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大島サイクル営業中・2018年度  作者: 京丁椎
2018年 10月 大島と磯部 結婚する
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結婚式当日・前篇

フィクションです。登場する人物・団体・地名・施設その他は全て架空の存在です。

実在する全てと関係ありません。

 朝6時。昨晩はぐっすりと寝て2人とも体力全快で早起きをした。


 式場へは9時半入りだ。式の最中に新郎新婦がモリモリ料理を食う訳に行かないから朝ご飯はしっかり食べておく。酒も入るから空きっ腹だと何かと不味いからだ。特に新婦のリツコさんは酒をたくさん呑みかねないのでしっかり食べさせておく。


「ここで秘密兵器・牛乳&豆乳~!」

(式の間に酔いが回らんかったらエエわ)


 ゴッキュゴッキュと豪快に牛&豆で出来た乳を流し込んだリツコさんはモリモリと朝ごはんのトーストを頬張った。ほっぺたがパンパンでいつもと違ってリスみたいだ。


「牛乳と豆乳のたんぱく質が胃壁を守るのよ」

「おお……神よ、式が終わった後で我を守りたまへ」


 いつだったか、牛乳を飲んでから酒を呑んだリツコさんは飲み会の後で酔いが回って大暴れした事が有った。新婚旅行はキレイな顔で行きたい。出来ればお義母さんに会うまでは何とか無事でいたい。


「高砂で爆呑みは止めてや。頼むからやめてな」

「それはフリ?」


「フリじゃねえわ!」


 俺の朝食は飯とインスタントみそ汁。あとは目玉焼きとウインナーと刻んだキャベツだ。キャベツを食べておくと、何となく二日酔いにならない気がする。


「こんなゆっくりした朝は久しぶり。メイクも無いし、準備もほとんど中さんのお友達が勧めてくれたもんね。こんなにノンビリしてて良いのかしら?」


 誰も言わなかったけど、同期の連中は俺と桜さんの事を覚えていたからここまでやってくれたのだと思う。今回こそは無事に送り出してやろうというどうこの心意気だ。ありがたい。式まで時間があるのにもう泣きそうだ。


「ほらリツコさん、ノンビリしてたらアカンで。準備と確認をする」

「もう、中さん慎重すぎる~」


 持ち物の確認をしたり式の細かな事を話したりしているうちに御迎えの車が来た。


「ゴルァァァアァァァァ!」

「ヒァァァァァァ!」

「ヒュゥゥゥゥ……シャウッ!」


 バキベキバキベキゴキンッ!グジャッ!………。


「何やろう?喧嘩かなぁ」

「もうっ!私たちの門出の日なのにっ!」


 騒ぎが収まって玄関から声が聞こえた。


「おはようございます。まさでございます。御迎えにあがりました」


 金一郎の手配してくれたのは政治家が乗る様な黒塗りのリムジンだった。


「それじゃ行きましょうか、お姫様」

「うむ、苦しゅうない……って政さん、何言わせるのよ」

「政さん、よろしくお願いします」


 政さんはなかなか愉快な人らしい。俺達二人が後席に乗り込もうとした時。


「よっ! お二人さん行ってらっしゃい!」


 ご近所の奥様方が見送ってくれた。何故か足元にゴミ袋が転がっている。もしかすると俺達の門出の為に掃除をしてくれたのかもしれない。俺達の様子を察したのか政さんが説明をしてくれた。


「ごめんなさいね。少し騒がしかったでしょ」

「何か有ったんですか」


「掃除です。門出に汚いものを踏んだりしたら縁起が悪いですからね……」

「?」


 政さんの運転で静々と会場入り。寿光苑の支配人が出迎えてくれた。


「ようこそ大島様。こちらでございます」

「よそよそしい物言いは止めてくれ。同期やんけ」


 何処に行っても同期が居る。第二次ベビーブーム世代は数が多い。


「しゃあないやろ。同期がやっとこさ結婚するから気合を入れてるんや。ちっとは受け入れえ。みんな今日の為に気張ったんやぞ」

「ありがとうございます。よろしくお願いします」


 リツコさんが上手い事まとめてくれた。化粧や着替えなどの為にここから別行動。新郎の支度なんぞ新婦のオマケだ。着替えたら終わり。暇なので新婦の様子を覗きに行こうかと思ったけど止められた。


