第16話 二反田さんは彩乃さん
俺と二反田さんは処刑室を出て、十二層への上り階段へと並んで歩いていた。
いいものも手に入れたし、いい時間だし、帰るにはいいタイミングだ。
「えー! 見てくれてたんですか」
「ああ、知ってる。あやちでしょ? 俺も結構ダンジョン配信見るし、何度かあやちも見たことあるよ」
「えーっ!? 本当ですか!? うれし……いより恥ずかしいかも」
彩乃は頭を抱えてぶんぶん振っている。
あやちの配信では見たことない姿だ、斬新だなこれ。
「まあ今は配信中じゃないなら、本名で呼んだほうがいいのかな二反田さんって」
「彩乃、でいいですよ、大樹さん。あやちに近いから呼びやすいでしょう?」
「あ、はい。わかりました、彩乃さん」
「うんうん、その呼び方の方が好き。それにしても、大樹さんが私のこと知っててくれたなんて嬉しいなあ」
「だって配信の視聴者数5000人、登録者数は30万人のダンジョン配信者でも有数の人気だし、当然だよ。俺は色々な配信見てるし、有名な人も当然抑えてる」
「へー、自分でダンジョンに潜るだけじゃなく見るのも好きなんですね」
「ああ、こういうこと俺もやったな~とか、こういうやり方もあるんだな~とか、むしろ自分がダンジョン経験あるから余計に楽しめる」
なんなら今日ここまで来たのも、お金のためもあるけど、もう半分はさいたまダンジョンを知ってさいたまダンジョンの配信をより楽しむためもあるしな。
「それで私のことも見てくれたんですね、ありがとうございます。しかも覚えてくれたなんて嬉しいです」
「こっちこそ楽しませてくれてありがとうだよ。本当に。やってる方は色々大変なこともあるだろうけど」
「そーなんですよ! 大変なんです!」
彩乃さんが俺の行く手を遮るように正面に回ってきた。
よっぽど主張したいことがあるらしい。
「配信って、本当にね……常に見てくれる人を楽しませないと、って思ってやるから。せっかく見てくれてるのに、嫌な思いさせたら申し訳ないじゃないですか。ダンジョン歩いてモンスターと戦って疲れてても、疲れた顔見せないようにしたり。疲れたリスナーさんが見に来て、疲れた顔見たらやじゃないですか?」
「まじか、そんなことまで考えてるんだ。全然意識してなかったけどすごいな彩乃さん。配信のアーカイブも結構たくさんあったけど、あの一つ一つがそういう意識で撮られてると思うと大したもんだな。俺にはとても無理だ」
「アーカイブまで見てくれてるんですか! 嬉しい!」
行く手を防ぐ彩乃さんがぴょんとさらに近づいてきた。
アーカイブ一覧を見ただけで中身は視聴してないとは言えない……黙っておこう。
「大樹さんはいいリスナーさんだなー」
ふっ……まあね。親切な投げ銭とアドバイスもしてあげたしな。
でもそれは言わないでおこう。善行は黙ってやる方が美しいもの。ごんぎつね理論だ。
ん? でも、今の言い方って……。
「その言い方、良くないリスナーもいるみたいだね」
「そーなんですよ! 聞いてよ大樹さん!」
彩乃さんは俺の両肩をガッシリと掴んできた。もう逃げられないぞ。
「本当にさー、鬱陶しい人がいるのよねー。実際にダンジョンにいるわけでも戦ったわけでもないのに、配信だけ見て軍師気取りであーしろこーしろって。必死に戦ってる時にそんなん言われたら頭が沸騰するって話よ!」
お、おお……なんかヒートアップしてる。相当苦労してるんだな。
「やたらめったら指示だしてくるんだよ。こっちは自分の力でここまで攻略してきたのに、見てるだけのやつがさあ! なんも知らないくせにさあ! うぜーーーーー! って叫びたくなる!」
何千人も見てればそういう厄介な人も紛れ込んじゃうんだな。配信者も大変だね、苦労は察するよ。
「ああ、いるね世の中ってそういう人。中途半端な知識で、知ったかぶる奴とか。偉そうに言ってるけど肝心な部分が抜けてて逆に惑わしてくるだけってパターンありがち」
「そう! 大樹さんわかってるー! 聞かれてもないのにべらべら喋るなって思いますよねー。大樹さんみたいに行動で示してくれる人とは違ってねっ」
「ふふん、自慢じゃないが俺は現場人間だから。ダンジョンも、もう数え切れない日数探索してきたし」
「えっへへ、気が合いそうね。あやも自分で来ないと気がすまないタイプ。だから、早くダンジョンの先に進みたくて、そのためには配信も頑張らないと……それに、配信もやってみたら結構面白いしね」
「でも焦りすぎると今日みたいになるから、周囲に気を配るのは忘れない方がいい」
「はぁ~い。あんな目にあって助けてもらったあとじゃつべこべ言うなとは言えないなあ、ふふっ。…………あれ? そういえばなんで大樹さんはあそこに来たの? たまたまたどり着いたの?」
俺は強者の匂いのスキルについて彩乃さんに教えた。
「なにそれ、そんなの聞いたことなかった」
彩乃さんは目を点にして驚いているが、むしろこっちも驚いた。
これは人に知られてないようなスキルじゃなかったはずだが……ああ、でもそうか、結構な数の特殊モンスターを倒すか、スキルオーブか、いずれにせよ冒険者とダンジョンが大昔から日常にあった異世界だから広まっていたのであって、ダンジョンの歴史が浅い地球じゃまだまだレアってことかな。
「大樹さんって、誰も知らないものを知ってるし、誰も持ってない力を持ってるし、…………やっぱり、そうなんですね」
彩乃さんは俺の肩を掴む手の力を強め、魂を吸い寄せられているようにまっすぐな眼差しを向けている。
「え、なにそれどういう情緒」
「嬉しいって言ってるじゃないですか。さ、帰ろう大樹さん」
俺の肩を掴んでいた手をスライドさせていき手を引くと、彩乃は階段への帰路を軽やかに俺を連れて行く。




