第7章4話
右へ左へ大通りを爆走している青い車……。運転しているのはルーズルート侍従長であり、その真後ろに座って窓から機関銃を覗かせているのは伍長閣下であった。
何と、ルーズルート侍従長。実は運転免許を持っていたのだ! いや、正確には持っていた運転免許といのが普通免許ではなく特殊自動車免許なのだが……。
一体何に使うかというと、皇居内の移動に使われている。と、言うのも、正面門から小高い山の上の居住区や宮殿、皇宮財閥本部や皇宮省庁舎へ向かう道は綺麗にアスファルト舗装されており、普通自動車から超重戦車まで通ることが出来るのだが、残念なことにその一本以外は全くと言っていいほど道は整備されていない。
それもそのはず、山以外は絶滅危惧種の動植物がたくさん保護されている自然保護区でもあるのだ。
まぁ、そのせいもあって、インフラ整備が一切されておらず、普通の自動車で移動しようもんならぬかるむ地面で空回するか、スリップするか……。
なので、キャタピラ付きの専用自動車かぬかるむ地面でも進むことが出来る車両の運転が必要なのである。
何故こんな話になったかはちょっと記憶にないのだが、とにかく今彼らは大爆走で西門へと向かっていた。
だが、その時、
「な、何だ?」
ガガガガと重低音な音が後ろから鳴り響いてきた。しかもその音が徐々にこちらに近づいてきており、その速度も異常じゃない速さで近づいていることを物語っていた。
その低い唸り声のような音が凄い速さで近づいてくるのを、後部座席の窓から軽機関銃を覗かせていた伍長は慌てて体を180度右回りに捻り後ろを確認する。
そして、それが見えてきた。
それは一見すれば、M4シャーマンのような外見をした戦車だろう。いや、どちらかと言えばシャーマン ファイアフライというM4シャーマンの派生型に近い外見をしていた。
シャーマン ファイアフライは英国軍がシャーマンを改造して運用していたものなので、詳しいことはチャーチムに聞くと言いらしい。
で、そのシャーマン ファイアフライのような戦車が、時速120㎞(伍長さんたちが運転されている青い車は160㎞までだが一般道で120㎞出すのは難しい)というあり得ない速度でこちらに進撃してきている。それも道端にある車や伝統をなぎ倒して……。
ちなみに戦車の音でかき消されていたが、後続からヘリコプターもついてきていた。
「ちょ! なんだあの速さの戦車は! おかしいだろ! この車より速く走ってんじゃね!?」
素っ頓狂どころか絶句している伍長閣下。
それもそうだろう、あんな高速戦車、地球ではBT-7などの巡航戦車・快速戦車ですら100㎞だいに到達した戦車は存在しない。
というか、キャタピラ戦車が100㎞代を出せる自体おかしい。
「や、やばいですね……。あの戦車が投入……というか持っていた事態想像できませんでした」
「お、おい。何なんだあの戦車は!? やたら速いぞ!」
「あれはですね、シャーマン ファイアフライに似たことから、MC-44高速戦車と呼ばれるものです。まぁあの戦車、1万年ほど前の旧ク連時代の最終世代型の戦車でした……」
「は? 1万年ほど前!?」
何と! シャーマン ファイアフライのような戦車は1万年前に作られた超、超! 超旧式戦車だった。
まぁ、旧式戦車であろうがなかろうが流石は銀河を治めた帝国、保存科学も並外れており、現在世界の一般家庭に普及された冷蔵庫らしきものに至っては、肉を100年ほどは保存できるそうだ。
……何それ恐ろしい……
なので別に1万年前の戦車も使えるかなぁーと。
「ええ、まぁあれですよ。第2次世界大戦時の兵器って意外と寿命が長いでしょう? あれと同じです」
「どういう理屈だよ……」
もうツッコむしかなかった。
ただわからんこともない。第2次大戦時の兵器というのは意外と長生きするものである。例えば米国が開発したM4シャーマンにイスラエル軍が独自の改良を加え開発運用したM50/M51スーパーシャーマンは、チリ陸軍に輸出され結構最近まで運用されていた。
イスラエルが独自で改良したとはいえ、元はM4シャーマンである。
さすがは世界(地球)最強国家アメリカ合衆国が開発した戦車だ、伊達に工業力が違う。
「ただ、あれはですね。帝国時代に惑星ランディーフィルの駐屯地で発見されたものを今も予備役で運営されていたものです。何か国かの同盟国に輸出されたもの見たいですけどノあれは……」
なるほどと伍長と中の人は思う。
