【久保田修次】(前編)
うだるような暑い日が続いてる。今年は記録的な猛暑らしい。その一文を毎年聞いてるような気もするが…。
そんな暑いときに学生には夏休みがあって、暇な時間を持て余す時期だ。
街には普段ならば、平日の昼間にはあまり見かけないガキども―――おっと失礼―――少年少女たちが溢れかえってる。
暑いんだから家にいればいいのに。
果てしなくそう思うオレは、子供が苦手だったりする。
あいつら自分の欲望に素直だし、無駄に体力余ってるしそのくせ周りが見えてない。……のがほとんどだ。
まあ、大人のフリをした子供もわんさかいるし。妙に大人びたガキもいるし…一概には言えないが。
ただ単に、オレがどう対応していいかわからないんだと思う。
「えー信じらんないー。久保田さんってここで寝泊まりしてたのー?」
だけどオレは世間からはとっくに大人のカテゴリーに属されていて、ガキのフリをするつもりはない。
だから、いくら暑い真夏の午後に、目の前でいくらガキに侮蔑の色で見られようが、オレは相手にしたりしないのだ。
「放っとけ」
反応といえばこれくらいが関の山。
「げっ。じゃあ風呂とかどうしてんだよ」
「主にジムだな、あとはスーパー銭湯」
「まじかよ」
「ジジくさいわね」
「…………………」
夏休みだから暇だと言ってこの事務所に入り浸り、失礼なことを言いまくっているのが、言わずと知れた神崎悠汰と西龍院玲華である。
いくら追い出してもこいつらはやってくる。
「ねーそれより暇なんだけどー。依頼人来ないわねー」
そしてなぜか毎回玲華嬢はこんなことを言う。
「そんなにバカバカ来るか。………って…来たらどうする気なんだよ、だから…」
「はあー。せっかくここに来れば面白いことが待ち受けてると思ったのになー」
玲華嬢がこちらを一切無視して、ソファにもたれながら伸びをした。
そう面白いことなんか起きるはずがないだろう。起きてるならオレだって苦労はしてない。
「良いから二人でどっか遊びにでも行けよ。若いんだから」
追い出したくて、冒頭で嫌だと思っていたことを進めてみる。
ああそうか。他のガキたちも、もしかしたら親などに追い出されたのかもしれない。
「悠汰がさーお金かかる遊びはイヤみたいなんだよねー」
「うるせえ、人のせいにすんな!」
悠汰が長いソファからガバッと起きた。
まったく…。だから人の家(いや、事務所だけど)に入り浸るのか。
「おまえ、ヒモには向かないな」
ささやかな仕返しとばかりに、オレは悠汰をからかった。するとやつは想像通りの反発をする。
「そんなんなるか!向かなくて良いんだよ!」
本当、こいつだけは期待通りの返しをしてくれるよな。
オレは満足して事務机でコーヒーを飲んだ。
―――この春にきた依頼は、内容も対象者もオレには嫌悪的なものだった。
まさか終了した今でも、友好的な(一般的に見れば友好的な)関係でいられるとは、正直想像してなかった。
とくに悠汰からは断絶をされるか、良くても淡白で希薄な関係で終わるものだと…。
最初の頃の拒絶ぶりを考えれば、悠汰が成長しているためだと思える。
(ノビシロが多いのも考えもんだ)
とにかく今は疎ましいことこの上ない。
「意外とここ流行ってないのね…」
「あのなあ…」
「だから嫌だと思った依頼でも引き受けたのね」
「………」
ったくもう。玲華嬢は玲華嬢で遠慮というものがないし。特にオレ相手には。
ガキみたいに怖いもの知らずな一面が見えたかと思えば、妙に悟りを開いたようなこと言う。なまじ鋭いし…。扱いづらいことこの上ない。
特に今は頼みの綱の祥子君がいない。
さきほど仕事に必要な用品の買出しを頼んだのだ。その隙間に二人はやってきた。
「そうなんだ」
どこか落ち込んだように悠汰が呟いた。
