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アンゲルとエレノア  作者: 水島素良
第五章 別荘にて

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5-3 アンゲル ヘイゼル エブニーザ 別荘へ出発

 休暇がやってきた。

 ヘイゼルは、みんなを連れて別荘(やや北西よりの地方都市)に行くことに決めた。人の都合を聞かないで勝手に決める、これがヘイゼルのやり方である。

 アンゲルは行こうかどうか迷った。ヘイゼルと行動を共にすると、どんな厄介なことが起こるか想像がつかない。

 ……結局振り回されて、疲れ果てて終わるんじゃないか?

 アルバイトをそんなに長く休んでいいのだろうかとも思ったが、レストランの店主は、

「休暇になれば学生はいなくなるもんだからな」

 嫌な顔をしていたが、一応了承してくれた。

 まあいいか、どうせどっかに旅行しようと思ってたし……。

 アンゲルは行くことにした。


 そして出発の日。

 アンゲルがバイトを終えて帰ろうとすると、目の前に、いかにも高級そうな車が止まり、座席の窓からヘイゼルが顔を出した。

「乗れ!」

 ドアが開いた。

 通行人がみな、怪訝な顔でこちらを見ている。

 ああ、俺まで、金持ちのダメ息子だと思われてるな……。

 憂鬱な気持ちで車に乗った。乗り心地は悪くなかった。

 しかし、後ろから、誰かがすすり泣く声が聞こえてきた。

「ヘイゼル」

 アンゲルが疑惑の顔をヘイゼルに向けると、ヘイゼルはいつも通りニヤニヤしていた。

「ああ、実は、ノレーシュの姫君が、祖国の行事で不参加でね」

「そんなことより、後ろの席の……」

「エブニーザが『僕も行きたくない』ってわめきだしたのだが、行きたくないで済むことなんて世の中にはないからな、無理矢理車に乗せたのだが、暴れてね」

 アンゲルは後ろをちらっと見たが、人の姿は見えない。嗚咽だけが聞こえてくる。

「置いてきた方が良かったんじゃないか?」

「そんなわけにはいかんよ。あいつは部屋にこもりすぎる。ほっといたら休暇の間ずっと部屋から出てこない可能性もあるわけだ。ただでさえシグノーのご令嬢にミイラ呼ばわりされているのに、図書館なんかに何カ月も籠られてみろ、本当に化石になっちまう」

「別にいいだろそれでも」

 すすり泣きがバックシートから響いて来た。

 ……嫌な予感がする。

「良くない。エンジェル氏もこの前言っていただろうが『教育上よろしくない』って」

「それは金の問題だ。エブニーザの問題じゃない」

「だからな、シートベルトでぐるぐる巻きに縛り上げてやったのさ」

「何ぃ!?」

 慌ててアンゲルが、身を乗り出して後部座席を覗くと、そこには、手足をシートベルトで縛られて、人質のように横たわっているエブニーザの姿があった。

「お前はアホか!?」アンゲルがヘイゼルに向かって怒鳴った「これじゃ、人さらいと同じだろうが!何を考えてるんだ!?エブニーザに昔の事を聞くなって言ったのはお前だろ!?犯人と同じことをしてどうするんだよ!?犯罪だぞ!もっと症状が重くなったらどうするんだよ!?責任問題だぞ!?」

「ショック療法になるかと思ったのだが」

「なるか!」

 アンゲルがエブニーザを助け出そうと、シートの上から後部座席に移ろうとすると、ヘイゼルが、

「余計なことをするな!」

 とつかみかかってきた。アンゲルは全力でヘイゼルを蹴って、後ろの座席に移ろうとしたのだが、ヘイゼルに掴まれて引きずり戻されてしまった。

「離せこのティッシュファントム!」

「ティッシュファントムじゃない!シュッティファントだ!」

「どうでもいいから離せえええええ!!!!」

 二人は車内で乱闘を始め、エブニーザはさらに激しく声を上げて泣き出してしまい……。

 一人正常な運転手は、時々後ろの『狂った金持ちのバカ息子たち』を、呆れた顔でふり返っていた。



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