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溺れたリゼリアの生存戦略

アルフェ大陸物語第2弾です。

「攫われたのは皇帝の孫娘でした」の30年以上前の物語です。

生贄にされる予定のモブに転生した主人公が、なぜか龍に番として溺愛され、

いつの間にか陰謀を暴き殺された母の敵を討ちます。残酷な描写があります。

苦手な方は前作「攫われたのは皇帝の孫娘でした」がほのぼのしていてお勧めです

 いきなり背中を押されてリゼリアはよろけた。

 何とか踏みとどまろうとしたところに、ゴツンと頭に石が飛んできた。

 振り返ったリゼリアが見たのは、面白そうに笑うエリーゼの姿だった。


「お嬢様!」


 悲鳴のような叫び声を聞きながらリゼリアは池に沈んでいった。

 息が出来ない。苦しい。

 ごぼごぼと水を飲みこむ。 目の前が暗くなった。

意識が浮上するにしたがって、奇妙な声が聞こえてきた。


「なにこれ。リゼリアってたった1行しか説明がないの?主人公の姉なのに?可哀そうすぎるでしょう?12歳で生贄になるなんて!」


 これは誰の声?知っている。これは私。私の声。

 うっすらと目を開ける。誰もいない閑散とした部屋。狭くて寒々としている。


 身体を起こそうとして、ぐらりと頭が揺れる。

 痛い!

 そういえば石をぶつけられたのだっけ?頭をそっとさわると、見事なたんこぶが出来ていた。

 こんなシーンあったかしら?あるわけないか。

 だってリゼリアは冒頭の1行で死ぬモブなのだから。


 そこまで考えてぎょっとした。リゼリアは自分ではないか。

 なんでこんなことを知っているのだろう。

 転生。前世の記憶。そんな言葉が苦も無く浮かんでくる。


 なるほど。納得。

 納得している場合ではない。ゆっくりと鏡の前に立つ。ちょっとぐらついたけど大丈夫。


 鏡の前にいるのは銀髪に美しい青い瞳の10歳位の少女だった。

 私に石を投げて突き落としたのは妹だろう。確か5歳違いだったはず。


 5歳で平気で人を殺そうとするとは、さすがはヒロイン。半端ないね。

 小説では伯爵令嬢でありながら、

 高位令嬢たちを押しのけて王妃になったほど気性の強い女性だったような。

 ぼんやりそんなことを考えていると声がした。


「お嬢様。気がつかれましたか?」


 セーラだ。私より5つ上の15歳。

 お母さまが孤児だったセーラを引き取り、私の侍女にした。

 といっても名目だけだったのに、セーラは幼いながらに恩義を感じたのだろう。


 いつも私のそばで私を守ってくれる。

 あの厳しいマルガレーテ侍女長も匙を投げる頑固さで、今でも私の侍女をしてくれていた。


「大丈夫よセーラ。そんな顔しないで。いつものことじゃない。もう慣れたわ」


 それを聞くとますますセーラは悲しそうな顔になった。


「お嬢様はれっきとした伯爵家の長女ですのに。

 血筋で言えばエリーゼさまよりも高貴ですわ。

 侯爵家は王家の姫君も降嫁される程の家柄。

 ノクス伯爵家とは比べ物になりません」


 私は慌ててセーラの口をふさいだ。

 そんな言葉を聞かれたらセーラは首になりかねない。


「セーラよく聞いて。これから大事な話があるの。誰にも聞かれたくない話よ」


 セーラはこくこくと頷いた。


「その前にお嬢様、先に食事をなさって下さい。お嬢様が倒れられて満足されたのか。

 どうせ食べられないと思ったのか、今日はたっぷりと持ってくることができたのです」


 確かにセーラが運んできたカートの上には、普段ではあり得ないくらいの量が並んでいる。


「それじゃあ 一緒に頂きましょう」


 セーラも慣れたもので、一緒に食事をとる。

 3歳で母が亡くなって、一人の食事は寂しくてほとんど食べることが出来なかった。

 やせ細っていく私を見かねてセーラは一緒に食事をとるようになった。

 おかげで私はがりがりではなくなった。それどころか食べている時が一番幸せ。

 お腹いっぱいなら、元気に生きていける。

 それが信条の10歳児。

 

 10歳といっても子供という程ではない。

 こちらの世界は10進法が基準なので、

 1時間は100分。1日は20時間 1月は20日 1年も20ヶ月

 とってもシンプル。

 こちらの1年は日本だと1年半。およそ1.5倍になる。

 

 だから10歳は日本では15歳。こちらでは働き始める年なのです。

 15歳で成人だから子供ではあるのだけれどね。


 温かいスープは具沢山で心も身体も温まった。

 でも、食べ慣れないせいかお腹はすぐにいっぱいになってしまった。

 沢山食べたいけど、いつもちょっぴりしか貰えないのだ。


「セーラ。保存食って知っている?