……っておいっ。勝手に納得すんな。肯定してねえぞ。
確かに経営は楽ではないし、今回の仕事で助かった面も否定はできない。
しかしそんなことはコイツには関係ないことだ。
「そんなんじゃねえよ。好きなことだけしてりゃ済むほど世の中甘くもないからな」
「ふーん…」
悠汰は最近、よく考え込むような仕草をする。
ごちゃごちゃ考えてるな、っていうものなら以前から在った。だけどいま目の前で見せられてるものはもっと深い。どこか大人がするような仕草。特に仕事の話をするとこうなるような。
成長中ってところか。良い意味でも悪い意味でも。
「なにか不安か?」
不安なのか?―――将来のことが。
それは家庭のこれからのことか?自分の未来か?それとももっと別の……。
「えっ?…いや、違う。昨日兄貴に会いに行ったけど元気そうだったし不安なことはない」
一度顔を上げて、それから悠汰は首を横に振る。
「父親には…。意気込んで会うつもりで行ったけど、なぜか会ってくれなくて……。でもそれは父親が逃げてるんであって、俺が気に病んでも仕方がない。池田さんも…兄貴のことは未成年だし未遂だし、事務的な処理で終わるだろうって言ってたから…。今は嘘みたいに気にすることがないんだ」
嘘をついている素振りも、強がっているふうでもない。
恐らく“父親が逃げてる”っていうキーワードを与えたのは玲華嬢だろうな、と思う。悠汰では考えが及ばなかった部分だろう。
(なるほど、な)
では漠然とした不安なのか。
悠汰自身形になってないもの。それがオレには見えた気がした。
「なあ、探偵ってやってて楽しい?」
ソファの手すりにもたれかかって、デスクにいるオレに向かって悠汰が訊いてきた。
真っ直ぐな瞳。
この類の質問を最近される。だけど毎回、即座には答えられなかいでいた。
それはもしかしたら悠汰にとって、すごく大事で重要な質問だと思えたからだ。オレの回答次第で、あらぬ影響を与えてしまう懸念があった。
(オレはいつから、こんなにコイツを気にしてるんだ)
一体いつから、保護者のような目線で……。
少し愕然とする。
ガキは嫌いだって言ってるのに。悠汰の突き刺さるような視線を、受け止め切れなくて逸らす。
「楽しいわけないだろ。大変だ、大変」
「真面目に答えろよっ」
「なんだあ?おまえやりたいのかあ?」
冗談で、本当に軽口を叩いただけなのに、悠汰の瞳は変わってなかった。真面目なままだ。
(まじかよ…)
そのとき出入り口の扉からガチャガチャ音がした。
顔を向けると祥子君が買出しを終えて帰ってきたところだった。片手に小さい袋を一つとバックを下げている。
「先生。帰ってきました。あら、いらっしゃい神崎くん、玲華さん」
オレはほっと息を吐いた。これで二人のことは祥子君に任せられる。
「お帰り。早速で悪いけど、オレは出かけるから」
「…はい」
一瞬だけ戸惑うも、すぐに祥子君は頷いた。
「どこ行くのよ」
鋭く玲華嬢が切り込んでくる。
「仕事ってのはな、表に見える部分だけじゃないんだぜ」
適当に、自分でも意味が解らないことを答えてオレは事務所を後にした。
* * *
自分でも意味が解らないということは、玲華嬢に見抜かれることもないわけで…。
要はどうしても言うわけにはいかなかったのだ。
今日は人と逢う約束があった。
「お怪我の具合はいかがですか?」
ツンとする薬品のにおいがこの部屋からはしない。
あの時壮絶な事件現場になった病院の中の一室。
そこでオレはその人と対面していた。ここの内科医長で悠汰の父親、神崎一成氏。
この人の居場所のひとつである内科医長室はそんなに広くはないが、しっかりと外界から閉ざされた、密談するには相応しい個室だ。
正式な依頼人は本当はこの人で、母親はあくまで代理だった。
