5-9 アンゲル エブニーザ エレノア
アンゲルとエブニーザは、躁うつ病の薬のそばに座りながら相談していた。
「そうか、あの偉そうな態度、いつまでも終わらない長話、そしてあのへんてこりんな性格は、躁うつ病だったのか」
アンゲルが、謎を解いた探偵のような口調でそう言ったが、エブニーザは納得していないようだ。
「でも、ヘイゼルのものとは限らないでしょう?ここは別荘で、毎日暮らしている場所じゃないし……他の人のかも」
「そうだな……でもなあ、あの性格はやっぱり何かおかしいだろ?」
「そうですか?」
「そうですかって……」
「僕と違って、ヘイゼルは落ち込んだりしませんよ。躁はともかく『うつ』とは無縁だと思うんですが」
「じゃ、躁病なんじゃないか?」
「たしかに、この薬は飲むと落ち込みますけど……」
「そうなの?お前が飲んじゃダメだろ」
「僕もそう思ったんですけど、たまに、妙にニヤニヤしていることがあるから、おかしいって……」
「ニヤニヤしてる?」
エブニーザのそんな姿を、アンゲルは全く見たことがなかったので、不信の顔をした。
「その……彼女が見えて」
「彼女?ああ、妄想のね」
「妄想じゃありません!」
エブニーザがむきになって大声で叫んだ。
「わかった、わかったから。それよりこの薬は誰のなんだ?誰のにしても、こんなところに大量にあるのはおかしいぞ?処方を間違ってるか、もらったのに飲んでないか……」
そこで二人ははっとした。
「処方されたのに、飲まずにここに隠してるってことか?」
つまり、この薬の持ち主は、医者の診断を無視しているということだ。
……とにかく、ここを出て、ヘイゼルに聞いてみよう。
アンゲルはまた、クローゼットの扉と格闘を始めたが、エブニーザは部屋の隅に座り込んでしまった。
「ここから出たくない」
「はあ?」アンゲルは心底から呆れた「何言ってんの?」
「ここの方が静かですよ。外に出たら……またフランシスとヘイゼルが怒鳴り始める……」
「そんなのいつもの事だろうが!」
「エレノアもいるし……」
アンゲルの動きが止まった。それを見たエブニーザは『しまった!』という顔をして身を引きつらせた。
「おい」
アンゲルがエブニーザに近づいて、しゃがんで、エブニーザを正面から睨んだ。
「エレノアが何だって?」
「なんでもありません」
「何だよ?」
「何でもないですってば!」
「何でもないならなんで『エレノアもいるし……』って嫌そうな顔でつぶやくんだよ!?」
「ほんとに何でもないですってば!」
クローゼットの扉が突然開いた。
そこにいたのは、なんと、エレノアだ。
「騒いでる声が聞こえたから」ぼんやりした顔でエレノアがつぶやいた「そんなに嫌がられているとは思わなかった」
エレノアは部屋を出て行った。アンゲルがあわててその後を追った。
エブニーザは、部屋のドアを閉め、それから、またクローゼットに入って、扉を閉めた。
本当に一人になりたかったのだ。




