プロローグ
とある何処かの道場がある家で、一人の女性が喜びの舞を踊っている。
「当たった、当たった~。雪ちゃん当たったよ~」
女性が喜びながら一人縁側で背を丸めて昼ねをしてる男性に突っ込んでいく。どうやら少年は相当深く 眠ってるようで、女性の声にピクリとも反応しない。
「雪ちゃ~ん!」
女性のボディプレスが少年に炸裂する。
ぴぎゃ!と言う叫び声と、ゴキッ!と言う人の体からは出てはいけない音が出たのはほぼ同時だった。
「げほっげほ!行き成り何すんだよ姉さん!?」
「雪ちゃんがお姉ちゃんの事無視するからいけないんだよ!お姉ちゃんが折角当ててあげたのに~」
当ててあげた?それは母性の象徴をか?
少年の混乱を余所に女性は得意げに説明する。
「じゃじゃ~ん!何と世界初のVRMMORPGの<倭の国>のオープンβテストの参加権が当たった んだよ~!」
<倭の国>それは去年の夏辺りから代々的に宣伝していた新型のゲーム機ヘッドギアを使っての最新の ゲームソフトであり、世界初のVRMMORPGでもある。<倭の国>は世界初と言うこともあり、そ
のオープンβテストの参加権は二万。一万は抽選で、もう一万は商店街の福引やMMORPGでの大 会の商品により参加者が決められた。これは社会現象となったようで地方の商店街の福引の商品に置 くとそこの商店街の売り上げが一時だが最高十倍になったようだ。そして参加権をゲットできる倍率
は一万分の一と言われた。二万の一万倍だから二億。今の日本の人口以上の人数が<倭の国>をやりた がっている。これから海外の人も参加権を欲しがっているのがわかる。しかし、流石に倍率が一万倍
になるとは会社も予測不能だったようで急遽開発グループが翻訳機能をつけた。<倭の国>は日本の文 化を進化させた様なもので、魔法は存在しなく変わりに呪術が存在する。それも迫力満点の高火力!
とか言うのではなくて、プレイヤーをサポートするのがメインだそうだ。それに使う武器は刀や弓な
ど日本や東アジアが昔使っていた様な武器を装備して、≪技≫と言うスキルを使って東洋の妖怪やら 何やらと戦うとか。しかしそこで問題が発生した。元来刀とは使いにくい武器でこれをリアルに再現 すると、プレイヤーにイライラが募るのでは?と危惧した会社が武器に剣も取り入れたそうだ。それ
に感想を直接聞くためにβテスターの参加者は会社が用意したホテルに夏休みの間滞在するみたいだ
。
「姉さん、当てたってどうやって当てたの?」
「会社のホームページで抽選に登録したら見事に大当たり~!しかも!ペアの参加権だから雪ちゃん も一緒に行けるよ~」
そういや姉さん昔からくじ運強かったっけ。ペアだから俺も行けるのか。世界が注目してるゲームに
興味が無いなんて言えば嘘になる。けど、俺達は学生。しかももう直夏休みだから夏休みの宿題が大 量にある。ハッキリ言ってゲーム漬けの毎日はいかがなものか?それに親からの言いつけられた鍛錬 もやら無いといけないし。
「ん~でも姉さん夏休みの宿題もあるし、親からの言いつけの鍛錬も」
「その事なら大丈夫だよ雪ちゃん!親の了解も取ってあるし。それに雪ちゃんの学校って宿題もう出 た?」
「それなら出たけど?」
「なら、βテストが始まる前にちゃちゃっと終わらせちゃいましょ!お姉ちゃんも協力するから!」
俺の姉さんは頭がいい。それに家が家だからかなり運動も出来る。才色兼備、文武両道を絵に描いた ような人物だ。そんな姉さんが手伝ってくれるなら宿題も直に終わるだろう。
「ならお願いするかな」
「善は急げだよ雪ちゃん!今から宿題やろう!」
俺が縁側から腰を上げると玄関のチャイムが鳴った。
「むぅ~一体誰~」
姉さんがぶう垂れてるがそれをほっておき俺は玄関に向かう。
「今出ますよ~、って何だお前か」
俺が玄関を開けるとそこには俺の幼馴染の久賀朱音<くがあかね>が居た。
「お前って何よ!折角良い話持ってきてあげたのに」
「良い話?」
「そ、良い話。ここじゃなんだから中で話しましょ」
朱音は少し図々しいところもあるが姉さんと同じ様に才色兼備、文武両道の完璧人だ。
俺は家の中に入れると、さっきまでニコニコしてた姉さんの表情がもの凄く不機嫌になっている。そ ういや、この二人の仲最悪だったな。二人が顔合わせるとどっちも不機嫌になる。アレか?同属嫌悪
か?頼むから仲良くして欲しいんだけどなー。
「で?良い話って何?」
俺は不機嫌になっている朱音に聞く。
「<倭の国>のβテストの参加権ペアで当たったから一緒に行かないかな~って」
「え!?」
その言葉に姉さんの眉がピクリ、と動く。
やばい!これはやばい事になったぞ!これじゃあどっちを選んでも最悪の結果しか無いじゃないか! 片方を選んだらもう片方に攻められる!ど、ど、どうしよう!?