 残ったので保存がきくモノは保存食として残しておきたいの」


 それを聞いてセーラの目は真っ赤になってしまった。

 違うからセーラ。これは生きるための生存戦略だから。


 私はなんとしても生き残る。

 生き残るイコール食べ物大事。


 食べないと元気になれないのだからね。

 セーラは素直な娘だ。というよりリゼリアを盲信しているのかもしれない。


「それでお嬢様の前世は、どんな方だったのですか?」


 そう聞かれてリゼリアは困ってしまった。

 実はほとんど覚えていないのだ。小説の題名すらわからない。

 ただ、自分が12歳で生贄になる。それだけは鮮明に思い出されるのだ。

 そして妹エリーゼに、事あるごとにいじめられる事も。

 そう言うとセーラも悩んでいる様子だ。


「もしかして、リゼお嬢様は前世を思い出したのではなくて、予知能力では?」


 予知能力!そんな力があるのだろうか?

 リゼリアが驚いているとセーラが教えてくれた。

 この世界には魔法を使える人がいると。

 ただ、その力はどんどん衰えているらしい。

 今では魔術師はとても貴重なんだとか?


「それじゃあ、どうして私が魔法を使えると思ったの?」


「お嬢様はアルヴィス侯爵家の血筋です。

 アルヴィス侯爵家は王家の血が濃いので今でも魔法を使えるようなのです。

 奥様も真贋という能力をお持ちで人の嘘を見抜けたのです。

 伯爵さまは、もしかしたらその力のせいで奥様が亡くなったのではないかと、

 ずいぶん熱心に調べていらっしゃいました。結局何もわからないままですけどね」


 どういうこと?お母さまの死因は何だったの?

 病気と聞いていたけれど、誰かに殺されたとお父様は考えたってこと?

 調べることが山積みだ。生贄の儀式について。お母さまの死因。

 お父様の無気力の原因。魔法について。


 やる事はいっぱいだけどまずはこのご飯何とかして保存したい。

 だって、めったにこんなに手に入らないから。 

 

 考え込んでいるとセーラが提案してきた。

 収納魔法という魔法があると。食べ物をそのまま保管できる。

 腐らないらしい。

 それってアレじゃないのかな?アイテムボックス。

 マジックバッグとかいうやつ。空間魔法だよね。


 イメージは理解できる。前世で読んだファンタジー小説。

 異空間を作って収納するのでしょう?

「収納」

 テーブルにある食べ物たちに向かってそう念じた。

 テーブルの上は空っぽになってしまった。

 ほんとに? 成功したの?イメージだけで?


 セーラがぽかんとしている。


 だよね。私もびっくりだもの。

 よく言うよね魔法はイメージが大事。アバウトな世界で助かったよ。


 とりあえずスープ皿を呼び出す

 出て来た。

 スープは飲み干したからお皿は返しておきたい。後、スプーンとティーカップ。


 アイテムボックスをイメージするとリストが表示された。

 白パン5個 リンゴ2個 チキンステーキ2個 サラダ大皿1個 


 すごい!2人で大興奮だ。

 セーラはこれからも、できるだけ食べ物をくすねてくると請け合ってくれた。

 期待しているからね。 セーラ。


 それにしても本当に誰も来ないなぁ一応私も伯爵令嬢。

 それが死にかけたというのに。どうなっているのかしら?

 お医者さんも来ないのかな?


