6月14日ー曇りのち雨ー
月曜日。
週の始まりは、毎回なんだか憂鬱。
っていうのは、先週までの私。
今朝の私は、久しぶりに雨じゃない登校に喜んで。
湿気も少ないから、髪が上手くまとまったことに喜んで。
そして…。
二日ぶりに、彼に会えることに、胸を高鳴らせていた。
まぁ、会えるって言い方には語弊があるけど。
一般人の私は、手の届かないアイドルを、ただ、眺めるだけ―――
「――ふぅーん。今日は、愛しの王子様に、会えなかったってワケだ?」
ニィっと笑顔を作って、おもしろそうに愛が言った。
「ちょっと、愛しの、ってやめてよ。王子様は、まぁ、その通りだけど…」
「そっちかよ」
そう…あんなにウキウキだったにも関わらず、彼の姿を見つけられなかった今日の電車。
期待しちゃってた分、ショックは大きかったみたいで。
分かりやすく落ち込んでいた私は、いつものように、お弁当を食べながら、愛に理由を尋問されていた。
「大体、一日会えなかったくらいでそんなに落ち込んでるなら、さっさと連絡先でも聞けばよかったのよ」
「そんなの、無理だよ…。あの人の前に立ったら、固まる自信が100%はある」
自信満々にそう言うと、愛は、呆れたように大きなため息をついた。
「はぁ…。そんな情けない事に、自信持たないの」
そう言った後一拍おいて、人差し指をピンと私に向かって立てながら、愛は続けた。
「いーい?恋愛は、始まりが肝心なんだから。とりあえず押すの。カケヒキはそれから。まず、自分を知ってもらわないと、何も始まらないわよ?」
堂々と言う愛は、本当に綺麗。中学生の頃から目立っていたけど、高校に入ってさらに垢抜けた。
茶色い巻き髪も、化粧も、全然下品な所がなくて、しかも、手入れが行き届いてるのが一目で分かるくらいに、髪も肌もツヤツヤ。
童顔で子供っぽい私は、彼女と並ぶと、いつも自信がなくなってしまう。
「そりゃ、愛くらい綺麗なら、自信持って、積極的にいけるだろうけどさぁ…」
ツン、と口をとがらせて、呟くと、愛はくすっと笑った。
「何、拗ねてんの。ヒナは可愛いんだから、少しは自信持ちなさい」
「……嘘」
「ホ・ン・ト!目クリクリだし、ちっちゃくて守ってあげたくなる。小動物みたいで可愛い」
小動物……。
愛に可愛いって言われたのは、嬉しいけど、複雑…。
「…そういえば、さっきから恋愛、恋愛、って…。私、別にあの人の事、好きになったわけじゃないよ」
一般庶民が王子様に恋に堕ちる、なんて。
物語の中だけで十分。
そんな思いを込めて、愛に伝える。
「ふぅーん。ま、今はそう言ってればいいんじゃない?恋愛初心者の、ヒナちゃんはっ」
からかうように言われた台詞に、また口をとがらすと、今度は大笑いされた。
確かに恋愛初心者だけど…。
これは、恋なんかじゃないんだもん…。
小さく呟いたはずの言葉は、小さすぎて、自分の耳でも拾えなかった。