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アンゲルとエレノア  作者: 水島素良
第四章

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4-22 アンゲル ヘイゼル エレノア

 アンゲルは、エレノアがいないかな~と思って、本を読みながら図書館のカフェに座っていたのだが、残念ながら、そこに通りがかったのはヘイゼルだった。

「ここで誰を待っているのかな?」

 とニヤニヤしているヘイゼルに、アンゲルはむっとした顔で、

「別に、勉強してるだけだよ!」

 と言い返した。

 ヘイゼルは、フランシスが起こしたことと、エレノアに会ったことを話した。

「だから、ここで待ってても来ないですぞ?ククク」

「……お前やっぱり悪魔だな」

 アンゲルが立ち上がると、ヘイゼルはにやにやしながらアンゲルを引き止めた。

「まあまあまあ、たまにはここで話でもしようじゃないか」

「どうせ同じ部屋だろ、ここでまでお前となんか話したくないね!」

 アンゲルはヘイゼルを置いてその場を立ち去ろうとしたが、クラウスが近づいて来るのが見えたので、声をかけて別な席に一緒に座った。

 二人で管轄区の話やイシュハの話をする。クラウスの話はあいかわらず内容が暗く、哲学的で謎めいていた。

 本人も、自分が何を話しているか、わかってないんじゃないだろうか……。

 アンゲルは話題を変えようと思い、何を専攻しているのか聞いてみると、クラウスはそれには答えず、

「なんのためにここで勉強しているのかわからない」

 と言って黙りこんだ。

 アンゲルも返答に困った。

 自分はなんのためにここにいるのだろう……?



 次の日、アンゲルがカフェでぼーっとしていると、エレノアがやってきた。

 エレノアは、フランシスが集会場で暴れた話をした。

「ヘイゼルって、本当は優しいんじゃないかしら」

「ヘイゼルが?」アンゲルが抗議の声を上げた「おいおいおい、熱でもあるんじゃないか?練習のしすぎで疲れたんじゃないか?」

「違うわよ!」

「まあ……そうだなあ、少なくとも、俺とエブニーザはあいつの家のことなんかどうでもいいな。俺はそもそもシュッティファントなんて名前知らなかったし、エブニーザは自分の事で悩みすぎて、そんなこと気にしてる余裕もないんだ。俺たちはただ、ヘイゼル自身の性格の悪さに困ってるだけでね!」

「だから仲がいいのね」

「は?」

『仲がいい』という言葉の定義が知りたいと、アンゲルは思った。

「家の名前しか見てくれない、誰も『ヘイゼル』『フランシス』っていう人間を見ない……」エレノアがぼんやりと遠くを見た「でも、あの二人だけじゃないわね。みんな、その人自身を見ているようで、表面的なことしか見えてないのかも。見た目とか、顔とか、髪や目の色とか……本人の気持ちとはまるで関係のないことばかりを」

 エレノアが立ち上がり、冷ややかな目でアンゲルを見おろしながら、真剣な声でこう言った。

「ねえ、心理学で、人の本当の姿が見える?それとも、やっぱり表面的なことしか分析しない学問なの?私はそれがすごく気になるの」

 エレノアが去っていく。アンゲルは考え込む。

 その人の本当の姿……って何だ?

 どうしてエレノアが心理学のことを気にするんだ?

 アンゲルは困惑しながら、そのままカフェでクラウスが来るのを待っていたのだが、閉店する時間になっても、彼は姿を見せなかった。

 何かあったのか?

 寮に様子を見に行こうかとも思ったが『おせっかいすぎるのはよくないよな』と思い、自分の部屋に帰ることにした。



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