しかし連絡を通すのは決まって母親にだったのだが、それも依頼人の希望であった。忙しくて構ってられなかったんだろう。
だけど今はその代理人はオレとは会う余裕が無い。身体的に。
「見て解る通りだ」
短く神崎氏が答える。
神崎氏は杖をつきながらも窓際に立っていた。まずまず、というところか。
最後の報酬を受け取るために、今日はわざわざ呼ばれた。
本来は口座受け取りの契約だったのだが、足が悪いために銀行に行けないらしい。
「悠汰君が気に病んでましたよ」
別に言う予定にはしてなかったが、オレは告げてしまった。先ほどの悠汰の仕草を見たせいだと、自己分析する。
神崎氏はやや苦渋の色を見せた。
「君は余計なことをしてくれたな」
「余計なこと…ですか?」
「私は見張れとは言ったが仲良くなれ、とは言ってない。不要な干渉だとは思わなかったのかね?依頼外だよ」
「人と人の関わりなんて分からないものです。…もちろんその代金なんて不要ですが」
「当たり前だ。私は悠汰に余計な人物を接触させないために見張らせたんだ」
(ああ、そうかよ)
つまりはオレもその余計な人物に入ると言いたいようだ。
息子たちが聞いたらまたひと騒動起こりそうな態度。恐らく根っからこんな性格なのだろう。
これでは子供のほうが苦労させられるのも頷ける。
「それで…なぜ惣一君とも面会されないのですか?」
「………あいつは…私を殺そうとした。会えるはずがないだろう」
おまえに関係ないことだと、一蹴されることを予想していた。
しかし動かないままで神崎氏は呟く。
この人も参っているのだろう。長年見てきたものが嘘だったと、わかってしまったのだから。
苦しそうな顔が、よく似ていた。悠汰と。
「ずっと閉じ込めておきたかった、二人とも。そうすれば誰にも汚されずにいれたのに。余計な影響が入りすぎたんだ。だから壊れたんだ」
この人は…、いつまでそうやって周りのせいにするんだろう。
感情をあらわにして怒鳴りつけてやりたい衝動に駆られた。この大人のフリしたガキに。
いい加減にしろ、と。だからおまえは失敗したんだ!と。
同時に、悠汰がそこを受け継いでいないことに安堵感を覚えた。伸び代があるから、もっとずっと成長する、あいつは。
この人にはそれが余り無い。すでに完成されてしまっているのだ。かなりの衝撃が、影響が必要になるだろう。恐らく今回のような…。
今回のことで変わらなければこの人に未来はない。
容赦なくそう思った。
しかし寸でのところでそれを抑え、大人なりの応対をして直ぐにその部屋から出た。
オレが代わりに不満を撒き散らしたところで、何も変わらないだろう。なに言ってんだ部外者がと、聞く耳を持ってもらえないのが着地点だ。
* * *
唯一の用事が終わっても、すぐには事務所に帰れなかった。
感情的になってしまっている部分が残っていることを、解っていたから。引きずっていたんだ。
気持ちを整理して落ち着かせるまで、誰にも会いたくなかった。傷つける。八つ当たり、しそうだった。
(なかなか大人にはなれない)
悠汰は前に、自分のことを余裕があって良いよな、って言った。
それは違うんだ。
(オレも同じ…)
大人のフリをしたガキ。
かと言って、素直に感情を曝け出せるわけでもない。悠汰のように真っ直ぐにはぶつかっていけない。
昔のままでは、いられないのも事実だった。
無意識に抑えてしまうんだ。
(強くなりたい)
いちいちぐらつかない精神力が欲しい。
―――オレは、とりあえずうろうろ街をふらついてから事務所にもどった。
「?」
変化は、すぐに気づいた。
あれから二、三時間くらい経っていた。真夏でもすでに陽が落ちている。逢魔時。
まだ事務所には二人がいた。祥子君もちゃんといる。
