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理の翻訳(ワールド・コンパイル)〜無能職の翻訳士、古代の理を読み取ったら神話レベルの仲間ができたのだが〜  作者: さくらば
3章

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14話 弱さの証明

 亡者の森は、変わらず静寂と薄暗に包まれていた。

 

 天を拝めないほどに密生した葉の天井と、地を這う白濁の霧、そして身体に染み込んでくる湿気。晴れているのか、曇っているのか。夜ではないという事だけは分かる。

 

 それでも、見る視点を変えれば、新たな発見があった。

 

 前回は、魔物に追われて、周りを見る余裕がなかったから、気付かなかった。

 あちらこちらになる果物や木の実。

 日光が入らなくなったせいで、生育も悪いようだが、背に腹は代えられない。

 

「不味いのう!」

「うん、本当に不味いね!」


 愚痴の掛け合いをしながら、地べたに座り込み、共に果物にむしゃぶりついていた。

 洞窟を抜けて目と鼻の先で、である。新たな旅立ちは、全く進んでいなかった。


 腹だけは満たされた。だが、その味から幸福感までは、さほど得られていない。

 ネロは、こじんまりとした翼を広げると、金色の瞳でゆっくりと周囲を見回した。そして沈黙を解き、深く息を吐いた。

 

「我の新たな晴れの舞台を、こんな辛気臭い森にしてしまいおって。どこのどいつじゃ。八つ裂きにしてくれるわ」

「それって、やっぱりさ、この森の異変って魔物の仕業だってことだよな?」


 ネロは頷いた。


 この森は、元々商人たちの交易ルートだった。道が切り開かれ、空は拝めた。

 それが今や、面影すらない。

 原因の排除。確か、ギルド依頼書には、そう書かれていた。


 そう……ジルから渡された依頼書に。

 思い出す。カインが、生死を彷徨うことになった、忌まわしき出来事……。


 だが不思議と、今のカインに、あの時感じていた怒りや憎しみのような感情は湧いてこなかった。 許す、などではない。別の要因だ。視点の次元に変化があったともいうべきか。


 ともかく、亡者の森と化した原因は、魔物にあるとのことだった。


「時にお主、魔素探知くらいは出来るのじゃろうな?」

「いや……できないけど?」

「魔素探知もできんとは……全く、どうにもならんのう」

「……出来るわけないだろ」


 魔素探知は、魔術士系ジョブ専門のスキルである。剣士系・格闘系ジョブにも、違和感を感じる「気配感知」という探知系スキルがあるらしいが、魔素探知には及ばないようだ。少なくとも翻訳士にその類のスキルはない。


「まあ、魔素探知ができんのは、分かっておったが。森全体に蔓延っておる泥臭い魔素に気付いておらんのだからな」

「泥臭い? まあ、確かに湿気臭い匂いはするな」


 カインは、袖を鼻に引き寄せたり、鼻を突き出して匂いを嗅いでいる。そういうことではないと言わんばかりに、ネロは呆れて首を振った。

 

「ということは、犬っころに取り囲まれとることすら気付いておらんということじゃな」

「……え?」


 犬っころ。ネロが言うそれは、シャドウウルフのことだ。

 当然、カインは全く気にもしていなかった。

 もちろん、森のどこかには生息しているだろうとは思っていたが、まさか取り囲まれているとは。


 ネロの指摘に刺激されたかのように、木々のすき間から、5匹のシャドウウルフが姿をゆっくりと現した。


 Dランクの魔物、シャドウウルフ。Fランクの中でも最底辺でもあるカインが、全く太刀打ちできないのは、既に証明済みだ。だが、今回は絶望感など一切ない。むしろ、倒せば素材が手に入るということが、頭にちらついているくらいだ。

 

 もちろん、災厄の竜・漆黒竜アビスガルド、もといネロがいるからである。

 Dランク程度の小物、相手にすらならない。


「我の相手にすらならんな、犬っころめが」


 カインはうんうんと頷く。


「では、カインよ。お主が相手をしてみよ」


 うんうん。そう、俺が相手を――。

 ……ん?


 カインは、先ほどの会話を、冒頭から繰り返した。

 シャドウウルフはDランク。

 ネロの相手にすらならない。

 だから、俺が相手をしろ。

 は?


「……あの、ネロさん? どういうことですかね?」

「そのままの意味じゃろ、カインが犬っころの相手をするのじゃ」


 お前、馬鹿なのか? という発言を寸でのところで飲み込んだ。

 その言葉以上に、言いたいことがある。洞窟でのやり取りは何だったのか。


「俺、言ったよね……? このシャドウウルフに殺されかけてるんだけど?」

「知っておる」

「自殺願望はないんだけど?」

「誰も、死にに行けとは言っておらんじゃろうが。相手をしろと言っておるだけじゃ」


 ネロの意図としては、こうだ。

 カインの底辺ぶりは、今までの会話から理解はできていた。しかし、実際に力量を把握しておかなければ、いざという時に、問題が露呈する。これくらいなら、カインにでも防御できるだろうという判断。もしそれが、カインの実力を見誤った判断であったとしたら、カインの生命は危険に晒されるのだ。


「理解はできたけど、意味ないと思うよ……? 底辺の言葉ひとつで事足りるでしょ」


 正直、カインは戦いたくない。だから、どうにかしてこの危機を回避しようと必死だった。が、鬼教官と化した相棒は、それを許さず。

 

「つべこべ言っとらんと、やるといったらやるのじゃ! お主、世界一の冒険者を目指しておるのだろう? このくらいでびびってどうする!」


 趣旨が変わっているではないか!

 そもそも、戦闘はネロの担当だろう!

 戦わずして世界一を目指す、戦闘回避型冒険者。

 それが、この俺、カインだ!

 

 これが、カインの考え方である。

 戦闘回避型冒険者――なんとも都合の良い言葉を作ったものだ。

 

 とはいえ、今の思考回路に、ネロへの言い訳や激論の準備などをする余裕などない。

 問答無用の戦闘に、全集中せざるを得なかった。

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