゲハは俺や詩織に霊力があると言っていた。
しかも大量の霊力。
使う人によって呼び方が違うだけ?
ちょっと待て!と言う事は大友さんは魔法使いで魔女って事!?
俺の頭の中に今入って来た情報が溢れた。
マジかよ!?
こっちの世界も広いんだな……。
でも納得出来た部分もある。
教室にいる大友さんは少し浮いていた。
それは美少女だからと思っていた。
だが違ったのかも知れない。
魔法使い、魔女。
普通の人とは違う常識を持った人。
逆に壁が出来ていたのかな?とも思う。
そういうのが表に出ていたのかもね。
ちょっとだけブレザーが似合っていないってのもある。
ブレザーは今風の子が似合う服だと思うんだ。
セーラー服だったら、バッチリだったろうに。
「あなたの所属を聞いてもいいですか?私はフソウ最強集団である《東洋会》の者です」
「……」
「教えられないと言う訳ですか……フソウにあれだけの力を行使出来る者は少ないはず……私達が知らない魔法使い達がいるって言うの!?」
「……」
大友さんから詩織への言葉は止まらない。
大友さんは《東洋会》と言う組織に所属しているらしい。
魔法使いの集団だよな。
いるんだなぁ……魔法使い。
大友さんが所属している以外にもいるらしい。
だが何もしゃべらない詩織。
それでも話し続ける大友さん。
道化……そんな言葉が思い浮かんだ。
黒い長髪で日本人形のような見た目。
大和撫子って言葉が似合いそうで、しっかり者っぽかったのに残念な子ってイメージで上書きされていく。
彼女の口から俺の知らない情報が次々と溢れ出てくる。
あの場に俺がいたらこうはならなかったかも知れない。
女バレのおかげだ!やはり生徒会に予算を……。
「織田詩織さん、私達の所へ来ませんか?待遇は良いと思いますよ?」
「大友さん……」
「はいっ!」
大友さんが詩織を勧誘しだした。
詩織をフルネームで呼ぶ辺りにも真剣さが伺える。
屋上で詩織の力を理解出来たというのだろうか?
そもそもどこまで見たのだろうか?
確かに詩織の『スリープ』は強力だし使える。
魔法なのかは知らないけど。
好待遇ってどんなんだろう?
気になります。
そこでやっと詩織が口を開いた。
なんだ話を聞いていたのか。
オレ、カンチガイ。
「その猫ちゃんに触らせてもらえる?」
「はぁ?」
「ねこちゃーん!」
オレ、カンチガイ、シテナカッタ。
大友さんの足元へ駆け寄る詩織。
詩織の返事を聞いて呆気にとられる大友さん。
美少女なのに変な顔も出来るんだな……俺はそんな感想を持った。
大友さん、可哀想に……。
今度は逃げなかった黒猫。
詩織にガッシと抱きかかえられた。
頬ずりをする詩織。
猫パンチで応戦する黒猫。
口を半開きにしてそれを見ている大友さん。
なに、このカオス。
俺は収拾が付きそうになかったので出ていく事を決めた。
「詩織、猫はいたかー?」
「カズちゃん!いたよー!ねこちゃん、大友さんの猫だったみたい!可愛いよぅ」
「そ、そうか」
俺はさも探していたかのように振る舞いつつ校舎の陰から出た。
詩織は俺の声に返事をしてくれた。
ちゃんと理性は残っていたらしい。
それでも頬ずり対猫パンチは続いていたけども。
その様子にちょっとだけ引きつつも返事をしておいた。
チラリと大友さんを見る。
口を閉じていつもの大友さんに戻っていた。
いや詳しいわけじゃないけど、教室で見る顔って事ね。
俺の登場でリセットされたらしい。
収拾が付きそうでなにより。
「大友さんの猫だったのか」
「え、ええ」
「可愛いよぅ」
「だな」
「そ、そうかしら?」
「にゃあ」
「そうだって言ってるよー!可愛い!!」
俺は大友さんに声をかける。
何とか返事をしたって感じの大友さん。
顔は戻したが精神状態までは戻っていない模様。
南無。
黒猫を可愛がる詩織。
可愛いという詩織。
黒猫が一鳴き。
詩織に猫と会話できる能力はない。
猫馬鹿だな。
でも可愛い女の子と可愛い猫、良い絵です。
野郎が入っていない所が特に。
うんうん。
つい目を細めて見入ってしまう。
それから黒猫を愛でた。
大友さんの口からは魔力、魔法使い、魔女といった単語は出て来なかった。
俺には言うつもりはないのだろう。
魔法を使える者同士だけの話らしい。
黒猫を褒める俺と詩織。
段々、それも満更ではないといった感じになっていく大友さん。
俺、詩織、大友さんは黒猫を通じて少し仲良くなった。
多くの謎、疑問を残して……。




