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アンゲルとエレノア  作者: 水島素良
第五章 別荘にて

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5-2 エレノア フランシス 

 エレノアは、ケッチャノッポにのどあめとチョコレートを没収されてしまった。

「のどあめは実はのどによくないの!糖分がだめなの!」

「えっ」エレノアがあわてて反論した「でも、今まで毎日チョコレートを食べていたけど、ちゃんと巡業でも歌えていたし……」

「だめよ、喉に良くないの!痰が絡むから!控えなさい!」

 エレノアは仕方なく、甘いものをがまんすることにしたのだが……。


 夕食のあと、フランシスは、スイーツを食べている自分を、エレノアがうつろな目でじーっと見つめていることに気がついた。

「食べる?」

 フランシスが皿を差し出しても、エレノアは、

「いらない」

 と言うのだが、やはり、じーっとスイーツを見つめ続けるのだ。

「ちょっと!いいかげんにしてよ!」

 最初は『歌のためなら』と我慢していたフランシスだが、三日目の朝に突然キレた。

「気持ち悪いっつの!!飢えた犬みたいな目をしないでよ!ちょっと来なさい!」

 フランシスは怒鳴りながら、嫌がるエレノアを引きずって、食堂を出て行った。

 それを見ていた他の生徒たちは、

「ああ、とうとうあの子も追い出されるんだわ」

「フランシスってどうしてあんなにヒステリーなのかしら」

「次はどんなのが来るんだろう?」

 と、口々に噂していた。

 フランシスは、エレノアを連れて『アルターで一番スイーツがおいしい』レストランに入った。そして

「甘いものを全部持ってきて!全種類!!」

と叫んだ。

「フランシス!!」

 エレノアが泣きそうな声で叫ぶと、

「全部食べなさいよ。あたしも手伝ってあげるから」

 と、こともなげに言った。

「だめよ、糖分がだめなんだってば、喉に……」

「まったく食べられないってわけじゃないでしょ?コンサートの前だけ控えれば?極端すぎるじゃないの。いきなりチョコレート禁止なんて」

「でも……」

 エレノアは泣き出してしまったが、それくらいで引き下がるフランシスではない。

「いいから食え!」

 エレノアは仕方なく、目の前に置かれたチョコレートケーキを口に運んだ。

 ああ、おいしい……。

 フランシスがそれを見てにやりと笑いながら、

「ヘイゼルの別荘に遊びに行くから、あんたも来なさい」

と言った。エレノアは、抗議の目をフランシスに向けた。

「いいじゃないの、ほんの一週間よ?親のところにはそのあと帰ればいいじゃない?新年にはパーティもあるし」

「パーティ?」

「偉い人がたくさん来るから、顔を売るチャンスなのよ」

 ……つまり、もう出なきゃいけないって決まってるわけ?

 最近、フランシスは、エレノアの行くところを、次々と、勝手に決めていた。オーディションに、パーティに、社交のなんとやら(エレノアには理解不能な場所)……。チャンスをあげたいという気持ちはわかるのだが、何もかも決められてはエレノアも困る。

 でも、フランシスを止めるなんて、誰にもできそうにないわ……。

 エレノアは、目の前に並んでいる『きれいなスイーツ』を見渡しながら、困り果てていた。



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