ちなみにランディーフィールは現在のツァールバリカー惑星合衆公国ツァール公国領だった惑星の旧名である。
「って! やばい! 砲身が真っすぐこちらに向いたぞ! 回避! 次の角を曲がれぇ!」
慌ててハンドルを右に切ったため伍長は主に遠心力のせいで後部座席の左側に投げ飛ばされてしまった伍長閣下。シートベルトは後ろを確認するために取ったせいで意外と投げ飛ばされた時に受けた衝撃が痛かった。
ただ、ハンドルを切ったことは正しかったと言えよう。
何故なら地球製の120㎜APFSDSが、ハンドルを切った瞬間発射され、そのまま一直線に近くに止まってあった車へ砲弾が直撃、大爆発炎上を起こした。
少しでも反応が遅ければ……。そう思うと背筋が凍ってしまいそうになる。
「あ、あぶねぇ……。ってやばい! 今度はヘリが接近しているぞ!」
戦車の場合は速度を出しすぎたため、急に曲がれた車とは違い回転に戸惑ってしまう。その時のためにヘリコプターが用意されていたわけだ。
「伍長さん! 私の荷物から予備用の脚立を取り出してください。それを組み立ててサンルーフからヘリに射撃してください!」
対空戦闘を乗用車でやれという事である。
それを聞いた伍長は一瞬ためらった。
何故なら、対空射撃というものは停止した状態でやるものであって、移動しながら射撃はあまり好ましくない。命中率がとことん悪いからである。
とにかく揺れる。右に左に……。……さらに地面の凸凹によって精密射撃がコンピューター射撃でもない限り不可能だ。
さらに今は夜。
憲兵集団はどうやらサーチライトを付けていたのに加え、電灯の明かりのおかげでスモークを炊くことで逃れられたが、夜の視界不良という悪条件の中の射撃である。
ただこのまま何かをやらないと、ヘリコプターに距離を詰められるか待ち伏せを受け、ロケット弾やミサイル、機銃掃射で一瞬にしてドカーンとなってしまう。
渋々伍長は言われた通りサンルーフを開き、ルーズルートの荷物をあさりヴァイツァー20専用の脚立を取り出すと、素早く組み立てを行いサンルーフの先にヴァイツァー20軽機関銃を取り付け、自身も身を乗り出す。
ダダダダダダダダ
再装填を済ませていた軽機関銃は、まるで弾丸を撃つことを待っていたかのように射撃を開始した。
だがもちろん、揺れる車からの射撃は当たらない。
ただ牽制射撃としては効いているようだ、こちらに向かってきているヘリコプターは右往左往しながら銃弾を避けていた。
これなら射撃している間に撃たれることは無い。そう安心しきっていた伍長だったが、
キーーーーーー
ルーズルートがいきなり急ブレーキをかけた。
「おい、どうした!? 何があ…っ!」
急ブレーキの反動で思わず握っていた引き金から手を放してしまい、さらに腰を痛めてしまった。
慌てて振り返る伍長、そしてなぜルーズルートが急ブレーキを踏んだかその理由が一瞬にしてわかった。
3機のヘリコプターがホバリング状態でこちらを向いていたのだ。機関砲もロケット弾も間違いなくこの車を狙っているだろう。
ここでようやく伍長はルーズルートが何故急ブレーキをかけたのか理由が分かった。
詰んだ状態だからである。
どういうことか?
答えは簡単、逃げられることがもうできなくなってしまった。
この車は速度は速い。そりゃぁそうだ、自家用車なのだから戦車なんかより断然速い。ただそれには裏がある。つまり銃弾を一発も弾くことが出来ないことだ。
何せ自家用車……。装甲板など詰んでいるはずがなく、銃弾一発で大爆発という事がありえなくもない。
それが3門、きっちりとこの車に標準を定めていた。
引き金を引けばすぐにでも機関砲の23㎜弾が発射され木っ端みじん……いや大爆発を起こすだろう。
仮に機関砲をよけられたとする。
だが、逃走は諦める方がいい。理由は2つある。
一つ目は威嚇射撃もとい牽制射撃をぴったりと止めてしまったので、後ろから追いかけてきていたヘリがあっという間に距離を詰めてしまい、それに積んでいた武装すべてがこちらを目標にとらえている。
そして、もう一つ……。
前方にホバリングしているヘリコプター3機のうち、1機だけほかの機体とは違う外装をしていた。
それを見た伍長は、ハッと思い出す。
「あれは……、私達を最初に発見した奴か!」
そう、伍長達を最初に発見したお手柄ヘリコプターであった。
……お手柄ヘリコプターを、なんかお手頃ヘリコプターと聞き間違いそうになったのは何故だろうか?