 セーラに聞いたら、びっくり。エリーゼが緘口令を敷いたのだって。

 たった5歳の子供の命令を全員が守るなんて。


「もしも私が死んでいても誰も来ないのかなぁ」


 ポツンとそんな言葉が出てしまう。

 セーラがそっと頭をなでようとして悲鳴をあげた。


「お嬢様、すごいたんこぶですよ。痛くないんですか?」


 そんなの痛いに決まっている。

 でも、エリーゼが私に石を投げたのは、今日が初めてじゃない。

 あんなのがこの国の王妃になるのかぁ。酷い世の中だよね。

 弱肉強食の世界なのだ。どんなに外側を取り繕ってもね。


「大丈夫よセーラ。たんこぶでは死なないわ生贄で死ぬ予定だし。

 必ず生き残るけどね。明日から忙しくなるわよ」


 何しろ私には前世の記憶がある。生贄だとしかわからない頼りない記憶。

 でも、そのおかげで生き残る準備ができるのだから。

 翌朝 やる事リストをたっぷり抱えて起き上がった私は、意欲満々だった。

 まずは、図書館で調べもの。


 私は離れに住んでいる。元々、本が好きな先々代が建てたもの。

 実は図書館なのです。

 いくら貴族とはいえ、建物ごと図書館を建てるのは珍しい。

 普通は館の一角に造るものだから。


 お義母さまが、私が目障りだとこちらに住まわせたらしい。

 図書館と言っても、喫茶室もあるし、休息室もある。

 前には住み込みの司書が住んでいた部屋も。


 私の部屋は、その昔、司書が使っていた部屋だ。簡便な調理室もあれば、風呂もある。

 シンプルだけど使いやすい部屋。私は大いに気にいっている。


 問題なのは衣裳部屋がないことだろう。だけど、私の服はとても少ない。

 だから、それも問題ない。


 私の妹のエリーゼは5歳。 弟のシオンはまだ2歳。

 図書館を使う年齢でもないし、なんなら本館にも図書室はある。

 お義母さまが、こちらに来ることもない。だから、うっかり出会わない限り自由度が高いのだ。


 こちら専用の侍女はセーラだけ。これだけ広い場所はとても手がまわらない。

 何人かのメイドが清掃に入ってくれる。

 お父様が使用することもあるから見た目は大事。


 といっても私の私室は放置されるから、私の仕事は毎朝自分の部屋の掃除をすることから始まる。


 身支度は簡単。メイド服を着るだけ。

 最初私がメイド服を欲しがった時、セーラはかたくなに反対した。

 私のドレスは数が少ない。それなのに、エリーゼのいたずらですぐに汚れる。

 ドレスを汚すと侍女長がムチで打つ。それが重なって、とうとうセーラも折れた。

 だから別館にいる時はメイド服で過ごす。


 せっせと掃除を始める。セーラも同じような作りの部屋を使っている。

 昔は司書が3人住み込んでいたらしい。


 今は本館の司書たちが、時々やってくることがあるくらい。

 だから一部屋余っている。その部屋にも風を通す。勿論トイレだって掃除をする。


 こうやってみると、ほとんどメイドだね。

 セーラはリネン類を洗濯室に運んで、新しいリネンをセット。

 それから本館に行って、朝食の材料を分けてもらう。パンとかお茶とかね。

 上手くいけば料理も分けてもらえるし、そうでなければくず野菜をもらう。

 それはこちらでスープを作るのに使う。

 せっせとお掃除をしているとセーラが顔をだした。


「お嬢様、パンとチーズを貰いました。お茶も1缶もらえたので朝食にしましょう。」


 大賛成だ。さっきからお腹がなっている。


「セーラ。思いついた事があるの。セーラのリボン貸して」


 侍女は襟元にリボンをつける。それが身分証の代わり。

 リボンに伯爵家の印章が刺繍されているから。

 名前も入っているから、そのリボンは別の人は使えない。


 怪訝そうな顔のセーラからリボンを受け取って、イメージする。

 このリボンに私の収納の力を付与。 できた気がする


「セーラ。このリボンを付けてから、マジックバックって言ってみて」


「マジックバック」


「どう?何が見える?」


「リストが見えます。パン3個 サラダ1皿 チキン2個」


「じゃあ、サラダを出して」


 ジャーン!サラダが出てきました。


「今日はサラダとパン。チーズを半分にしよう。残ったパンとチーズと紅茶缶を収納して」


 これも大成功!


「お嬢様。私も魔法が使えました」


「うん、付与魔法が成功したみたい。これで収納庫は共通で使えるから、

 これから必要になりそうなものはどんどん収納して!

 必要ならお手紙とかも収納するといいかも。会えないこともあるかも知れないから」


 この判断は大いに役にたつことになった。なぜならエリーゼがやってきたからだ。


 




https://ncode.syosetu.com/n3762ml/ 

「攫われたのは皇帝の孫娘でした」も楽しんでいただければ嬉しいです。

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