俺が必死に考え事をしていると姉さんが口を動かした。
「雪ちゃんは私と行く事になってるの。解ったらさっさと帰ってくれない?女狐さん」
最悪だ!如何してそんなに嫌いなんだよ姉さんは!?これじゃますます二人の仲が険悪に、は!?俺 の隣からもの凄いオーラが!
恐る恐る横をチラ見するとそこにはどす黒いオーラを噴射している朱音の姿が!
「どうせ雪花さんがむ・り・や・り頼んだんでしょう?雪兎も私と一緒の方が口うるさい姉と離れら れていいんじゃないでしょうか?」
「あらあら、確証も無いのにそんな事言うと身を滅ぼしますよ?朱音さん」
口調は丁寧そのものだが後ろから出てるオーラが龍と虎の形を作ってるように見える。何度目を擦っ てもそれは消える事が無い。
「雪ちゃん」「雪兎」
「ひぃ!」
恐怖の余り叫び声を上げてしまう。雪兎が怯えてるのも意に返さず、二人の美女は雪兎に迫り来る。 二人の美女が目と鼻の先まで来るのは男なら誰もが喜んでとびついてくるようなシチュエーションだ が、雪兎には今そんな余裕は無い。それもそのはず。雪兎の頭はどうやたらこの状況を打破できるの かを高速で考えているのだから。
『どっちを選ぶの?』
そんな雪兎の思考に新たなプレッシャーを与える二人。もう雪兎の頭は限界寸前だ。
「え、えと、えと」
必死に言葉を探すが何も見つからない。ええい!もうやけだ!意を決して一人の名前を言おうとした その時、この原因を作った姉から助け舟が来た。
「もう雪ちゃんは優柔不断なんだから!こうなったら勝負よ!」
ええ!?それこそ駄目でしょ姉さん!こっちは武術を習って、あっちは運動は出来るといってもそれ でも姉さんには遠く及ばない。しかし、それは声に出す事が出来ない。今ここで待ったをかけると自 分がどちらかを選ばないといけなくなる。ごめん朱音。死なないように頑張ってくれ。俺は心の中で
朱音を応援する。これを口に出して応援したら多分今夜は寝れなくなるだろう。
「いいですよ。しかし、試合といっても柔道や剣道と言った類の物ではありませんよね?」
「勿論よ」
良かった。これで朱音が怪我をする可能性が無くなった。
「それじゃあ姉さん?何で勝負するっていうのさ?」
俺は姉さんに疑問をぶつけてみる。戦うんじゃなかったら、一体どんな勝負をするんだ?勝負って聞 いて直結するのが決闘ってのが悲しいけど。
「それは・・・」
「それは?」
「雪ちゃんの宿題を多く片付けたほうの勝利よ!!」
これがアニメや漫画だったら背後からババーンっていう文字が出そうな勢いで姉さんが言ってきた。 て、俺の宿題!?
「いや姉さん流石にそれは「いいですよ!その勝負受けて立ちます!」」
マジか?いや俺としちゃ宿題をやってくれるのはありがたいけど、これっていいのか?
「朱音、俺としちゃそりゃ有り難いけどお前も宿題があるだろ?それに姉さんだって大学の課題だっ てあるし」
「それなら大丈夫だよ雪ちゃん。大学で出た課題ならもう終わらせたから」
「私も大丈夫よ。学校で出た宿題はもう終わらせたから心配要らないわよ」
「さいですか」
βテストが始まる前にかくして二人の女性による戦いの火蓋が斬って落とされた。
結果から言うと僅差で姉さんが朱音を下した。いや本当にギリギリに戦いだった。もうそろそろ日が 暮れるんだが、俺の夏休みの宿題が全部終わった。嬉しいんだけど負けた朱音を見ると素直に喜べな い。
負けた本人はと言うと、地面に両手両膝をつけて悲しがっている。どっちにしろ行く事には変わりな いからあんま変わらん気がするんだけどな?
