第十三話 地理は決まっとるんよ
天華国は今日も自然に揺れとるんよ。
そして笑天宮の建築そのものが揺れるんよ。
朝の光が、笑天宮の朱柱を静かに起こしたんよ。
黒瓦と青瓦が交互に重なる屋根は、夜の冷たさをまだ少し抱えたまま、
光に押されるようにゆっくりと目を覚ましていく。
天華はその光を見て言ったんよ。
天華「ほい、自然に起きとるんよ!」
兵卒「自然にじゃなくて、朝なんよ!!」
笑天宮は古装時代の建築様式を色濃く残す巨大宮殿で、
外朝(政務・儀式)と内廷(生活)が明確に分かれとるんよ。
その中心にそびえるのが――正殿、天鏡殿なんよ。
これは前にも話したから知ってるよね!
天鏡殿は外朝の最北端に位置し、
東西一二〇歩・南北九〇歩の巨大な殿が朝光を受けて静かに輝いとったんよ。
四十八本の朱柱は、通常の朱塗りではなく 光を拾う朱 を使った特別仕様で、
柱の内部には薄い銅板が仕込まれとる。
光が当たると柱の表面が淡く輝き、殿全体の明度を底上げする構造なんよ。
天華は柱を見上げて目を輝かせたんよ。
天華「ほい、この柱、光を食べとるんよ!」
兵卒「食べんのんよ!! 反射なんよ!! 消化器官ないんよ!!」
理策「補足。柱内部の銅板による物理的な光反射現象です。捕食活動ではありません。」
天華「自然に食べるかもしれんよ?」
蘭花「ふふふ……“光喰の理”でございますか……?
姫様の放つ威光を、柱すらも買い求めて食しておるようでございます……
流石姫様……」
薄花「……朱柱の影が……静かに光を吸い込むたび……
まるで柱が小さく息をしておるようでございます……
静の中に、ひとつの生命が生まれるんよ…………美しゅうございます……」
兵卒「出んのんよ!! 柱は息せんのんよ!! 命も宿らんのんよ!!
ただの銅板仕込みの木材なんよ!!」
高窓から差し込む朝光は、計算し尽くされた柱の間隔によって、薄朱の床へ規則的な“光の帯”を描き出すんよ。
この光の帯は儀式の際に天鏡殿を荘厳に見せる重要な要素で、過去に訪れた外国使節が「天意の道」と誤解する原因にもなっとったんよ。
天華「ほい、自然に天意なんよ!」
蘭花「ふふふ……“天意開化の儀”……
天すらも姫様の御歩みを祝福し、光の道を敷いております……」
兵卒「天意じゃないんよ!! 建築家の計算の勝利なんよ!!」
理策「補足。入射角と柱の配置による光学デザインです。天意の介在率はゼロです。」
剛明は至って真面目に地図を広げ、地理制度の説明を始めようとしたんよ。
剛明「本日は地理制度の――」
天華「ほい、国の形が勝手に決まっとるんよ。」
兵卒「決まらんのんよ……地理なんよ……」
蘭花「天意は……地を織り成し、姫様の感受を静かに受け入れます……
この地図の揺らぎは……姫様の御心が地脈へ染み渡った証にございます……」
薄花「姫様の地図は……自然なんよ!!
地形が勝手に動くんよ!! すごいんよ!!」
官吏八人「え、動くんか!? 地形が!? 山が!? 川が!? 自然が!? ほんとに!? 嘘!? 本当!?」
剛明「自然じゃないんよ!!
地理は動かんのんよ!!
山は山、川は川、平野は平野なんよ!!
勝手に決まらんのんよ!!」
天華「ほいじゃけぇ、勝手に決まっとるんよ。」
剛明「決まっとらんのんよ!!」
天華「自然に決まるんよ。」
剛明「自然に決まらんのんよ!!」
天華「ほいじゃけぇ、決まっとるんよ。」
剛明「……太后様ぁぁぁぁ!!」
太后はゆっくりと冠を整え、天鏡殿の光の帯を踏みしめたんよ。
太后「……そなたらは本当に騒がしいのう。
地理は天命に連なるものじゃ。
勝手に決まると言われれば……揺らぐしかあるまい。」
官吏八人「揺らぐんですか!? 地理が!? 天命が!?」
太后「揺らぐのじゃ。
天華の“なんとなく”は……天命をも揺らす。」
天華「ほい、天命も自然に揺れとるんよ。」
蘭花「ふふふ、天命の揺らぎ……それは姫様の御心が天鏡台へ映り込む瞬間……」
薄花「姫様の天命は最強なんよ!!」
剛明「最強じゃないんよ!! 天命は最強とかじゃないんよ!!」
兵卒「天命って……なんなんよ……?」
官吏八人「地理と天命が自然に揺れる国って……なんなんよ……?」
天華「ほいじゃけぇ、天華国なんよ。」




