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大島サイクル営業中・2018年度  作者: 京丁椎
2018年 10月 大島と磯部 結婚する
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結婚式当日・後編

フィクションです。登場する人物・団体・地名・施設その他は全て架空の存在です。

実在する全てと関係ありません。

披露宴の開宴は13:30分と昼飯を食うには少し遅めだ。高砂でバクバク喰う訳には行かないので控室で軽くサンドイッチをつまんでから入場だ。私はたぶん大丈夫だけど、中さんも呑む事になるから心配だ。


会場の入り口でゲストをお出迎えしていたら竹ちゃんが来た。


「先輩、キレイっす。今日は呑み過ぎちゃいけませんよ」

「牛乳を飲ませたから大丈夫ですよ」


「それは時間差で怖いんですよ」


竹原め、要らん事を言いやがって。旅行から帰ってきたら折檻だ。


「それでは、新郎新婦の入場です」


♪~


緊張するような恥ずかしいような嬉しいような複雑な気分だ。緊張してエスコートする中さんの姿がちょっと可愛い。


「新郎の中さんと新婦のリツコさんの出会いは……」


中さんが言ってたけど司会者も中さんの同期なんだって。第二次ベビーブーム世代は凄いや。「掃いて捨てるほどいる」って言ってたのは本当みたい。


「それでは仲人さんのご挨拶と乾杯の音頭を」


高村ボデーの社長さんだ。中さんを可愛がってくれているボデーショップのおじさんだ。


「本日は御日柄もよく…」


正直なところ聞き飽きた様な仲人のお祝いの言葉。それだけ結婚が遅れてるって事だね。


「新郎新婦には大切にしていただきたい3つの……」


結婚式名物の『3つの袋』の話だ。普通なら『お袋』『胃袋』『給料袋』だと思う。たまに『池袋』『ゴミ袋』『金〇袋』なんて言う人が居るけどそれもまた一興。おめでたい席なんだから笑って流そう。そう思っていたら変化球が来た。


「袋の話は聞き飽きているでしょうから、私からは『口』の話をさせていただきます。まずは『話す口』です。夫婦の会話を大切にしてください。お互いの気持ちを伝えあって理解し合う事。『言わなくてもお互いわかる』な訳ありません。一つ目はお互いに自分の気持ちをしっかり伝える口」


う~ん、そう来たか。中さんは口下手なところがあるからなぁ。ぐっと耐えるだけじゃなくって相談して欲しいな。社長さん、良く分かってる。中さんが仲人をお願いした理由がわかった。


「二つ目は『食べる口』です。男も台所に立つ時代です。幸い中君は料理が上手ですからリツコさんに美味しいものを食べさせてください。そして、リツコさんは中君が食うに困らない様にしっかり稼いでください。中君は欲が無い奴です。儲け度外視で仕事を引き受けて稼ぎがイマイチな時があります」


私が料理下手な事は言わないでくれた。うん、これで私がお料理をしなくても大丈夫だな。これは袋の話だと給料袋になるのかな?旦那さんと奥さんの役が逆な気がするけど。


「最後に三つ目ですが、スキンシップ。いつまでも『行ってらっしゃいのチュー』をするくらい仲の良い夫婦であり続けることを願って、私の祝いの言葉とさせていただきます。中君、リツコさん。ご結婚おめでとうございます!乾杯!」


ダラダラ続く挨拶をする仲人さんが多いけど、高村さんの祝辞は切れ味鋭く味わいたっぷり。美味しいビールみたいだった。


「続きまして、新婦の友人代表で竹原螢一様からお祝いの言葉を賜ります」


私の友人代表は竹ちゃんだ。学生時代からの付き合いで職場でも一緒だから私の事をよく知る人物の一人だ。いい加減な事は言わないはず。言ったら後で折檻だ。


「只今ご紹介に預かりました竹原です。新婦のリツコさんは私の学生時代の先輩でありまして、社会人になって以降は……」


当たり障りのない内容でホッとする反面、ちょっと残念だ。もっとこうグッとくる事を言って欲しかったのにな。弟みたいに可愛がったのに。


「最後に、中さん。リツコさんは私にとって先輩であるだけでなく、面倒見が良い姉のような存在です。くれぐれも泣かす様な事をしない様に。以上を持って私のお祝いの挨拶とさせていただきます」