「花嫁さんの姿はリハーサルまでお預けですよ、大島君」


 やっぱりこいつも同級生だ。多分この女性は中学の同期だと思う。


     ◆     ◆     ◆     ◆


「うむ、我ながら化粧で大化けするもんだ」


 ウエディングドレスを着た私の姿は可憐としか言いようがない姿だった。どの位可憐かというと、つまらぬものを斬ってしまう侍が思わず唸ってしまうくらいだ。


「化けたねぇ」

「磯部…いや、リツコさん、キレイですよ」


 晶ちゃんが挨拶に来てくれた。晶ちゃんはビシッとスーツ姿が良く似合っている。

イケメンを見ていると結婚への決意が揺らいでしまいそうになる。

 ※晶は女性です


「晶ちゃんも格好いいよ」


 私達の並んだ姿はどう映るのだろう。少し気になったので、お色直しの時はもう少し大人っぽいメイクにしてもらう事にした。


「新婦さん、準備はいいですか?」

「はい」


「じゃあ新郎と仲人さんを呼んで来ますね」


 扉が開いて私を見た時の中さんと仲人の高村夫妻の驚いた顔は私の心のメモリーに永久保存だ。


「どうして黙ってるの?」

「言葉に出来ん美しさやからや」


 高村社長はピンファリーナのデザインが何とか言って唸っているし、奥さんは「あらあら、まあまあ」を繰り返している。参ったか。


 この後は仲人の高村さんと最終の打ち合わせをしたり、電報をチェックして読むものと名前だけの物を振り分けたりしているうちにリハーサルの時間になった。


     ◆     ◆     ◆


 11時からリハーサルと写真撮影。細かな所を何度も練習する。


「中さん、慣れてる」

「何回見て来たと思ってるんや」


 お互いに何度か友人の結婚式に出ているから段取りは八割方わかっているのが悲しい。それだけ結婚が遅れていると言う事だ。リハーサルを終えてから写真撮影。


「こら大島!リラックスやリラックス!可愛い嫁さん貰って羨ましいぞ!」

「羨ましいやろ!」

「知り合い?」


 カメラマンも同期だ。どうやら周りは全部同期や同級生で囲まれているらしい。どいつもこいつも仕事で欠席なんておかしいと思った。欠席しまくっているのに祝儀だけ集まった理由がやっとわかった。


「ほらっ!行くで~!」


 パシャッ!


「もう一丁!」


 写真の出来が気になる。でも、多分今まで取った写真の中で一番良い写真になっているはずだ。


     ◆     ◆     ◆     ◆


 時間に余裕がある様な無いような。バタバタとチャペルへ移っていよいよ式がスタート。まずは牧師と俺が入場。続いて高村夫妻ががリツコさんを連れて入場だ。


「新婦と仲人が入場いたします」


 エスコートが高村社長、ベールダウンが奥さんだ。2人にはずっと可愛がってもらっているなぁ。


(人生はクロスミッション……上手くつながる様に出来ている)


 ベールダウンをしてもらっているリツコさんは普段と違っておとなしく、美しい。

 高村社長にエスコートされたリツコさんが俺の元に引き継がれ2人で牧師の前に。


(リツコさん、緊張してるなぁ。俺もやけど)


