第5話 命懸けのコラボ
血のように赤い髪。
惜しげもなく晒した鍛え込まれた体。
申し訳程度に羽織っているローブの裏には大量の呪符。
こいつ、もしかしなくても……小紅アキラか?トップランカーの?どうしてここに?っていうか、なんで──
「なんで俺の名前を知ってる」
「ああ?チャンネル名に出てんだろ。佐藤恭平チャンネルってよ。初心者あるあるだなぁ?きょ・う・へ・い♡」
ゾワっと全身が総毛立つ。俺がここで全力を出しても絶対に敵わないと言い切れる相手。なにしにきたのか知らねーけど、タダで殺れると思うなよ。
鉈を持つ手をひねり、小紅アキラの拘束が弱まった瞬間に手元へと引き戻す。
「上等だよ。なんで俺なんか狙ってんのかわかんねーけど、かすり傷くらいは覚悟しろよ!」
「く、くふふっ」
小紅アキラの笑い声が漏れる。右手で口を押さえてなお、はっきりと聞こえる楽しそうな声。舐めやがって。
「ああ……タマンねぇな、恭平」
内から溢れる衝動を抑えるかのように、残る左手で自分を抱きしめている。こうしてる間にも、危機感知が悲鳴を上げるかのようにレベルアップしていく。どんだけヤバいんだよこいつは。
『────!』
『────』
さっきからコメントが読み上げられてるけど、言葉の意味を咀嚼する前に右から左に流れていく。今の俺は、目の前のこいつに精一杯だ。
「あ、あ、あ、一回。一回だけなら大丈夫か?いい?いいよな?いくぞ?逝くなよ?」
──消えた。
比喩でもなんでもなく。
一挙手一投足を絶対に見逃すまいと、極限まで集中していた俺の視界から。
音もなく。
「────っ、おおおお!!」
そして、それを理解する前に、頭に鳴り響く危機感知に従って、自分の後ろへと必死で鉈を振るう。
「あはぁ♪さいっこぉ……♡」
「ぶっふぅうううう!!」
右手に衝撃が走り、鉈を握っていた手首が明後日の方へと向く。鉈のおかげか、あいつが手加減したのか、小紅アキラの拳が鉈を弾き脇腹へとめり込んでいく。そのまま俺の体を押し込むように放たれたパンチは十メートル以上離れたダンジョンの土壁へと俺を叩きつける。
俺の負け。それも、圧倒的なほどに。
「げ、ゲホッ、お、おええええ」
血が混じった吐瀉物が、地面へと広がっていく。
痛い、痛い、けど。
「ま、まだ、死んでねーぞ」
「ホント、サイコーだよ恭平」
小紅アキラが、上気した顔で自分の右手から流れる血を舐めながらそう言う。
「物足りねぇけど、これ以上は無理だなぁ……よっと」
ローブから一枚、呪符を剥がして俺の体へと貼り付けてくる。なんだ、これ。暖かい……。
「快呪符って言ってな?死んでなきゃ何とかなるんだよ。便利だぜ?」
「へっ、お前の右手は、治さねーのか?痛いだろ?」
俺の意地の一撃。ギリギリの攻防でわずかに付けた切り傷だ。
「治すなんてそんな勿体ないマネできるかよ。久しぶりのケガだ、満喫したいんだ──チッ、クソどもが。通報しやがったなぁ?」
チラリと小紅アキラが入り口の方を見た後、俺のドローンを睨みつける。そうか、視聴者のみんな、通報してくれてたんだな。一歩遅いよ。
「じゃ、アタシはそろそろ行くわ。次はもっと一緒に遊ぼうな?約束だぜ?」
「嫌だ、って言っても、無駄なんだろ?」
「ああ、無駄だぜ。そうだな……半年。半年待つ。半年以内にアタシに会いに来い。来ないなら、アタシから行くよ。匂いは覚えた、隠れてもダメだからな?ほれ、連絡先。デートのお誘いも受付中だぜ?」
いや、怖えから無理だよ。食われそうだし。言わないけど。
「じゃ、そろそろガチで行くわ。めんどくさい奴が来そうだし。じゃーな、恭平。楽しかったぜ──チュッ」
脇腹の痛みがなくなったものの、疲れから動けない俺の隙をつくかのような素早いキス。俺でなきゃ見逃しちまうぜ。でもってキスしたあと、一瞬で消えた。
マジか、これからあいつに狙われるの?俺、冒険者になってまだ二日目なんですけど……。
「半年か……余命宣告かな?」
『意外と余裕ありそうだぞこいつ』
『見応えヤバかた』
『なんで死神がいたの?』
『まじで死神おったん?』
『今北産業』
『今北産業』
『死神おらんやん』
『死神どこー?』
「なになになに!?」
「佐藤恭平さんですか?」
「どわぁ!!」
なに!?もう!!
……あ、うわぁ。
「剣神さん?」
「はい、月城ユキナと申します。通報を受けてきたのですが……死神はもう?」
「あ、ああ……ついさっき、消えちまったよ」
目の前には、いつの間に現れたのか。昨日ニュースで見た剣神スキルを持つ、女の子。月城ユキナだった。
うおぉ……テレビで見るより、美人だな……。
透き通るような銀髪ロングヘアーに、白のブラウスと濃紺のフレアスカートが非常に清楚だ。どこかアンニュイな表情は……もしかして通報めんどくさかったからか?
『剣神きちゃああああ!!』
『あああああああ!!』
『剣神!剣神!』
『いやこれ伝説やろ!アーカイブ保存しよ!』
『あれこれ、LIVEだけ?』
『は?』
『は?』
『ユキナたん、はぁはぁ』
『通報しました』
『もうしてるんだよなぁ』
『ややこしいからヤメテ?』
「…………死神がいないなら、失礼します。お一人でも?」
「あ、ああ、はい。大丈夫です」
「……そうですか、では──」
「──あ、行っちまったか」
これが、日本で認定されている二人の神スキル持ちと、俺の初めての邂逅だった。
今後の腐れ縁の始まりともいう。
「あ、そういえば今同接何人だ?結構増えてそうだったよな?」
奇跡的に壊れなかったスマホを取り出し、いつものように配信を開くと──
視聴者数:11731人
「は?」