「元気出せよ、な?俺が行く事には変わりないし」
「うう~」
「折角だし晩飯食ってけよな」
「ぐす、うん」
どうやら姉さんに負けたのが相当悔しかったようで目元には薄っすらと涙が溜まっていた。
オープンβテスト当日俺達三人はあるホテルの前に来ていた。結局朱音の分のペアは従兄弟を誘う事 になったらしいんだけど、その従兄弟は用事があって少し遅れるようだ。後ろにいる姉さんと朱音は 相変わらず険呑な雰囲気をかもし出している。俺達の他にも何人かホテルに入る人が見えるのだが、 二人の雰囲気のヤバさを感知した周りの人は誰も俺達を避けるようにホテルに向かっていく。その時 ホテルに入っていく男の人達全員が『あいつ何やってんだ?リア充死ね!』的な目で見てくるからた まったもんじゃない。ハッキリ言って辛い。何とかならんかね?
「雪ちゃん行こう」
姉さんが俺の右腕を掴む。それに機嫌をさらに悪くしたのか朱音が左腕を掴む。
「ちょ、ちょっと」
俺はそのままずるずるとホテルの中に入っていった。
ホテルのチェックインを終えた俺達は自分の部屋へと入っていった。どうやら部屋は一人一部屋用意 されていたようだ。これからの予定は一日目は身体測定と健康診断。二日目からゲームスタートだ。
朝食は午前八時、昼食は午後一時、夕食は午後七時になっている。現在の時刻は午前十一時、身体測 定などは着いた人からだからもうそろそろ行くかな。二人に声かけるとめんどくさい事になりそうだ し一人で行く事にした。
身体測定と健康診断が終わり自室に戻る。帰り道に姉さんと朱音に会って何で誘ってくれなかったの
か問いただされたが何とかごまかしきった。だって二人とも誘うとなるとどっちを先に誘ったかで喧 嘩になるじゃねえか。まあ、そんな事言った日にゃ俺の命は終わるだろうけど。
部屋に入ったらヘッドギアが自室に置いてあった。その形が西遊記に出てくる孫悟空が頭につけてる
輪みたいな形をしていた。
翌日、朝食を食べ終わりヘッドギアを頭につけた。昨日のうちにお互いのキャラクター名を聞いてお いたからログインしたらその名前を頼りに二人を探し友達張というものに二人にの名前を登録する。
ただしこのとき気おつけないといけない事がある。それは二人を同時に見つけないといけないという
事だ。もし片方だけを先に見つけた場合気取られないようにもう一人を見つけないといけない。じゃ
ないと俺が大変な事になるから。不可能だ!と言われようとも男にはやらなければいけない事がある
。ああ、言い忘れてたが二万人と言うβテスターは全員が全員同じホテルに居るというわけじゃない
。全国各地の会社の支社がそれぞれホテルを用意している。それに、ログインする場所によってスタ ートする場所が違うから二万人の中から二人を探すわけじゃない。これを言うと希望が見えてきそう
だが、探しやすくなった分こちらも見つかりやすくなったという事だ。
俺は腹をくくりゲームの中にログインする。
一瞬目の前が暗くなる。次に辺りが明るくなったらそこには、昔の日本を進化させたような町並みが
広がっていた。
俺は二人を探すべため、広場を歩く。
するとある異変に気づいた。俺の髪は日本人らしく黒で髪の長さは男にしちゃあ長く、腰の辺りで縛 ってる。それに比例して前髪も目にかかる位長い。俺のゲームのキャラクターは髪の長さこそ変わら ないが髪の色を赤くしたのだが、目にかかる髪の色は黒い。これはゲーム会社のミスか?何て思った がその疑問は直に消えてなくなった。
「ユキちゃーん」「ユキ」
俺のキャラクターネームはユキなのだがそれを呼ぶ声がする。声の方を見てみるとそこには、
【現実世界で見慣れた顔】の二人がこっちに向かってきていた。
「ユキちゃーん!何か顔が現実のままだよ~」
姉さんがそういいながら俺に抱き付いてくる。
「ちょ!姉さんこんな時に抱き付くなよ!」
「まったくもう!何やってるんだか?それにしてもほんとに変ね。一回ログアウトして会社の係りの 人に事情を聞いてみましょう」
朱音がステータス画面を開いて、ログアウトボタンを押すが反応が無い。
「あれ?これ反応しないんだけど?ちょっとユキの方も試してくれない?」
朱音が不安げな声で俺に聞いてくる。不吉な事言わないで欲しいんだけど。これで出られなかったら デスゲームじゃね?何て思ったが口には出さない。
俺もステータス画面にあるログアウトボタンを押すがうんともすんともいわない。
俺がこの事を言おうとすると行き成り体が光始めた。
「何だこれ!?」
「きゃあ!?」
などと他の場所から悲鳴が聞こえる事からどうやら光始めたのは俺だけじゃないようだ。
二人が居た場所を見るともうそこに二人は居なかった。
「どうなってんだこれ―――」
ユキの姿もよりいっそうに光輝く。
そして、光が収まった時にはユキの姿は無かった。