3人のオッサン
フィクションです。登場する人物・団体・地名・施設等は全て架空の存在です。
実在する人物・団体・地名・施設等とは一切無関係です。
機械は使ううちに癖が出る事が多い。例を上げると『朝一番は~しないと動かない』『妙に高回転まで回る』『低回転でぐずる』…等だ。で、修理した者の癖が出る事も有る。
「お前のメンテナンスしたバイクやってすぐ分かった」
「そんなに癖があるんか」
「有るぞ。カチッと組んだ感じの独特なフィーリングが」
今日はオッサン3人が店に集まって井戸端会議(?)同級生の西川宏和(旧姓中島)と小島俊樹が店に来てくれた。社会人になって以来、3人とも休日がバラバラ。住む所は近いのに顔を合わす事が無かった。
「『じゃあ、また』って別れてから何年や?」
「20年近いんと違うか?最後に会ったのは…」
「宏和、それは言うな」
最後に顔を合わせたのは…桜…俺の婚約者だった女性の葬式の時だ。俺が思い出して場の空気が変わることを嫌ったのだろうか、俊樹が止めたけど、もうその辺りは振り切った…多分。
「まさか、お前等の娘が来るとは思わんかった。俺も歳を取ったな」
「まぁ、でもアレや…若い嫁さん貰うんやろ?まだまだ若いやんけ」
「男やもめに蛆が湧くって言うからな…良い事やで」
何か勘違いをしている様だが、蛆が湧く様な事もカビが生える様な事にもなっていない。
生ごみはきちんと捨てているし、風呂もピカピカだ。
「俺らが高校の時は自転車やったけんど、ヘルメット被る今の方がマシか?ウチの絵里はルンルン気分で走り回ってるわ。スピードは出さんから俺らの頃より安心かもしれんなぁ」
「まったくや、ヘルメットを被らんと時速60㎞の世界…狂ってたな」
我ながら事故で無事だったのはラッキーだと思う。死んでいたら今頃は土の下だ。
「瑞樹なんか時速50㎞で充分らしいわ。親父と大違いや、なぁ」
「バイクで違反すると警察の厄介になるからな…その位でええわ」
2人と話していると少しだけ心が痛む。もしもあの時に桜さんを病院へ送っていたら、今頃は同じ様に子供が通学でバイクに乗るのを心配して見守っていたのだろうか。2人と同じ様に幸せな家庭を築いていただろう。久しぶりに集まって何て事の無い近況報告や思い出話で時間は過ぎる。
「ま、これも何かの縁やな。娘とバイクを頼んます」
「俺も原付を買う時は来るしな。頼むわ」
「じゃ、また」
今度の『じゃ、また』はそれほど長い間は空かないと思う。
◆ ◆ ◆
「フンフンフ~ン♪」
中さんがご機嫌な様子でモヤシとキャベツ、そして豚肉を炒めている。
「ご機嫌ね、良いことあったの?」
味噌風味の香りがキッチンに広がる。いつもなら塩コショウで味付けする所なのに、今日は豆板醤と味噌を使ったピリ辛風味と見た。ビールに合う味付けだ。梅雨の時期は気温が上がるわ湿度は高いわで蒸す。スタミナをつけて乗り切りたいところだ。
「久~しぶりに同級生3人が寄ってな…楽しかったわ…」
「へぇ…」
中さんの同期は私に比べると多い…みたい。でも、高嶋市には仕事が無いから出て行った人とか、元々は大阪や京都からの転勤族がマイホームを求めて来たりで、本当の地元に根付いた人は少ないんだって。
「才能がある奴は高嶋市…いや、安曇河から出て行って活躍する…」
「そうなのかなぁ…」
ご機嫌だけど少しだけ寂しそうな背中を見て、私は晩酌をするのだった。




