第5章6話
「ぎ、銀行強盗ですかい…」
衝撃的な任務内容に動揺したのか伍長は、覆面をかぶり銃を持った男が銀行内で暴れている絵を思い浮かべてしまう。
だが、伍長のその様子でおおまか察したのか、フェルトさんはこう付け加える。
「ううん、多分アドルフさんが思い浮かべている様なものではないよ。アドルフさんと今回はルール先生と共同して、銀行を襲撃してほしいんだ♪」
「襲撃ですか? 強盗と違うのですかい?」
「うん、ちょっと違うね。銀行強盗というより銀行を襲撃してほしいんだぁ。えっとね、ペルシアント惑星王国首都のブールストンという地区にその銀行があるんだけどね……」
フェルトさんは手元から折り畳み式の地図を取り出し、ブールストンと書かれた場所を指さす。
タブレットでも可能っちゃ可能なのだが、折り畳み地図の方が使いやすいそうな
「この銀行は国内最大級の銀行でね。制裁措置として日本円の取引を禁止しているんだけど、経済調査で異常なまでに残金がることが判明してね。
そこでアドルフさんたちがその銀行に押しかけ、銀行内にある現金すべてを燃やしてきてほしいんだ」
「も、燃やす!?」
「うん、札束を」
「それは……あれですか? 札束でキャンプファイヤーを作れと?」
「うん、そうですけど……? 火が無理ならそれなら中の人を追い出して上空のハウニブⅢから7t爆弾を落とすという手もあるんだよ…?」
「イイエ、エンリョウシテオキマス」
7t爆弾が爆裂し、崩れゆく銀行とそれを漠然と見上げる国民を想像すると何とも言えなくなり、片言で返事をしてしまった。
「残念です~。私としてはそれぐらいやってもいいと思うのだけど…♪」
姉(リフェリア氏)いわく、『あの子は可愛い、可愛いは正義よ。でも正義という概念があの子は普通ではないわ』と……。伍長さんはその言葉の真意をようやく知り、薄ら笑いを浮かべた。
なお、男子なのに可愛いという事には特に触れられていない模様……。
「まぁそういう事で、お願いしますね、アドルフさ……っ!」
突如、ソファーで律儀に座って、伍長の目をずーっと見つめながら話していたフェルトさんが、異常にあたりをキョロキョロし始め、遂には手が震えているのを目視で確認できるほど、震えていた。
何が異常かって、フェルトさん、シールドがあるのでたかが殺意ごとき震えるはずがない。つまり、殺意以上の何かをフェルトさんは感じ取っているのだろう。
「えっ! あっ…。」
「ど、どうしました!?」
伍長さんもその異変を察し、さらに挙動がおかしくなるフェルトさん。
慌てて声をかけるが、ファルトさんという怪しい人物が何故か出てき、混乱が起こりそうになるのだが、ファルトさんとは間違えて打ち込んでしまっただけで、正しくはフェルトさんであり、そのフェルトさんは勢いよく立ち上がる。
そして、何かにおびえるように、長官執務机に隠れるようにうずくまって、何かをおびえていた。それをソファーから訝しむように見る伍長閣下。
と、その時!
「どうも~、こんにちぃは~」
「うわぁ!?」
メイド服を着た……丁度フェルトさんと近い歳だろう。血の気が引いたような真っ白な肌に淡い青色の髪をポニーテールにまとめた可愛らしいというより可憐な少女だった。
その少女が、伍長さんの頬にぴったりとくっつき覗き込んでいる。
思わず一歩退いてしまう伍長さん。
「初めまして、アドルフ閣下。メイド長のレミレア・ミュッヘルです。いつも陛下が御世話になっています」
にこやかに笑っているが、心の中に何やら恐ろしいというかおぞましいというかそんなものを感じる。
「あはは、こりゃどうも……。あれ? 何で私の名前を?」
「うふふぅ、そりゃ陛下の監視係ですから、親しい人の情報はすべて把握してますよ」
「ははは、さ、左様で……」
この少女の闇がはっきりしたので伍長は苦笑いを浮かべていた。
そう、この子、言葉通りならばフェルトさんを一日中監視しているという事になる。果たしてプライバシーは保護されているのだろうか? またこの世に新たな謎が生まれてしまったようだ。
「ところで、陛下はどこですかぁ? この部屋にいるのはわかっているんですよ。アドルフ閣下、陛下はどこですか?」
え、笑顔が怖い……。
「はは、さ、さぁ」
伍長は、自身の手に汗がびっしょりだったことにようやく気が付いた。
それほど、この少女の周りに漂っているオーラに怖気ていたのだ!
「うふふふふ、嘘つかなくていいんですよ。陛下ぁ! 出てきてくださぁい! 帝王学のお勉強の時間ですよ!」
「……。……。」
返事がない、ただの屍かもしれない。
「ふふふ、だんまりですか…。いいですよ、すぅぐ見つけてお仕置きしますから♪」
最近♪が流行っているらしく、よく皆さん使っている。……いったい何の話だ!?
レミレアさんはそのまま、長官執務机に向かい、しゃがみ込んだ。
「ふぇ?」
「あはは、見つけました。では陛下、行きますよ」
レミレアさんは机の下から、ものを掴むようにフェルトさんの着ている洋服の襟をつかみ引きずる出す。その様子を見ていた伍長は、駄々っ子を無理やり連れだす母親みたいだな……。そう思ったという。
「さぁ陛下、時間を破った罰、わかりますよね? 折角アドルフ閣下がいるんですし、見てもらいましょう」
「ふぇぇぇぇぇ! あれ!? あれやるの!?」
あれとはあれのことであって、あれのことではない。あれあれ言っていると徐々にゲシュタルト崩壊していくという呪いがあるかも無いかもしれないが、今は関係ない。
なお、彼女? 彼ら? がやる”あれ”とは、恥ずかしいっちゃ恥ずかしく、日本伝統の罰ゲームである。中の人は内容を書こうとしたが、恥ずかしくて書くのを諦めてしまった。
ってか、レミレアさん、めっちゃ悪そうな表情してるな…!
「じゃあ、行きますよ」
ズルズルと、引きずるようにフェルトさんを長官室から連れだしていくレミレアさん。
それを国家元首たるものが、こんな扱いで大丈夫かな? と冷や汗を浮かべながら見る伍長さん。ツッコんだら負けだと思ったのだろうか。何も言わず見送った。




