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雨の日  作者: 日和
1/11

6月10日ー雨ー

「あーぁあ…。ホント、いやになる…」




…梅雨が始まった。


始まってしまった。


なんて、テンションが上がらないのは、私だけじゃないはず。

春でもなく、夏でもない。

蒸し暑いと思ったら、急に肌寒くなる。


毎年、この時期になると気が重くなる。


この季節の電車通学は、楽じゃない。

ベタベタした人たちでいっぱいになった車内に、身体をねじこんで。

推定50歳の脂ぎったおじさんも、同じ歳くらいの学生もみーんな一緒くた。

不快指数は朝からマックス。



そんな事言ったって、学生は学校に行かなくちゃいけないし。


学校に行くには電車に乗らないと余計に大変な思いをしないといけないし。


「よしっ!ファイトだヒナっ!!」


グッと小さくガッツポーズで自分に気合いを入れ、私は駅の改札口を通り抜けた。


うわぁ…。

今日も満員御礼な事で…。


毎日の光景ながら、冷や汗しか出ない。

二両目のドア横。

いつもの指定席…というか、指定…棒?にしがみつく。

身長が決して高くない私は、いつも人に埋もれる。


が、我慢だ…。


駅に着く度の、人の乗り降りさえ収まれば、あとはひたすら我慢するだけで学校。



我慢、我慢、我慢…。



棒にしがみついて下を向き、色んな人の、服に染み込んだ雨の臭いに顔をしかめる。

やっぱり、梅雨って苦手ー。

私は、そう改めて思い、大きなため息をついた。

そして、また息を吸い込んだ、その時…。


―――いい香りー…。


雨の日らしくない香りが、私の鼻から入ってきた。

ジメジメした空気を、はねのけるような、洗浄してくれるかのような、爽やかな香り。

何だろう…香水ほど強くないから、柔軟剤かなぁ…。

少し気分が上がったのを感じた私は、この香りをさせている人に興味がわいた。


大人の…女の人かなぁ?


そんな事を考えながら、少し顔を上に向ける。




途端、電車が止まった。




失礼、取り乱しました。


…時が、止まった。

雨も、人も、電車すら、私には止まって感じた。

何の音も、耳に入ってこない


な、な、な………


なんって、素敵な人……!


サラサラの黒髪。

スベスベの肌。

切れ長の、涼しげな目。

がっしりした肩。


そして、背が高ぁい…。


まさに、ド!ストライク!!!



1分……いや、10秒だったかもしれない。


目をハートマークにして、口をぽかんとあけた私は、さぞマヌケ顔だったに違いない。


もう、よだれとか垂らしてそうな勢い。


……………ハッ!!

いけない、いけない。

こんなマヌケ顔、このイケメンさんに見られたら恥ずかし死にしちゃう。


幸い、彼は携帯の画面に釘付け。

ほっ、と胸を撫で下ろすと、興奮を内に収め、また視線を下に落とした。


香りは相変わらず、私の鼻をくすぐって。

心臓はバクバク、うるさく跳ねている。


雨の日なのに、なんだか、とっても幸せな気持ちで、微笑んでいる私がいた。




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