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大島サイクル営業中・2018年度  作者: 京丁椎
2018年 6月
33/73

喫茶大島サイクル?

フィクションです。登場する人物・団体・地名・施設等は全て架空の存在です。

実在する人物・団体・地名・施設等とは一切関係がありません。

独り暮らしの澄香は家に帰ると話し相手がいない。親戚や中学までの同期が全く居ない高嶋市で誰かと話をしたくなった時、澄香は大島サイクルへ来る。何も無ければ話す事の無い上級生や他のクラスの同期ともバイクを通じて会話のできる社交場。昭和の時代で言えば駄菓子屋の様な物だろうか。


「実は…葛城さんは女性なんやで…」

「「「ええ~!!!!」」」


先日の一件で葛城が女性であることを知った澄香はその事を仲良くなった3人組に話した。

3人は雷に撃たれたように硬直し、今となっては懐かしの火曜サスペンスのテーマが脳裏に流れた。


そんな4人を見ながら笑っているのは速人と理恵。


「ふっ…若いな…」

「去年『も~~~~~~!』って言ってたのは誰だっけ?」


「それを言うな…あ、無くなっちゃった…」

理恵は15個目の大判焼きを食べ終えて鞄から鯛焼きの入った箱(5個入り)を取り出した。


「「「「ええ~!まだ食べるんですか?」」」」

「食べるよ?」


驚く4人組を前に鯛焼きにかじりつく理恵。身長150センチ未満のまな板少女は食べても食べてもまな板のまま。凹凸が出来る様子は全然ない。幸いな事に太る事も無いのだが。


「甘い物は別腹ってね、予備タンクみたいなもんだよ♪」

「お前の予備タンクはハコスカGTRの燃料タンク並みやなぁ…」


飲み物を持って来た大島は名車に例えたがハコスカGTRの燃料タンクは100ℓ入りである。


「はこすか?」

「スカイラインの事。昔のカクカクした車」


車の事を知らない理恵に分かりやすく説明する速人。2年生になってからの二人は今まで以上に仲が良い。いつも一緒に小さなバイクで走り回っているカップルとして後輩の間でも有名だ。


「先輩たちはいつからお付き合いしてるんですか?」

「私と速人は友達。付き合ってなんか無いよ~」


ケラケラと笑って答える理恵と後輩の4人。

速人の表情が曇ったのに気付いたのは大島だけだった。


「でも、先輩たちって有名ですよ?小さなバイクのカップルって」

「そう? そんな風に見える?」


下級生からそんな風に見られているとは理恵は知らなかった。


「まぁ、僕たちはギリギリモンキーやゴリラを買えたからね。去年に生産終了になってから部品や車体が値上がりしたから。先輩たちはモンキーやゴリラに乗ってる人も多かったんだよ」


現在の高嶋高校のバイク通学生のうちモンキーやゴリラに乗っているのは2年生と3年生ばかり。1年生はスクーターやカブ、その他のバイクの乗っている生徒が多い。これはホンダモンキーの生産終了後からのプレミア価格の影響が大きい。学年に何人か居たモン・ゴリ乗りは2018年入学の生徒ではいない。


「私たちの学年でも乗ってる人いますよ?」

「うん、何人か居るよね」

「あ、でも外国から輸入した外車とか言ってたで」


最近流行の外国製のホンダモンキーに似たバイクを楽しむ流れは有る。ところが壊れる部分も多い。ゴム部品やガスケット、あとはオイルシールと弱点があるのだとか。買って最初にするのがオーバーホールだとかオイル交換だとか聞いた事も有る。残念ながら素人がホイホイと買うバイクじゃない。実用車として使うにはデリケート過ぎると思う。バイクを触り慣れたベテランプライベーター向けのオモチャだ。

※作者と大島の個人的見解です


「おっさんはアレに関しては勧めんなぁ…」

「そう?安かったらええやん」


安ければ良い物ではないと説教しようとしたら速人が1年生に話しかけた。

速人は怪しい部品で痛い目に会わされているから体験談を話してもらおう。


「あのね、海外から来るバイクとかエンジンは安かろう悪かろうの物も多いんだ。安いのに排気量が大きいからと飛びついたりすると痛い目に会うから気を付けないとね」


痛い目に会っているだけあって速人の言葉には説得力がある。


「アフターサービスも考えないと売りっ放しで修理もしてもらえず路頭に迷うからね」

「酷い店で買うとアフターケアは無いから…速人は困ってたもんねぇ」


速人がモンキーを買った店…もう名前も忘れてしまった。


「壊れて持って行ったらさらに壊されてぼったくられてたな」

「ええ、今では笑い話ですけどね」

「亮二に引っ張られて私の所に来たんだよね~」


速人を引っ張って理恵と友人にした佐藤君は今日は来ていない。Dioの綾ちゃんとデートだ。


「亮二って佐藤先輩ですよね?」

「あのトゲトゲ頭の先輩?」

「沢井先輩の彼氏ですよね?」

「バイクに乗ったら彼氏が出来るんやろか?」


澄香ちゃん…残念ながらバイクに乗るのは世間一般では恐らくマイナスイメージだ。女性がバイクに乗ると縁遠くなる気がする。お転婆と思われて、男性と縁が無くなって、酒に走って…あ、これはリツコさんか。