「新郎(あたる)、あなたはここにいるリツコを、病める時も、健やかなる時も、富める時も、貧しき時も、妻として愛し、敬い、慈しむ事を誓いますか?」

「はい、誓います!」


 厳かな雰囲気に合せて落ち着いた声で、ただし声は大きくハッキリと宣誓する。


「新婦リツコ、あなたはここにいるあたるを病める時も、健やかなる時も、 富める時も、貧しき時も、夫として愛し、敬い、慈しむ事を誓いますか?」

「はい!誓います!」


 透き通ったよく通る声。やはり普段から話をする仕事だと声を出し慣れている。迷いが無く真っ直ぐな良い宣誓だ。


 「指輪を交換していただきます」


 先ずは俺がリツコさんに、そしてリツコさんが俺に。それぞれ薬指に指輪を贈る。


「新郎は新婦のベールを上げてください」


 一歩踏み出すとリツコさんが膝を少し落とした。ベールを上げると少し目が潤んだリツコさんの顔が現れた。


「それでは誓いのキスを」


 ここではいつもの玄関でする様なキスはしない。約束通りの軽いキスだ。キスのあとは結婚証書に署名だ。リツコさんをエスコートして署名をする。


「それでは、御両親代わりの仲人さんにご挨拶を」


 両親が出席しない結婚式だと牧師もやりにくそうだ。ちなみにこの牧師も同期だったりする。俺の同期は地元に残り過ぎだ。


「新郎新婦が退場いたします。盛大な拍手をもってお送りください」


 リツコさんをエスコートしてヴァージンロードを歩き、参列者に挨拶をして退場。人生で一番緊張した数十分だと思う。多分、初めて組んだエンジンに火を入れた時以来の緊張だ。


 いよいよ夫婦となった……まぁ法律上は夫婦になっているけど、そんな俺達を友人たちがアフターセレモニーで祝ってくれたのだが、これが痛いのなんの。


「このやろっ!若い嫁さん貰いやがって!」

「毎日カボチャばっかり喰っててみろ!胸焼けするぞっ!」

「俺もたまにはメロンが食いたいぞ!」


 同期の農家が用意してくれたライスシャワーは散弾銃の如く俺を襲った。大きな粒の立派なコメはこの後回収して鶏が美味しくいただきました。


「イタタタタ……あ~痛っ」


「中さん、私はメロン?」

「うん、ピチピチの食べごろな泰山寺メロン」


「私ってそんなに熟してる?」


 緊張から解放されたリツコさんが話しかけてきた。さっきまでの緊張した表情とは大違い。やっぱりリツコさんは元気な顔が良い。


「新婦によるブーケトスが行われます。独身の方は前の方へどうぞ」


 リツコさんの投げたブーケは放物線を描き、葛城さんが受け取った。間違っていないけれど、何か間違っている気がしないではない。会場内からどよめきが聞こえるのが解った。


「あれ?ブーケって男の人が貰っていいんだっけ?」

「今はほら、オネエって居るからね」

「ってことは男×男で……ぐえっへっへっ」


「私は女ですっ!」


最早ここまでの流れは伝統芸能である。とは言え、スーツ姿のイケメン女子はそのうち良い人と結ばれるだろうと思う。


「そっか、晶ちゃんは女の子だった」

「お約束やな」


 ブーケトスのあとは皆で記念撮影。カメラマンはやっぱり同期だ。


「よっしゃ!みんな集まれ~!撮るで~!」


 やっぱりリツコさんはリラックスした笑顔が良い。


「どうしたの? 私の顔に何か付いてる?」


 見ていたら気付かれた。


「キレイやなあって」


 それ以上の表現が出来ない。俺の表現力では言い表す事が出来ない。炊き立てのご飯よりツヤツヤと白く輝いている……ほら、言い表せていないじゃないか。


 バキィッ!ゴスッ!


 見とれていたら何処かから叫び声と破壊音が聞こえて来た。


「ぐあぁぁぁぁ~!」

「お前ら何しとるんじゃゴルァ!」

「ひえぇぇぇぇ!殺さないでぇぇぇぇぇ!」


 せっかく美しい花嫁姿のリツコさんを見ていたのに雰囲気が台無しだ。安曇河は田舎町なせいか酒を呑むと荒ぶる野郎が多い。寿光苑は宴会場もあるから、何処かの団体で暴れている者が居るのだろう。


「どうしたのかしら?」

「さあ?」


 夢から覚めた気分で俺達は披露宴の支度へ向かった。


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