「伍長さん、強行突破と行きます。夜ですが止むをえません、照明弾を打ち上げてください。そして身を伏せてください!」
「わかった、じゃぁ打ち上げるぞ!」
そういうと、伍長は自身の荷物の中から帰還用に所持していた照明弾を上空に向かって打ち上げた。
照明弾を打ち上げるとやはりと言っていいか、明るい。
打ち上げたと同時に車の後部座席にしゃがみ込んだ伍長は、おずおずと上空を見上げる。
そこには赤く発行する照明弾がある。
「よし、ルーズルート! 行け!」
「…………」
ルーズルートからの返事がない。
「どうした? 何ああったか?」
「……。えっと、伍長さん……。……前輪の左タイヤがパンクしました……」
「は?」
え? まじで! と伍長は思う。
おそらくパンクの原因は、憲兵たちとの銃撃戦の時、流れ弾がタイヤのどこかにあたっていたのだろう。悪戯防止により、パンクによる事故防止のため、どんな自動車でもタイヤ(最近は空中に浮いているとか何とか……)はスパイクや銃弾に耐えられるように設計されている。それどころか、車自他も防弾化はされている。
これは、ある国家の議員が自分の子供をいたずらによってパンクした自動車に引かれ死亡したことを教訓に全自動車企業に義務として追加されたものだ。
それのおかげもあり、憲兵たちとの銃撃戦の時の流れ弾は耐えたのだろう。だが、急カーブはまずかった。タイヤの地面との接触部分と側面の間に埋まっていた銃弾が、急カーブの時奥に食い込んでしまったのだろう。
弾が挟まっているのですぐにパンクするということは無かったが、時間がたつにつれ徐々に空気が抜けていきパンクした。
別に進めなくはないだろうが、100㎞前後のスピードしか出なくなってしまう。
伍長とルーズルートはもう諦めたらしく、車から降り降参する構えを取った。
だが、その時……
ウウウウウウゥゥゥゥー
サイレンが町……いやこの首都全域に鳴り響いた。
そのサイレン音はかつて軍人としていくつかの戦争や紛争にも参加した経験を持つ伍長やルーズルートにも何を警戒するためのサイレン音なのか……はっきりと聞き分けることが出来る。
この鳴り響いているサイレン音……
「多少の音の違いはあるが……空襲警報か!」
「ええ、間違いないでしょう」
己の推測を語り、それを肯定するルーズルート。
そう、この音は津波警報でもなければ緊急地震速報で流れるサイレン音ではない、それは敵の空襲があるぞという事を知らせる、空襲警報であった。
空襲警報が鳴るという事は、もうそこまで敵の飛行機が来ているのだろう。そのサイレン音によって目覚めた市民たちは慌てて家の電気を消し、わらわらと外に出てきた。
もちろん伍長さんたちがいる近くの家も例外ではない。そこの住人らしく人たちが急いで出てきたのだろう……寝間着や軽い服装で出てくるものもいれば、パンツ一丁で出てくるおじさんもいた。
だが、彼らの表情はあまり深刻さを物語っていない。
スマホをいじるものもいれば、家族や近隣住民としゃべりだす者、立ったまま眠りにつく者、そして何やらブツブツ文句を言っている者……。まるで余裕のある表情をしていた。
それもそうだろう……。空襲警報が夜な夜な鳴り響くことなんて珍しいことではないのだから……。
この国の首都であるここは、仮想敵国でもあり実際の敵国であるス連邦やヴィルヘルム惑星大公国の軍隊にいつ攻撃を受けてもおかしくない。
そのせいもあって、夜な夜なランダムで空襲警報を鳴らし、避難訓練を行っている。
彼らは、今日もその一環なのだろう……。そういう考えから安堵の表情を浮かべていた。
「な、何故彼らはこんなに余裕がある!?」
さすがの伍長も異常ともとれる雰囲気に驚愕を隠せない。
「さぁ……。この国ではよくこうやって夜に避難訓練があるって聞きましたけど……。今日もその一環なのですかね?」
しかし、彼らの安どの表情は次に瞬間崩れ去る。
それは……一瞬の出来事だった。
伍長達を囲んでいたヘリコプターが、何の前触れもなく突然全機同時に大爆発を起こし、日の塊となったヘリコプターは地面へと急降下していった。
それは、一機の例外もない。
その場に居合わせ、その瞬間を見ていた伍長達や住民たちはこれが避難訓練ではなく本当の空襲警報だったという事を見せつけた。
その時である。
大通りの先に見える城壁から伸びていたサーチライトが何かをとらえた瞬間、伍長達の方へと向けてきた。
光の筋は、何か高速で動くものを捕らえる。
それは轟音と共に伍長達の方に近づいてき、そして伍長さんたちの真上を一瞬通過した。
伍長や住民たちには何が通り過ぎたのか、見当もつかないだろう……。……だが、この中である国の兵器にはやたら詳しいおじさんがいる。
「おい! ルーズルート! 一体何が怒っているんだ!」
「……!…」
伍長は叫ぶが返事はない。
数秒の沈黙の後、ルーズルートは声を震わせてこう一言いう。
「あ、あれは……。Claude Craft131制空権格闘戦闘機……です……。つまり……ス連邦の次世代型主力戦闘機……です……」




