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異世界帰還指示厨おじさん  作者: 二時間十秒


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第17話 時給500円

 彩乃は思った以上にタフだった。

 いったんは帰ろうとしたものの、十二層に上がると、まだ今日やるつもりだった稼ぎができてないからと、ダンジョンでの稼ぎを再開した。

 死にかけたばかりだというのにだ。


 ただ、ダメージはまだ残っているので十三層はちょっと危ないから、十二層でモンスター退治に精を出している。


 俺の方は十三層に戻り、しばらく探索を続けた。トロールを倒しつつ、牢屋の中を覗いていく。とはいえ二度目の宝発見とは都合良くはいかず、収穫はトロールジェムくらいだった。まあ、これでも十分金にはなるだろう。


 しばらく十三層を探索しているといい時間になったので、十層と十一層の間の中継点まで上がり、そこから転移門を使ってギルドへ一足飛びに帰還。

 時刻は午後九時前、あがるにはちょうどいい時間だな。


 そして今日は……。


「いよいよ楽しみな換金タイムだ」


 二日間の頑張りが形になって現れる時が来た。

 ギルドではダンジョンで手に入れたものを買い取ってくれるので、魔石を売って荒稼ぎだぜ!


 意気揚々と転移門室を出て、廊下を歩いて買取室の前まで行った俺だった……が。


 これ、全部売ったら死ぬほど怪しくない?


 俺は昨日講習を受けて探索者登録したばかり。

 それが十三層のトロールジェムを提出したら、どう考えてもおかしい。経験者丸出しだ。そうなると、なんで初心者のフリしたのとか聞かれて、異世界のことをうっかり口すべらせて、貴重な異世界に行った実験動物扱いされて……という未来になりかねない。


 いやまあさすがに現代日本でそこまで極端に人権無視なんてないだろうけど、厄介なことになるのは間違いない。


 となると、深い階層で手に入れたものは売れないな。

 二日間朝から晩まで十二時間ずつダンジョンに潜ってたってことを考えても……せいぜい二層までで手に入るものが限界か。それ以上のものは泣く泣くアイテムボックスの底にしまい込んでおこう。


 買取所はありがたいことにまだやっていたので、一層と二層のモンスターから得られた魔石を提出して、買い取ってもらうことにする。

 手渡しと銀行振込とどちらも選べるが、もちろん手渡しでもらおう、実感したいし、と思いつつ買取所の扉を開けると。


「えー!? こんなもんなの!? 頑張って六層いったのに!」

「お気持ちは察しますが、オークジェムはあまり需要がないので相場も安いんですよ」

「まじかよこれなら五層で稼いどけばよかった。はあ……」


 俺の前に買取所に入っていた探索者が、がっくりとうなだれていた。

 強い敵を倒せば必ず儲かるわけじゃないってのが世知辛いな。結局は需要と供給、資本主義の末路ね。


 そして入れ替わりに俺が資本主義の結果得た報酬は…………12000円!


 一万円超えやったね!

 諭吉さんが俺に微笑んで……ないんだよな今はもう。こっちに帰って来たら一万円が謎の資本主義おじさんになってて驚いた。


 なんにせよ一万円もらえるとは悪くないじゃないか。

 頑張って労働してよかった、いい気分で家に帰れそうだ。


 俺は軽い足取りで、さいたまギルドをあとにした。




 ブィーン。ブィーン。


「あ、私フューチャー・シャイナーズという会社のものでして、マンション投資とかって興味ありますか?」

「ないですガチャ」


 家に帰った途端、スマホが鳴ったかと思ったらセールス電話。


 まったく、電話番号ってどこで流出してるんだ?

 なんか色々テクノロジーが発達してるしセキュリティ対策もしなきゃいけないし、異世界の道具で迷惑電話撃退でもできないかな。


 アイテムボックスごとこっちの世界に帰って来たので、いくつかこっちにも異世界のものを持ち込んでるんだよね。異世界の家とか倉庫に大半は眠ったままだけど、ダンジョンで使いそうなものとか、普段から持ち歩いてるものはアイテムボックスにある。

 オリハルコンなんかも自分が持ち歩くのが一番盗難の心配がないから入れてたけど、まあ、こういうの迂闊に人前に出すのは、さっきの換金と同じ理由でやるべきではないよな。扱いは慎重にやっていこう。


「何はともあれ今日はこっちのダンジョンでの初任給をもらった記念日だ。帰りのコンビニで買ってきたご褒美ハーゲンダッツ食べて、いい気分で寝よう」




 こうして俺のダンジョン稼ぎは無事に終わった。

 これで妹の前でも大手を振れるというわけだ。

 お金も稼いだことだし、ダンジョンに潜ってばかりで配信を全然見ていなかった禁断症状を解消しても許されるだろう。


『みんな~見てる~?』


“見てるよあやち~”

“あやちきちゃ!”


 そんなわけでダンジョン探索の二日後。

 そこにはダンジョン配信を行っているあやちの姿があり、部屋でその配信を見る俺の姿があった。

 あやちの配信画面から見える背景からして十三層の探索の続きのようだ。


『今日もやっていくねー。みんなに見せたいものもあるからねっ』


 あやちはいつもどおりのカワボと笑顔を俺達に見せている。あの時のトラウマを引きずってはいないようだ。

 メンタル強いな、異世界だと一回死にかけると探索者やめる人もいたものだが、異世界より平和な現代で育ったとは思えない意志力。数千人に見られながら配信するプレッシャーに常日頃から耐えてるだけのことはある。日常が精神鍛錬みたいなものなんだな。


 さて配信が始まると、いつも通りにあやちは探索をしていく。『アイテム落ちてないかな~。防具がほしいな~』など言っていると、いつものトロールがのっそりと出てきた。


 しかし、実物の彩乃さんに会ったあとに配信であやちを見るとなんとも不思議な感じがする。あの時の子が、こうやって大勢に見られながら配信してるんだよなあ……。


 とその時、トロールを発見したあやちの口の端が持ち上がった。


 あやちが高く掲げたグレートクラブに雷が落ちた。

 稲光が画面を縦横無尽に走り回り、花火のように眩しく光ったと思うと、それはすぐにごつごつした木の棍棒の表面に集中し、パチパチと音を立てる雷光をあやちのグレートクラブがまとった。


『チャンス到来❤ みんな、見ててね。あやの新必殺技、魔法剣・ライトニングを!』



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