6月11日ー雨ー
タッタッタッ…
真っ赤な傘をリズミカルに揺らしながら、駅までの道を走る。
今日も雨。
昨日までの私なら、不機嫌に登校したんだろう。
でも、今日は全然違う。
なんだかフワフワして、気持ちがとっても軽い。
早く電車に乗りたい、とまで思ってるし。走っちゃってるし。
180度の気持ちの変化に、自分でびっくりしてる。
駅に着き、折り畳み傘をしまって、息を整える。
走らなくったって、時間は全然間に合ったけど、なんだか今日は、無性に走りたくなって、家からずっと走ってきてしまった。
うーん…思春期の男子みたいな思考してるな、私。
ハンドタオルで水滴と、うっすら滲んだ汗を拭きながら、苦笑する。
――今日は、いるかなぁ…。
少し時間があると、すぐ頭の中は彼の事になる。
昨日もずっとそうで、学校でも上の空だったから、皆から突っ込まれたし…。
ヒナに好きな人ができたー!って騒がれるのが目に見えてたから、一人にしか、彼の事は話してないけどね。
だって…確かに彼の外見はストライクなんだけど、恋なのかって聞かれたら、分からない。
自慢じゃないけど、この16年間、恋愛らしい恋愛なんてした事ないし!
ホント、自慢じゃないよなぁ。
「一目惚れだって、恋が始まる、立派なキッカケになるわよ」
って、自信満々に言い放ったのは、恋愛百戦錬磨の、親友。その名も、愛。
騒がれるのは、嫌だったけど、どうしても誰かに話したくて。
お弁当を食べながら、この不思議な気持ちと、彼のかっこよさを愛にぶちまけた私。
だけど…一目惚れ?これが?
自慢じゃないけど、この16年間一目惚れなんて…って、しつこいですね。
まぁ、自信満々に言えちゃうくらい、恋愛経験はゼロな私だから、いきなり一目惚れなんて、ないよなぁ。
愛はああ言ってたけど、きっと、芸能人を見てキャーキャー言うような、ファン心理っていうか、憧れみたいなモノだって、そう思う。
初恋が一目惚れで、しかも相手はあんなイケメンさんだなんて、ハードル高すぎちゃって、私には無理!
きっと、彼女とかいると思うし。
うんうん、と一人納得していると、電車が入ってきた。
「うしっ!!」
と、今日も気合いを入れ、電車の中へ身体をねじこみ、いつもの場所をゲットした。
ふぅ…。
少し落ち着いて、棒をギュッと握りながら、いつものように下を向く変わりに、周りを見渡す。
いた…!
その人は、すぐに見つかった。
他の人たちよりも、頭一つ分大きい彼。
今日は、反対側のドアの前に立って、外を眺めてる。
なんか…オーラが…。
オーラがある…。
改めて今日見ても、やっぱりかっこいいし…。
うぅー…心臓バクバクしてきたぁ。
あ、頭の後ろ、寝癖ついてる…。
目も、なんだか眠そう…。
朝、弱いのかな?
あのブレザーって、確か隣町の私立のだったよね。
何年生だろう…。
彼の横顔を眺めながら、色々想像してしまう。
見てるだけで、お腹いっぱい。
不思議だなぁ。
一昨日までと、電車は何も変わってないのに。
私、ずっと駅に着かないで欲しい、って思ってる。
プシューー…
私の思いとは裏腹に、電車は、あっという間に下りる駅へ。
人に流されるようにして、車内から外へ、慌ただしく飛び出る。
20分って、こんなに早く過ぎちゃうものだっけ…。
未練がましく、大分人が減った車内を見るが、それでも彼は隠れてしまっていて、姿を見る事はできなかった。