「で、今さら聞くのも何やけど、今日は何の用や?」

「何も用は無いけど飲むもんが欲しいかな~って」


ウチは喫茶店じゃねーよ…


「まぁええわ…ところで、大津から越してきた二人は高嶋には慣れた?」


俺は県外へ出る事が少ない。店があるから遠出はしないのも有るが用事が無いのも理由だ。下手すると市外に出ない年も有るくらいだ。よそから来た若者に高嶋市…いや、安曇河がどう見えるかに興味がある。


「ん~、田舎かな?」

「必要最低限は揃った田舎町?遊ぶところは無いよね」


残念ながら2人が言う通りだと思う。少なくとも安曇河町に関しては生活で不自由はしないが遊ぶところは少ない。


「だから授業が終わったらさっさと帰る。ばあやが狙ってたのはこれやろか?」

「ばあや?真野さんのお家は家政婦さんが居るの?」


速人が代表して質問している格好になるが、みんな驚いている。家政婦さんなんて雇えるお金持ちは高嶋市で聞いた事が無い。


「もうお婆ちゃんになって辞めてしもたけど…小さい頃からこの春まで居たよ?」


想像がつかない世界の話だ。居たというからには住み込みの家政婦さんだろうか?


「ばあやがアパートを知り合いの不動産屋さんにお願いして…」

葛城さんのアパートは三矢社長が関係していたはず。となれば、ばあやさんは三矢社長の知り合いか。三矢社長は顔が広いな。殆どの付き合いが市内で完結する俺とは大違いだ。


「凄いね~、じゃあ今都の人よりお金持ち?」

「う~ん、今都の人ってお金持ちなんかなぁ?古い車を乗ってはるし…」


古い車とは言え高級セダンばかりが停められている今都町。それを『古い車に乗ってはる』で片付けるとは相当なお金持ちと見た。


「ほな、ウチみたいな軽トラなんか貧乏丸出しやん…」

瑞樹ちゃん、軽トラは世界に誇るクールジャパンだ。卑下しないでほしい。


「ウチなんか中古のミニバン…」

「私んちなんてワゴン車…麗ちゃんちは?」

「ウチは普通の車。お兄ちゃんがトラック」


ウチに本当のお金持ちが来るとは思わなかった。今までウチに来る金持ちと言えば今都のばっかりだったから。本物の御令嬢が来るなんて驚きだ。


「で、澄香ちゃんちは何に乗ってたの?」


四葉ちゃんが恐ろしい質問をした。恐らく政治家や乗る様な車の名前が出て来ると思ったのだが…


「家は車が無かった…だから自由に走れるバイクに乗りたかってん」


都会やとバス・電車があるから車は要らないのだろう。


「お父さんは会社の車で迎えに来てもらってたけど…」


     ◆     ◆     ◆


「真野さんってお金持ちなんやってな」

「そうよ?知らなかった?」

「おじさん、詳しく聞かせて」


今日は晶ちゃんを呼んで夕食。最近全然来ないのは遠慮をしてたからなんだって。


「…ということで会社が迎えに来るんやってさ…はい焼けた」

「スゴイよね~あ、ニンニクと胡椒とって」

「私もニンニク。最近疲れ気味で…」


久しぶりに我が家へ来た晶ちゃんは少しお疲れ気味。週末の珍走団対策で駆り出されてるとか。だから今日の晩御飯は焼き肉♪ なのに中さんは鶏肉ばかり食べてる。そう言えばお父さんも胃にもたれるって鶏肉ばっかり食べてたっけ?


「珍走団が多くって…」

「ウチの生徒は大丈夫なはずだけど…」

「ウチのお客さんは居んはずや。カブでコールは出来ん」


私のゼファーちゃんならともかくカブでコールは出来ない。

ブ~ンブ~ンと郵便配達の音しかしない。


「無免許で乗るガキが多くって本腰入れてる」


高嶋市のバイク事情は乱れているらしい。

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