最期で締めたなぁ。『くれぐれも泣かす様な~』でファイテイングポーズなんて祝いの席なのにちょっと怖かったぞ。まあいいか、中さん、私を泣かす様な事するなよっと。


「それでは、新郎新婦の初の共同作業となりますケーキカットを。カメラをお持ちの方はどうぞ前へ」


ケーキカットの後は食事と歓談だ。その間に私たちはお色直し。キレイなお姉さんメイクからいつものガッツリメイクにした。


「おおっ、化けた」って言ったのは竹ちゃんだ。さっきのスピーチに免じて許す。


キャンドルサービスで火が点きにくくするのはお約束。キャンドルの芯に出席者が様々な悪戯をしている。逆に燃えやすくする机もあったけど、八割方は濡れて燃えにくくなっていた。


「む?火が点かんな……バーナーで」

「点けるなっ!」


ここで中さんは冷静に懐からバーナーを出そうとしたけどキャンドルサービスだからやめさせた。何処に隠し持ってたんだ。こんな所は用意周到でなくて良いのに(笑)


余興で晶ちゃんの『極め付けお万の方』熱唱や、中さんのお友達の安井さん・小島さん・西川さんの懐かしいお祝いの歌があったり。金ちゃんが号泣したり。三矢社長が何かしそうなものだけど、神妙な面持ちで下を向いている。


本当なら花嫁から両親にあてて手紙の朗読でクライマックスだけど、どちらも両親が出席していない。パスかと思っていたら思わぬサプライズがあった。


「本来なら新婦から御両親へ手紙の朗読ですが、新郎・新婦どちらの御両親もいらっしゃらないと言う事で、新婦への手紙を紹介したいと思います。三矢不動産社長・三矢公一様。よろしくお願いします」


三矢さんからの手紙って何だろう。中さんの方を見たら「しっかり聞きなさい」と目配せされた。


「只今ご紹介に預かりました三矢です。新郎の中さんは友人であり、新婦のリツコさんはご近所のお嬢さんです。そんな新婦の御実家は嫁がれてこともありまして弊社が管理および賃貸の仲介をしております。先日、お家の入居者が掃除をしていた所、机の中から新婦へあてた手紙が出て来たそうです。本来ならばお母様が読まれるところですが、震災の影響も有り、本日は欠席されておられますので代理で読ませていただきます」


私の実家は億田金融に勤める今津さんに貸している。大きな家具はそのまま置いてある。父の秘密基地は大まかな掃除をしただけだったはず。徹底的な掃除はしていないから引き出しに何か残ってたのかな?


「ねえ、中さん?」

「しっかり聞いて」


中さんは何か知っているみたいだ。


「『リツコへ。この手紙が読まれていると言う事は僕はもうこの世に居ないでしょう。最近体の調子が思わしくないので手紙を残しておきます。小さい頃から僕に懐いてくれた可愛いリツコ。君はどんな花嫁さんになるだろう。お料理は上手になったかな?素敵な女性になったかな?お相手は優しい人だと良いな。甘えん坊な君の事だから、甘える事の出来る頼りがいのある素敵な男性と結ばれているだろうと思います。お父さんはそんな君の成長を見届けることが出来ずにこの世を去っている事でしょう。残念でなりません。リツコ、甘えてばかりでは駄目ですよ。旦那様を甘えさせてあげなさい。男だって甘えたい時があります。天国からリツコの幸せを願っています。父・幸和より』。以上、新婦のお父様からのお手紙でした」


三矢社長が丁寧に封筒へ手紙を入れて渡してくれた。


『リツコの結婚式で読んでください。幸和』


封筒に書かれている字は間違いなく父のものだ。


「引き出しの奥に挟まってたそうです」

「お父さん……お父さん……」


私は泣き崩れそうになった所を中さんに支えられた。最後の最後にとんでもないサプライズ。花嫁が会場を感動させる場面なのに、私を泣かしてどうするのよ。『泣かせない』って言ってたのに、中さんの嘘つき。でも、ありがとう。


(こんな泣き方をするとは思わなかった)


