5-10 アンゲル エレノア
不機嫌に廊下を歩くエレノアの後を、アンゲルは必死で追いかけた。
「ヘイゼルから隠れるために入ったら、扉が開かなくなって困ってたんだよ!ありがとう!ねえ、エレノア!何でそんなに怒ってるんだよ!」
エレノアは答えずに自分の部屋に入ろうとした。
「待って!」
アンゲルがドアを手で止めると、エレノアは鋭い眼でアンゲルを睨みつけた。
怒った顔もすごく美しいな……いや、そんなことを考えてる場合じゃない!
「そんな怖い顔するなって!エブニーザは一人になりたいからって、あそこから出ようとしなかったんだよ。疲れてるんだ。常に一人でいたがるんだよ。いつものことだって。別にエレノアが嫌いなわけじゃない。それに、あそこで変なものを見つけたんだよ」
「変なもの?」
「躁うつ病の薬。しかも大量に」
「どういうこと?」
「誰かが、処方された薬を飲まずに、あそこに隠してたんだと思う」
アンゲルとエレノアがエブニーザの部屋に戻ると、誰もいない。クローゼットの扉を開けようとしたが、開かない。
「エブニーザ?まさかまだ中にいるんじゃないだろうな!?」
アンゲルが叫ぶが、返答がない。
「ったく。どこに行ったんだ?」
「ヘイゼルを探して、聞いたほうがいいんじゃない?」
「そうだなあ……俺はぜったいあいつが病気だと思う。2時間も一人でしゃべり続けるんだぞ、しかも人の荷物を勝手に……」
二人が去ったのを確認してから、エブニーザがそーっとクローゼットから出てきた。実は内側から開ける方法を知っていたのだ。
手には、薬の入った箱を持っている。




