第十一話 儀式外交なんよ
政務殿の広間に、薄光が静かに落ちていた。
昨日の蒼・揺れ・光の狂乱儀式の余韻が、まだ濃密に空気に漂っている。
兵卒は魂を抜かれた顔で机に突っ伏し、
剛明は崩壊した制度文書の山に深く沈み、
薄花はその狂乱の余韻を「美しゅうございます……」と静かに見つめていた。
そこへ──!
ドツン……!! ドツン……!!
蒼嶺・白嶺・紅蓮の各国使節団が、総出で広間へとなだれ込んできた!
幹部4名+外交官3名+随行者多数、総勢数十名の重圧で政務殿が一瞬で埋まる。
全員が自国の勝利を確信した、恐ろしいほどの“勝ち誇った顔”をしていた。
影導公「自然の国は、蒼嶺の“影礼外交”を正式採用されたと聞き及び駆けつけました! 影の揺れこそが絶対なる友好条約にございます!」
天華は胸を張り、袖を翻した。
天華「ほい、自然に影が揺れただけなんよ!」
霜律・澄牙・幽澄のトリオは、即座に床の影の角度を寸分狂わず読み始める。
蒼騎士は影の進路を厳重に警護し、蒼僧は影の揺れに低く祈りを捧げる。
蘭花「ふふふ……影礼外交……“蒼理の交和”として古来より……影の微かな揺れこそが、永遠の友好を結ぶ絶対なる証でございます……!」
薄花「……そうなんよ……蒼の影が……静かに揺れるたび……友好の物語が小さく息をするようでございます……美しゅうございます……」
兵卒「息せんのんよ!! 影は勝手に友好条約結んだりせんのんよ!! 息をして命を削られとるんは人間のほうなんよ!!」
剛明「……影礼が……いつの間にか国家の最高外交戦略になっております……」
揺間導師「静かに! 自然の国は、白嶺の“揺れ礼外交”を正式採用されたと聞き及びました! 揺れの間こそが調和の証でございます!」
天華はお日様を見上げるように微笑んだ。
天華「ほい、自然に揺れただけなんよ!」
白嶺の七名は、早くも完璧な連携で「揺れ礼」を開始していた。
雪音は髪揺れを繊細に読み、玲霞は袖揺れを正確に測り、氷華は歩幅の揺れを美しく整える。
揺記官は揺れの周期を木札に記録し、揺僧は揺れの乱れを清らかな祈りで整えていく。
蘭花「ふふふ……揺れ礼外交……“揺間の交和”として古来より……揺れの間合いこそが、天地と国家を結ぶ友好の真髄でございます……!」
薄花「……そうなんよ……揺れの影が……静かに重なり……別れの前に友情の物語が息をするんよ……美しゅうございます……」
兵卒「息せんのんよ!! 影は友情を感じたりせんのんよ!! 揺れとるんは必死で実況しとるわしの膝のほうなんよ!!」
剛明「……揺れ礼だけで……着々と外交交渉(仮)が進行しております……」
光戦団長「控えい! 自然の国は、紅蓮の“戦勝外交”を採用されたと聞いたぞ! 光が走った瞬間、勝利と友好は確定したのだ!!」
天華は堂々とえっへんと胸を張った。
天華「ほい、自然に光っとるだけなんよ!」
紅蓮の七名は即座にギラギラとした戦勝礼を開始した。
焔砂は溢れる勢いを整え、香羅はたかれる香の周期を読み、烈風は鎧に反射する光の角度を測る。
光記官は光の照射角度を記録し、光衛士は光の乱れを剣で守り、光僧は光の揺らぎに勝利の祈りを捧げる。
蘭花「ふふふ……戦勝外交……“光勝の交和”として古来より……光の走線こそが覇道と友好の証でございます……!」
薄花「……そうなんよ……光の影が……静かに揺れて……誇り高き友好の物語が息をするんよ……美しゅうございます……」
兵卒「息せんのんよ!! 影は勝利宣言とかせんのんよ!! 勝利するんは意思を持った人間のほうなんよ!!」
剛明「……友好戦略が……完全に戦勝礼の威嚇になっております……」
影導公「……いいえ、我が『蒼の影礼外交』こそが正式採用されたのです……(威圧)」
揺間導師「……違います、『白の揺れ礼外交』こそが正式採用されたのです……(極冷)」
光戦団長「……戯れ言を! 『紅の戦勝外交』こそが採用されたのだ!……(超熱)」
天華は無邪気に手を叩いた。
天華「ほい、自然に採用されたんよ!」
兵卒「されてないんよ!! 影も揺れも光も何ひとつとして採用せんのんよ!! 採用するんは人間が書類にハンコ押した時なんよ!!」
三国は決して大声で怒鳴り散らしたりはしない。
しかし、互いに「我が国の誇り高き儀式外交が天華国に採用された」と100%確信しているため、
静かに、じわじわと、静寂の中で殺気立ったズレた主張をぶつけ合う。
その声のない圧と静けさが、逆に狂気的に怖い。
蘭花「ふふふ……争う必要などございません……三国の儀式外交は、姫様のお力により“自然の友好の理”として完璧に統合されたのでございます……」
薄花「……そうなんよ……三つの影が……静かに寄り添い重なって……友達の物語が熱く息をするんよ……美しゅうございます……」
兵卒「だから息せんのんよ!! 影は友達作ったりせんのんよ!! 息をする余裕がなくて酸欠になっとるんはわしなんよ!!」
剛明「……(空を見上げて)……そもそも……外交における『友好』とは……一体何だったのでしょうか……」
理作「報告します。外交は国や国民の利益を守り、世界平和を保つために、他の国々と話し合いや交渉を行うことです」
三国は、不気味なほど静かにマウントを取り合って揉めたまま、
しかし互いに勝手に大満足し、勝手に友情を深め、
勝手に「うちの儀式外交が天華国に最も採用された」と確信して、晴れやかな顔で政務殿を退出していく。
嵐が去ったあとの政務殿には、
蒼の静寂、揺れの余韻、光の熱気だけが静かに残されていた。
天華「ほい、みんな自然に平和なんよ!」
兵卒「満足して帰ったけど!! 外交文書は一行も進んでないんよーーーっ!!」