泣いてしまって顔がぐしゃぐしゃだ。崩れたメイクを落としてスッピンで御見送りする羽目になった。


「リツコ!アンタ全然変わってないじゃない!」

「どうだ!羨ましいだろう!ニャハハハハッ!」


私の顔は高校や大学の頃と変わらないらしい。久しぶりに会った友人たちに大笑いされた。


そしてお開きの時間。楽しい時間はあっという間に過ぎてしまった。二次会は18時からなので一旦家に荷物を置きに帰った。


「あれ?政さん、その顔はどうしたの?」


迎えに来てくれた政さんの顔に擦り傷があった。


「ちょっと掃除をしていたら擦りました。歳ですねぇ。手が出るのが遅れまして」


運転手さんも大変だ。私達は式でバタバタしていたけれど、政さんはずっと待っててくれたみたい。ピカピカのリムジンで私たちは家まで送ってもらった。


     ◆     ◆     ◆     ◆


夕方6時からは、式に出なかった私や中さんの友人たちと二次会。馴れ初めを聞かれたりするのはわかってたけど、まさか初めて結ばれた日の事まで聞かれるとは思ってなかった。学生時代は聞く側だった反動が一気に来た。


「で?リツコの初体験物語を聞かせない訳が無いよね~?私たちの時にさんざん聞いて自分が話さないって事は無いよね~?」


「こっちからキスしたら(以下検閲)」


残念ながらキスからは18歳未満閲覧禁止な話だ。


中さんは「若い綺麗な嫁さんを貰って良かったなぁ」って言われてジャンジャンお酒を呑んでる。おじさん連中は容赦無く中さんに酒を注ぎ、中さんもジャンジャン呑んでいる。普段なら家事が出来る程度にしか呑まない彼が酔っぱらって真っ赤だ。


「ワシが注いだ酒を呑めんのかい!」


旦那様がピンチだ。ここで助けるのが妻の役目。


「酒に弱い婿殿に代わって私が呑ませていただきますっ♡」

「あっ!バッカスリツコが登場だっ!」


「1番、磯部改め大島リツコ、泡盛一升呑み、いっきま~す!」

「アカン!後が怖いからやめて!」


「ふむ、これは度数が軽い泡盛か、じゃあ御返杯で一升どうぞ♡」

「いや、これはさすがに無理」


「おじ様、私の御返杯を受けて下さらないの?」


御返杯したらおじさん連中は全部潰れた。だらしが無い連中だ。


「つまらぬものを斬ってしまった」

「呑み過ぎや」


二時間ほど大騒ぎをして二次会がお開きになった。


「私たちの為にこの様な楽しい二次会を開いていただきましてありがとうございます。今度こそ幸せになります!」


中さんの締めの挨拶で二次会は解散。


「酔った。眠い……眠い……」


私は気が抜けてベロベロに酔いが回った彼をタクシーに放り込んで家に戻った。こんなに中さんが酔うなんて初めて見た。今日が新婚初夜になるのかな?三つ指を付いて「不束者ですがよろしくお願いします」とか言ってから合体かと思ってたけど、今日の中さんはグニャグニャだ。


「グニャグニャのフニャフニャ、駄目だこりゃ」

「つままんといて~」


仕方がないからシャツとパンツにして寝かせる事にしたんだけど、服を脱がせていたらポケットから写真が2枚出て来た。


「あ……」


1枚目の写真には幼い頃の中さんと、怖い顔のおじさんと小太りなおばちゃん。多分だけど中さんの御両親だ。おばちゃんの方は中さんによく似ている。


「中さんはお母さん似なんだ……体格はお父さんかな?」


もう1枚は店の前でお爺さんと一緒に写った中さんだ。今より髪の毛が多くて若い。全体にスリムでお腹も全然出ていない。写真の裏には『開店前、先代と』と書いてある。お店がオープンする時の記念写真みたい。自撮りじゃない。三脚か誰かに取ってもらったのだろう。


「この人が先代……3人の写真を持って式に出てたのかなぁ」


この3人は中さんにとって大切な人だ。生きていれば式に出席して欲しかったんだろうなぁ。そのうち話してくれるよね、だって高村社長は夫婦の会話が大事って言ってたもんね。


「お母さん……むぅ」


(またいつか話してね。今日はお疲れ様。おやすみ)


新婚初夜だけど、疲れて酔った中さんが地響きの様ないびきをかき始めたので自分の部屋に布団を敷いて寝た。

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