第75話 決まってからゴネてもダメだぞ!
「けっか、はっぴょおおおおおお!!」
「…………」
「さぁぁぁぁ!楽しい楽しい狩りの時間は終了!ここからはぁ!運!命!のぉ、けっか、はっぴょおおおおおおだあああああ!!」
なんで二回言ったん?
「さぁ!それでは佐藤恭平くんから、魔石を、出してもらいましょう!どうぞ!」
剣聖のおっさんに促されるまま、目の前にいつの間にか置かれた台に魔石を置いていく。
「はい!全部で──三十二個!素晴らしい!初心者でこれは、中々のスコアだぁ!」
「あーっす」
「それでは続いてぇ!ヤジマアアアアア!!なんだこれはああああ!!」
拳聖のヤジマの後ろには、パンッパンに膨らんだズタ袋。とんだ茶番だよ。
「くそったれえええええ!!」
……で、なんでそんな悔しそうなんだヒトハ。
四つん這いになって、地面叩いてるヒトハのせいで、めっちゃ冷めてるんだけど。
「すまん!すまんサトやん!ウチがトレインした足軽、全部取られてもうたあああ!!」
「あ、お前のせいかこれ」
「ぬがあああああ!!」
頭打ち付けるのやめーや。悔しがりすぎだろ。
「いやぁ、拳聖のヤジマさん。最高の結果でしたね!」
「いやぁ、剣聖のノジマさん。あんなに足軽がいるなんて、ラッキーだね!」
「あああああああっ!!」
「うるせーな……で、もう終わりでいいの?」
「それでは、みなさん!次回の『双聖ちゃんねる』も、お楽しみに!せいっ!せいっ!」
「「そうせいっ!」」
ドローンに向かって決めポーズをしたあと、いそいそスイッチを切ってこちらへと向き直る二人。俺のドローン?結果発表の前に切らされたよ。そのほうが同接増えるからだって。
「助かったわ。こらかなりバズるでぇ」
「俺らの目に狂いはなかったな!その鎧、配信映えする思ったんや!」
「おお?ナンパ、してたんだよな?」
「ああ?あんな出オチみたいな奴、声かけるに決まっとるやろ」
「あんなんツッコミ待ちやん。スルーすんの可哀想やで」
あれぇ……?なんか思ってたのと違うぞぉ?
「ヒトハさん?」
「い、いや、いきなり肩をな?掴まれて『俺らと一緒におもろいことやろうでぇ』言われたらな?そらもうタチ悪いナンパやん?」
あー!うーん……セ、セーフ、かな?ギリギリやでぇ!!
「ま、兄ちゃんもおもろかったで。ええヤラレ役やったわ」
「ま、良かったらまたコラボしようでぇ!ほななー!」
考え事をしている間も、やることはやったと言わんばかりに二人は立ち去っていく。入り口の方じゃないから、違う奴捕まえるんかね。
うーん……しっくりしないけど、悪い奴らではない……よな?ちょっと不躾なだけで、真面目な配信者って感じだし。
「あ〜!すまんなぁ、サトやん。やられたわぁ」
ヘルムを外して悔しそうな顔でこちらへとやってくるヒトハ。
「いや、まぁ、うん。別になにかされたわけじゃないし、気にしてないよ」
「あー、ほんま?せやったら良かったわ」
「ん?おう。別になんかするために来たわけじゃないしな。大阪城ダンジョンの雰囲気はわかったから、もういいかな……?帰るか?」
「あ、ええっと、その、も、もうちょい、散歩とかせん?ほら、足軽オーガもだいぶ少ななったから、観光がてら。……アカン?」
「いや、別に構わねぇけど。でも景色とか楽しむ感じじゃねぇよ?」
お城の中って、興味はあるけど、あんだけウロウロしたら飽きてくるし。
「ほ、ほな、行こっ!あっちに、開けたところあんねん!」
「お、おお……?」
なんか、気合入ってんな。観光大使か?
◇◇◇
言う。
言うんや。
言うって決めたん、自分やし。ここで言えんかったら、一生言えへんぞ!
「な、なぁ、サトやん?」
「んー?どしたん?」
サトやんが、屈託のない顔でこっちを見てくる。悩みなんかなさそうな顔や。ウチの気も知らんと。
い、いや、アカンな。サトやんが知らんのは当たり前。自分がなんも言うてないからや。
「サトやん、あんな……?その、秘密……秘密に、しとることが、あんねん……」
「おう?秘密?」
「あ、あのな、その、ウチ、ずっと……ずっと……」
「お、おお……」
喉が渇く。口の中にわずかに残った、なけなしのツバを飲み込む。
「ずっと……健啖、持って、て……色々、みんなに、迷惑をな?かけとったんよ」
「迷惑……?健啖が?」
「せ、せや。その、ばあちゃんが、倒した魔物をすぐ食べてたんも、その、理由があってやな」
「ばあちゃんって……ああ、城ヶ崎彩芽さんか」
「うん、健啖はな?食べたら食べた分だけ、力出るんやけど、使たらお腹がな、めっちゃ減るんよ。せやから、ご飯いっぱい食べなアカンくて、その……」
サトやんの顔見るんが怖い。シラケた顔してへんか。こんなん言うてくる奴、キショいと思われてへんやろか。
「なんだよ、そんなことか」
「はぇ?」
◇◇◇
ビビったぁ〜!
いきなりかしこまって話すから、やっぱり入りたくないとか、そういう話かと思ったら、健啖かよぉ!
そんなん知ってるっての。俺も持ってるんだし──あれ?そういや言ってないか?もしかして、ヒトハは俺が健啖持ってるの知らない?
不安げな様子でこちらを見上げるヒトハと目が合う。
「まぁなんだ。飯いっぱい食うのなんか、誰も気にしてないよ」
「へ?い、いや……前も一緒に食べたけど、あれでもかなり抑えてたんやで?これから一緒にやってったら、絶対どっかで負担なるで?」
「…………あー、あのさ、実はね?俺も持ってる…………健啖」
「…………は?」
「いや、持ってる。健啖。俺も」
「持ってる……?サトやんも?」
「うん。だから知ってるよ。多分みんなわかってんじゃない?」
「わかってて、それで、良かったん……?」
「いや、だからさぁ」
わかんねーか?自己評価低すぎマンか?低すぎマンだな?
「あのな、ヒトハ」
ヒトハの肩が跳ねる。
「健啖とか、誰も気にしてねーから。この数週間、一緒にやって、ヒトハが良いって思ったから、スカウトしてんだよ。お前だけが選ぶ立場だと思うなよ?こっちはとっくにヒトハが良いって言ってんだろ」
「う、うぁ……」
「あ?」
「ほんまか?ほんまに、ウチ、おってええんか?」
「いやいや、契約書渡しただろ?やっぱりなしとか、言うわけねーじゃん」
「ほ、ほんま?」
めんどくせーな!大丈夫って言ってんだろ。……こういうのは、言葉じゃダメだな。
「おい、ヒトハ。契約書出せ」
「え?やっぱナシって言うん?」
「言わねーって。いいから早く」
おずおずと、ポーチから契約書を取り出すヒトハ。うん、サインしてあるな。
「よし、じゃあ、ここに、俺のサインを入れて……ほら」
二つの契約書に、サインを入れて、控えをヒトハへと押し付ける。
「あ……」
「これで契約成立だ。今更入りたくないなんて言っても、もう遅い!ってな」