三人はソファに固まって話をしていたようだった。オレが入ってきたところで、一斉に見られた。
そして―――。
「あら、帰ったのね久保田さん」
誰よりも先に玲華嬢が反応する。
「お帰りなさい、先生」
「遅かったな、どこ行ってたんだよ」
当たり障りのない、普通の会話。
だが最後の悠汰の反応がすべてを物語っていた。
わざとらしい―――。
一見女性の二人は普段通りだが、悠汰だけがぎくしゃく…というか、ソワソワしていたのだ。
「帰って、こなかったほうが良かったか?」
「やだ。なに言ってんの?久保田さん」
「あ!もうこんな時間じゃないか。玲華、帰らないと…」
「えーもう?でもそうね、いつまでも邪魔したら悪いわね」
二人はそんな会話をしながら、そそくさと出て行ってしまった。
「祥子君…」
ひとり残った祥子君も腕時計を見てから立ち上がる。
「わたしも今日は上がらせていただきますね。お疲れ様でした、先生」
なんか怪しい…。
祥子君の態度は自然だが、全体的に絶対怪しい。
「祥子君!」
呼び止めるオレの声を無視して、さっと祥子君も帰ってしまった。
(なんだよ)
グレてやろうか。一瞬だけへこみそうになった。
とりあえず事務所を見渡して変化を探る。
特にはない。
祥子君のデスクをチェックするが、ここにも変化はない。
そのままオレは給湯場があるところに向かった。備品はきっちりいつも通り片付けてある。
洗われたグラスが四つ、食器カゴに置かれていた。シンクにも水滴。
つまり―――。
(!)
オレは後を追うように事務所から飛び出した。
* * *
その夜。深夜。
ぶらぶら家までの帰途につく間、会ってはならない人に会った。
会ったというか……まず相手は車だった。真っ黒いベンツの車。
なんかついてくるな、とは思っていたんだ。会ってはならない人だから当然会いたいはずがなくて、オレは車では入れない細い路地に避けた。
そこで時間をつぶそうと煙草を取り出す。
仕事中は吸わない、という流儀がオレにはあった。
今回の件は時間だけ無駄に長くて、途中で吸っちまったけど。…というより、本当は行き詰ったせいで欲求を抑えられなかっただけだな。
煙を肺に入れて、ため息混じりに吐き出す。
「隠れるように吸うとは。未成年だったのか?久保田君」
この声は。
オレはもう一度長く息を吐いた。
「こんなところまで来るんなら、車でつけないでくださいよ」
出来れば今は会いたくない人物が、実に愉しそうに和服姿でそこに立っていた。
お供もつけないで、ただ一人。
「気づいとるくせに逃げるから悪い」
「もう会う必要ないでしょう?功男さん」
浅霧功男。
そう適当に相手できる人ではないが、こう足取りが軽くしゃしゃり出られるとどう対応していいか……困る。
初めて会った瞬間、オレのガキの部分を見抜いて叱り飛ばしたくせに、その後何故か懐かれたみたいなのだ。
この軽さのせいで近寄りがたい雰囲気がないのは助かったが…。如何せん………苦手だ。
「いやな。偶然見知った顔を見つけてな。暇なのだよ。いいから相手にしてくれ」
「嘘言わないでください。貴方、悠汰に引退したに等しいとかおっしゃってましたが、まだかなり影響力のある人なんですよ?」
「だから等しいと濁しておる。盗み聞きは感心せんぞ」
「してませんよ。本人から聞いたんです」
嘘だった。盗み聞きはしていたんだ。あのとき。
あまりに愉快そうに愉快な格好して出向くから、ものすごく気になった。
「まあよい。それよりあの少年はどうしておる?」
「悠汰は元気ですよ。貴方こそどうなんですか?お孫さんのほうは」
「なかなか不器用な子でな。ワシが声をかけても恐縮した姿勢を崩そうとせん。畏まることはないと言うても聞かんのだ」
