3-14 エブニーザ クー 図書館
そのころ、姫君クーは、図書館内の資料室でエブニーザに会っていた。
「私が来ることはわかっていたでしょう?『予言者』さん?」
そんな意味深な発言をすると、エブニーザも優しく笑った。
前にノレーシュ語で会話した時に、『自分には未来が見える』という話をしていたからだ。
そして、クーはノレーシュの王位継承者である。
ノレーシュは、神話の発祥の地と言われていて、その王または王女は『神話の擁護者』でもあるのだ。ノレーシュ人は全て、神話の中で生きていると言っても過言ではない。ある意味、管轄区の『狂信的なイライザ信者』よりも、もっと神に近い所で生きている、少なくとも、ノレーシュ人はそう思っている。
神話に出てくる神の子供たちの中に、未来を予言する者がいる。
もし、神話の再来が本当であれば……私が関わらないわけにはいかない。
クーはそんなことを考えて、エブニーザのところにやってきた。他の、たとえば、エレノアやフランシス、その他イシュハ人には全く理解できない思考法だろう。
二人とも、ノレーシュ語で内緒話を始めた。
『本当は王位なんてどうでもいい』とか『女の子の姿が夢で見える』とか……。
クーは、王家の人間だからこそ知っている各国の情勢をエブニーザに説明し、その中で、
「シュタイナーは危険人物よ、気をつけなさい」
と忠告した。
「そんなこと言われても……僕を助けてくれたんですよ?何の関係もないのに」
エブニーザは困った様子だ。
「あなたには何の関係がないように見えても、向こうから見たら別な思惑があるのよ」厳しい表情でクーがそう言ったが、すぐ優しい顔に戻った「どんな未来が見えるの」
エブニーザは遠くを見るような目をしたが、すぐに笑ってこう答えた。
「クーは女王になります」
「そんなこと誰でも知ってるわよ。お父様の子供は私一人だけよ。隠し子がいなければね」
「ヘイゼルも大統領になるんです」
「えっ……」
驚くクーにエブニーザが、心から同情しているような目で笑いかけた。
「大変ですね。国際会議で顔を会わせないといけなくなりますよ。国家元首として」
「そんなの大臣に押し付けるわ。冗談じゃない」
「無理ですよ。会議で向かい合ってる姿が見えるんですから」
「やめてよもう!絶対嫌!そんなの!」
本気で嫌そうに叫ぶクーを見て、エブニーザはおかしそうに笑った。
クーが恋愛とか結婚の話を聞くと、エブニーザは急に口を閉ざして下を向いてしまった。
「話したくないならいいわよ。私は結婚しないって決めているし」
エブニーザが驚いて顔を上げた。
「後を継ぐ人がいなくなりますよ」
「私の代で王家は終わりよ。決めたの」
「えっ……」
「イシュハを見なさいよ、いや、他の国でもいいわ。王家があるのはロンハルトとノレーシュだけ。未だに古代の生活を守ってるロンハルトならともかく、うちは近代国家よ。自由主義ではイシュハに負けないわ。同性愛だって認めているし、医療体制だって上。教育にかけている予算も高額なの(人口はイシュハの方が多いのにね!)それに、ノレーシュ人はみな、自分たちが一番進んでるって自負があるわ。科学技術と神話の伝統をうまく両立して、世界一の文化を築いているの。今、実際に政治を動かしているのは大臣たちよ。そんな国に、王家なんて必要ないの」
驚きのあまりクーをじっと凝視しているエブニーザに満足げに笑いかけ、クーが立ちあがった。
「もう行かなきゃ。さすがに、イシュハ語の授業はさぼれないわ」
取り残されたエブニーザはぼんやりと考える。
僕には未来が見えるけど、予想できないこともたくさんあるな、と。




