朔月30日目
しばらく間が空いた。
この2ヵ月、日記なんて書いてる暇はなかった。生死をかけた鬼ごっこ中だったからだ。
どうしてこうなったのかわからない。
異世界トリップして、旅に出て、旅の途中で出会った美少女をパーティーにくわえて、魔王城にたどり着いて……××××、美少女とくっついてめでたしめでたし。
端的に書いたが、あれ?これって俺の求めていた王道ってやつじゃね?いやいや騙されるな、たどってきた道は一番自分がよく知ってるはずだ。異世界トリップに必須のテンプレなんてどこにもなかったはずだ。
端折った部分が一番肝心なところ。
猫の護衛を引き受けたところから前回までの日記を読み返してみた。
……自分で書いていていろいろ思うところはある。
小出しのヒントがいっぱいちりばめられているというのに、なぜ俺は気づかない!
猫は好きだ。
気まぐれで、気分屋で、なんだかんだで寄ってきて人懐っこくて、天然湯たんぽで。
でも!
俺が好きなのは猫であって、美少女になれる猫ではない。(あれ?書いててそれもいいかもとか思ってしまった)
魔物でさえも尻尾を巻いて逃げ出すようなとてつもない力を秘めている猫ではない。(彼女が最強、とかよくあるよね、とか思ってしまった)
ましてや黒猫であって仮の姿が魔王なんて好きじゃない!(ん?あれ?)
逃げても逃げても朝起きたら、ミーアがいる。ときどきセバスチャンが朝ごはんを用意してる時もある。
それが続けばあきらめもつくもんだ。
何度も死ぬ思いをした鬼ごっこを愛情表現だよ、と可愛く言ったミーアの口元には可愛らしい犬歯がのぞいていた。
だから、立派な牙ですね、と俺はうなだれるしかないのだ。
ここまで書いて読み返してみたけど、全然意味が分からない。
きっとそう遠くない未来で俺の不幸物語が語られるに違いない。
もう日記なんて書くもんか。
ここにいろいろ詰め込んでしまいましたけれど、とりあえずの完結です。
が、しかし。これじゃあまだ勇者タケルにはなり切れていません。
あえて言うなら魔王討伐物語?いや、討伐してないし。
あと数話おつきあいください。