「ぬはははは。避けられてるんじゃないですか」
「おまえさんは、もう少し恭順の意を示したまえ」
ついバカ笑いをしたオレに、功男氏はこれでもかというほどの冷ややかな視線を投げてきた。厳しい空気が纏う。
しまった。調子に乗りすぎたか。
反省したのをまるで見計らったように、功男氏は厳しさを解いた。
こういうところはさすがだと思う。有象無象を相手に束ねている人だ。他人の腹のうちを察知する術を身につけている。
「なにか不安なことでもあるのかね?」
だからオレが悠汰のことを見抜くように、この人にはオレぐらいなら容易く見破る。
まさか同じような指摘をうけるとは思わなかったが…。
この人に隠し事をしても無駄だ。オレは転がっていた空き缶を拾って煙草の火を消した。
「悠汰が、探偵の仕事に興味を持っているようです」
「ふぉっほっほ。それは喜ばしい」
「どこがですか?」
「弟子として鍛えてやればよい」
「冗談じゃない。やめてくださいよ」
「なぜ厭う。彼がそうなったのはおまえさんに刺激を受けたからではないのか」
裏の部分も知らずに憧れても、後で後悔するのは悠汰自身なのだ。もちろん最初は皆そこからの出発で、オレだって軽い気持ちで始めたものだけれど。
だけど複雑に思うのは―――。
恨まれることがあるんだ。それは不当な恨み。
自分の行動や性格上から発せられた恨みならば、仕方がないと思えるが、逆恨みだけはどうにもならない。
(他人の悪意に神経質になるくせに)
その度に真っ直ぐ突っ走っていたら、いずれまた参ってしまうだろう。
「なんとか思い止まらせることが出来れば、とは思うのですが」
「それは彼の両親と同質の思潮だな」
「!」
そうか、そうなるのか。
悠汰の起動を操るということは、医者になれと言った一成氏と同じことなのだ。
まったく…。言われるまで気づかないとは。
この人に全てを話さなければ良かった。
とはいえ、今更後悔したところで、犯人を追っている理由を告げるためには避けられなかったのも事実ではある。
「老人は敬えよ」
「はい?」
いきなり変わった内容に、すぐにはついていけなかった。
「いつまで立ち話をさせておるんだ?いいから、おまえさんの行き付けの店へ連れて行け」
「なんでオレの行き付けの店……」
嫌ですよ、とはすでに言えない雰囲気だった。
「視野を広げることは重要だとは思わないかね?」
オレに背を向けて功男氏は歩き出した。
絶対オレが着いて来ると信じて疑ってない。
反対側に走ろうかな、と一瞬頭を霞めたが、実行できるはずもなく…。
(つまり、料亭は飽きたんじゃボケって言いたいんだろうか……)
その歳で、いま下に広げてどうするんだろう。
オレが隣まで着いていくと功男氏はかすかに笑った。
「西龍院のとこのじじいと最近話した」
歩きながら語る。
長年ライバルであり共に財界を駆け抜けた二人だ。あちらの方が権力的には上だろうが、付き合いの長さからか親しみを感じているのだとわかった。
「そう、ですか」
「やはり孫が一番可愛いとな。向こうも大した祖父馬鹿ぶりだったぞい」
西龍院家にはたくさんの子供がいる。となると孫もその倍近くいるはずで…。
「玲華嬢のことですか?」
だけどオレにそう言うってことは、そうなのだろう。
「彼女は実に爽快な女性だ。見ているものを圧巻する」
「貴方でも、ですか?」
そうならばオレに敵うはずはないわけか。
「さあな。それはそうとして、少年は今後また苦労しそうだな」
「今でも充分尻に敷かれてますけどね」
「そうではなく……」
功男氏が答えかけたとき、停車していたベンツに近づいたから、その意味は先延ばしにされた。
そして。本当にオレの行き付けの店なんかに連れて行って良いのか、真剣に悩んでいる中、オレはベンツに乗せられた。