第15話 救助は共助
「無理に受けるんじゃない!盾術がない奴は避けろ!」
クソッ!だから新人たちの引率なんて、嫌なんだよ!
今も剣士の男が、無理やり切り込んでは返り討ちにあっている。後ろでヒーラーが必死で回復をかけているが、ケガ人が増えるスピードのほうが速い。
位置取りも失敗した。オーク共の集落から出ようとして、どうやら袋小路に誘導されたらしい。裏を取られる恐れはないが、その代わりこいつらを全員倒すまで逃げることもできない。袋のネズミだ。
「せ、先輩っ!オークの中に、ヤバイのがいるっ!」
後輩の拳闘士が悲鳴のような叫び声をあげる。そいつの指差す先──
「クソったれ、オークソルジャーかよ……!」
周りのオークとは一線を画す存在感。革鎧に鉄の大剣を持った化物。こちらを睨みつけながら、オークの波を割って走ってきている。
あー、これ、詰んだかもな……。
「オークソルジャーだっ!盾がない奴は前に立つな!俺が相手する!」
それでも最期まで、こいつらの前から退くつもりはない。俺なりの先輩としての矜持だ。
片手剣とカイトシールド。その二つを打ち合わせながら、大声を上げる。
「来いっ!豚共っ、お前らの家族は俺が食ってやったぞ!次はお前らの番だっ!」
俺の挑発を受けて、こちらへと注意を向けたオークの隙を突くように後輩たちがオークへと切りかかり、数匹のオークが魔石と肉塊へと変わる。
「ブギイイイイイイイ!!」
「ぐうっ!がああああっ!」
オークソルジャーの強烈な振り下ろしを、剣と盾で受け止める。体中を衝撃が走り抜けて、目の前がチカチカする。
思わず崩れそうになる膝に力を入れて、全力で弾き返す。
も、もう一回は、無理だ。
「く、クソ……」
「ブヒィ……」
オークソルジャーが、こちらの限界を悟ったのか嫌らしく口角を上げる。
「や、やだやだ!死にたくない!」
「う、うそだろ……吾妻さん!勝てるよな!?」
勝てるか、だって?そんな方法、あるなら俺が知りたいくらいだよ。
諦観混じりに見上げた空は、相変わらずキレイだ──人?
「──アアアアア!!」
空から人が、降ってきた……?
◇◇◇
「死ねオラアアアアア!!」
「ブギャ──」
袋小路の先、冒険者たちを追い詰めて楽しそうなオークのボスっぽいやつの脳天へと、左手に握ったメイスをめり込ませる。汚い断末魔と共に、目の前のデカブツが魔石へと変わる。
「救助に来ましたっ!」
ボスと対峙していたっぽい正統派剣士な男性へと声をかける。一瞬呆然としていたものの、すぐに気を取り直して返事をしてくれる。
「──すまない!感謝する!お前ら!踏ん張れるな!?」
まだ少し動揺している仲間たちへと檄を飛ばして、何とか立て直そうとしている。ここなら、挟み撃ちにした方が早く終わるかな?
「では、俺はここを突っ切って反対側に行きますので、こいつらを挟み撃ちにしちゃいましょう!」
「っ、は、挟み撃ち?いや、ここで──」
「では!また後で!!オラアアアアア!!」
来た道をとんぼ返り。目の前のオークを右手の鉄の鉈でなます切りにしながら反対側へと抜けていく。さぁ、負けてらんねーぞ!!
「ブギイイィィィ!!」
「オラァ!肉落とせぇ!」
「い、イカれてる……」
剣士さん?聞こえてますよ?
◇◇◇
「お疲れ様でーす」
「お、お疲れ……いや、なんというか……」
どうやらとても疲れてるらしい。まぁかなり押されてたし、俺が来る前から結構な時間戦ってたのかもしれない。
「あ、勝手に倒しててあれなんですけど、分け前とかって半々でもいい感じです?なんかルールとかあるんですかね?」
「わ、分け前、か……いや、その前に義理を通させてくれ」
剣士の人と、そのパーティーメンバーの人たち?が一列に並んでこちらを見ている。やたらとみんな姿勢がいい。
「ありがとう。危ないところを助けてもらって、本当に感謝している。手持ちは少ないが、ダンジョンから出たらきちんと礼をさせてほしい。ほら、お前らも」
「「「ありがとうございますっ!!」」」
「へ?えっと、どういたしまして?」
訳がわからず思わず返事をしてしまう。その俺の声に反応するかのように、下げた頭を元に戻して話を続ける剣士さん。
「それと、分け前だったな」
「あ、はい」
「当然の話だが、全て君のものだ」
「はい?全部、ですか?」
「……?ああ、救助に来てくれたのだし、もちろんだ。そもそも君にとっては、我々が死んだ後に拾うか、死ぬ前に拾うかの違いでしかない。当然だろう?」
何その世界観。めっちゃ地獄じゃん。
「いやいや!さすがにそれは悪いですって!全部俺が倒した訳でもないのに!!」
「いや、そういう訳にはいかない。命を救われるのは彼らにとっても初めてなんだ。きちんとさせないと」
「う、う〜ん……」
どうする?正直お金が欲しいのは本当だけど、この人たちだってお金はいるだろ?それにそもそもこんなに大量のオーク肉なんて持って帰れない──
「あっ……本当に俺が全部もらっていいんですか?」
「ああ、もちろんだ。遠慮なく持っていってくれ」
「じゃあ、その上でお願いがあるんですけど」
◇◇◇
「本当にありがとう。君みたいな人格者に出会えたのは、幸運だった。また今度食事をご馳走させてくれ」
「いえいえ、俺の方も本当に助かりました。では──」
「ああ、それでは。いくぞ、お前ら!」
リーダーの剣士さん──吾妻さんが後輩さんを連れて、隣の受付へと離れていく。こっちの受付の前にはうず高く積まれた肉肉肉の山。それプラス魔石の山が控えめに積まれている。受付の人は見えないが、ちょっとずつ肉が受付の向こうへと運ばれていることから査定をしてくれているっぽい。
ちなみに同じ光景が隣の受付でも行われている。
俺の提案はこうだ。
肉を運ぶのを手伝ってもらう代わりに、その肉の半分を譲る。
損してないかって?俺一人で半分も持てるわけないだろ。常識的に考えてくれよ。ひと塊でざっと数十キロはあるんだぞ。いくら力が強くなっても、物理的に手が足りない。そして目の前には八人の手ぶらの冒険者。答えは一つだろ?
視聴者への説明内容を考えている間に、どうやら査定が終わったらしい。間違えないように用紙を見ながらお姉さんが説明をしてくれる。
「えーっと、オーク肉が十五個、オークソルジャーの肉が一つ。オークの魔石が三十個にオークソルジャーの魔石が一つで、合計六十五万円になります」
「っしゃオラァ!!キタコレぇ!!」
盾の代金取り返したったぞオラァ!!後藤さんコラァ!!
「……あ」
盾使うの忘れてたわ。




