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1.久しぶりの日記

 

 紅葉月の七日

  しばらく書いていなかった日記を再開した。約一年書いて無かったのか。その事に驚きを隠せない。天八座の仕事は思ったよりも過酷だったが充実していたな。

  今日からロイヤルヤード王国で暮らす。ロイヤルヤードはアステリアの新聞も入ってくるらしい。しばらく暮らしたらアステリアに戻ろうと思う。

  

 ☆☆☆

 

 整備されていない道を歩いているのは一人の男。身なりはそれなりに良いが、荷物は少ない。トランクケース一つのみだ。

 この男は、スティル・サイリック。

 とても眠そうに、朝焼けに染まる街をブラブラと歩いている。

(あー、今何時だ?朝焼け…だから、午前六時過ぎか)

 スティルの生まれは魔術大国アステリア。文字通り魔術で溢れかえっている王国だ。何をするにも魔術が欲しい。言ってしまえば、魔術を使えない者に人権はないも同然だ。

「にしても水平線だなぁ。初めて見た」

 スティルは二十六歳にして初めて水平線を見て感動していた。そもそも、海自体見る事も初めてである。海は本当に青いんだな、と独りごちいている。 

「とりあえず、家…いや、新聞が先…宿、宿が最優先だな」

 スティルは海から視線を外し、街を見る。

「……ところでここはどこだ?」

 スティルはまず、地図探しから始めた。

 

「あー、ベッドって便利だったんだな」

 あの後、スティルは王国の都市部を駆け巡り地図を探した。探し始めて約五時間後、やっと書店が開店したので地図は買えた。

 しかし、地図を頼りに向かっていた宿は当然、全て受け付けていなかった。その為、午後三時までは海をぼーっと見て、ロイヤルヤードの街の特産品を見たりして時間を極限まで潰していた。

 宿が受け入れを始めてからは別だ。

 即座に一週間分の料金を払い、部屋に通してもらった。部屋は海の見える場所だった。観光客だろうか、楽しそうに走り回っている。

 青い海に赤い紅葉。中々見られない光景だが、とても綺麗だ。だが、あと、数日経てば葉は落ちてしまいそうである。

(料金の割にはいい部屋だな)

 スティルが払った金額は銀貨七枚。一般人の給金が銀貨五枚の為決して安くは無い。スティルは金銭感覚が狂っているのだ。

 ベッドに身を預け、頭を休めていたスティルは起き上がった。そして、投げっぱなしにしていたトランクケースを机に置き、開ける。

 入っているのは……小さい何か。

「耐えた。耐えた。解除」

 スティルが人差し指を立てクルクルっと天に向け回す。

 そうすると、ミニチュアサイズの物が元の大きさに戻り机に沢山の衣服や書籍の山を作り出す。机から溢れかえっていると言っても良いだろう。

 スティルが使っていたのは、魔術の一つ、強化術だ。スティルはトランクケースに入らないから魔術で物を小さくしたという訳だ。半日近く維持していた魔術が解け、スティルは肩を回した。

「いやー、持って来過ぎたか?いや、忘れ物もしたしな。とりあえず、分けるか」

 スティルは腕を捲り机の上の物を分けていく。

 書籍三冊、万年筆、衣服類、金、銀、銅貨。

 大きく分けてこのぐらい入っていた。

 とりわけ大事に取り出したのは万年筆だった。

「あ、インク忘れてきたな…こっちでカートリッジ式にしちゃうか⁉」

 スティルは新たな万年筆を買おうと計画しているようだった。

 

 ☆☆☆

 

 にしても、ロイヤルヤードの海は綺麗だ。本当に海は青かった事に驚いた。正直嘘だと思っていた。夏になったら海は入れるのか?入りたいな…。いや、そもそも俺は泳げるのか?最悪魔術を使うか…いや、ダメだ!一度は普通に入ろう!

 万年筆のインク壺も忘れた。あれ捨てられるのか?結構いいやつだぞ!

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