プロローグ ──記録されざる紋章──
それは、記録に残されていない“始まり”の物語。
それは、まだ名も知らぬ誰かの“願い”の物語。
遥か昔。
魂の奥底で生まれた、ただひとつの想いがあった。
それは――消えゆく光を抱きしめるようにして、手を伸ばす祈り。
「……どうか、この想いが、届きますように」
誰とも知れぬ“彼女”は、赤く燃える空の中でそう願った。
大地は裂け、空は焦がれ、星すら悲鳴を上げる終焉の時代。
そのただ中にあってなお、彼女は“魂”にすがり続けていた。
「命は、燃え尽きる。記憶は、やがて風に溶ける」
「それでも――私は、記す。魂のなかに、この光を、あなたを求めて」
その声は、もはや誰にも届かなかった。
その姿を覚えている者も、もういなかった。
けれど。
魂だけは、覚えていた。
紋章だけが、残っていた。
それは、燃え上がる不死鳥の意匠。
死してなお蘇り、あらゆる“終わり”を越えてなお、“生”を求める魂の象徴。
「――あなたへ、この想いが届くのなら」
「私は、もう一度、歌いましょう。魂の歌を。命の歌を――」
その瞬間、世界に刻まれた一つの“異端”が、光となって揺らめいた。
既知のすべてに属さず。
分類にも、記録にも、その存在を拒まれた紋章。
だが、それは確かに――存在していた。
◇ ◇ ◇
そして、遠く未来。
とある青年が、その“残響”を、夜の静寂の中に聴く。
彼の名は、リアン・アルステッド。
“導く”ことのできる者。
――魂の歌を、紋章の記憶を。
《魂の導き手》の旅は、今、再び始まろうとしている。
──これは、記録されざる紋章と、失われた魂の“再生”を紡ぐ物語。