第1話 就職失敗
『佐藤恭平君ね……で、職業は?』
「そ、それが、無いんですよねぇ……あはは」
『じゃあ悪いけど、この話はなしだ。うちが募集してるのは、タンクとヒーラー。職業なしなら、冒険者適性がないんだろう。遊びで申し込まれても迷惑なんだよね』
「いや、スキルはあるんですって!ほんと──クソッ!」
俺の言葉は、真っ暗になったスマホの画面に吸い込まれていった。
やっとの思いでweb面接に持ち込んだクランだったのに……。アットホームパーティーっていう名前は気になってたけど!
十八歳、成人を迎えて義務化されたダンジョン適性検査で出た結果は適性アリ。全人類のおよそ五人に一人と言われている冒険者適性を持っていると判断された俺は、これまた国民の義務として、強制的に冒険者として働くことになった。俺が生まれる前に偉い人が決めたせいだ。
もちろん一人でダンジョン攻略なんて自殺行為である。頑張って深層まで潜れれば大企業なんて目じゃないくらいの収入を得られるものの、そういう人は例外なく大手クランに入っている。
つまり、稼ぎたければ冒険者適性があろうがなかろうが関係ない。自分を売り込んで、入社して、働く。やることは同じなのだが……。
「なんで俺にだけ職業がないんだよ……!自己PRだぞ!?特になしじゃ書類落ちだよ!!あああああ!!」
剣士なら前衛、魔法使いなら後衛、神官なら回復役だし盾使いならタンク。みんな職業を得て冒険者適性アリって言われるんだろ!?
自分のマイナンバーカードをポケットから取り出し、デカデカと表示された文字を改めて確認する。
『冒険者適性アリ』
『職業: 』
『スキル:早熟・遅咲』
何度見ても変わらない空白に顔をしかめて、四畳半の畳へとカードを叩きつける。
このままだと本当にマズい。適性アリだと外でバイトすらできない。安アパートで暮らすのにだって金はかかるんだ。
……一人で入る?そういう人がいるとは聞いたことがある。絶対に死ぬわけじゃない。大丈夫かもしれない。もしかしたら、なんとかなるかも。
「……そう。そうだ。ソロで潜った実績があれば、自己PRになるんじゃないか?」
もしかすると、面白がって雇ってくれる人がいるかもしれない。スマホを握りしめ、口座に入った残高を確認する。
「五万円……か、武器くらいなら買える、よな?」
もう迷ってる時間すら惜しい。幸いダンジョンは近い。歩いて十分とかそこらだったはず。なんてったって、そこらへんにあるからな。下手すりゃコンビニより多いんじゃないか?
部屋の端っこに放り投げたままのリュックを拾い、スマホとマイナンバーカードをジーパンのポケットにねじ込む。
ペットボトルに入った飲みかけの水を飲み干し、部屋を出る。
照りつける太陽に一瞬イラッとしながら、アスファルトで舗装された道を歩く。
俺の横を通り過ぎる車、目の前の交差点にはコンビニに薬局。
俺以外の世界は今日も平穏だ。
「……俺もできればそっち側が良かったよ」
◇◇◇
「いらっしゃいませ〜」
やる気のない店員の声が冒険者協会の売店に響く。こっちは命懸けなんだよ。お前にとっちゃバイトなんだろうけどよ。
棚に整然と並べられた商品を見ていく。
体力ポーション五十万円──却下。
魔力ポーション七十万円──却下。
魔鋼製の片手剣(刃渡り五十センチ)百万円──正直欲しい。
鉄の鉈二万円(初心者オススメ!!)──却……これか?
店員の方を気にしながら鉈の持ち手を握る。握りやすいサイズに削られた、木製の持ち手だ。冷房が効いてるからかちょっとヒンヤリしている。
さすがに素振りはマズいよな。一応、他の商品も見てみるか?
──
────
──────
全滅でした。一番安いのは鉄の鉈だ。それ以外のは全部百万以上。逆立ちしたって買えやしない。
無駄な抵抗はやめて、レジへと鉈を持っていく。
「二万円になりま〜す」
「Bペイで」
ピッ。
これで俺の残高は三万円だ。来月の家賃も払えない。
「あ、お客さん。探索初めてっすか?」
「へ?え、ええ。はい、そうですけど?」
「じゃ、配信用ドローンも要りますよ。持ってないっすよね?」
「……持ってない、です」
「えーっと、今在庫あるのは……こっちのアイテムボックス付きのやつと、最低限の配信機能だけのやつっすね。どっちにします?」
「や、安い方で……」
「んじゃこっちの配信だけのやつっすね。三万円っす」
「B、Bペイ、で……」
ピッ。
「まいどありーっす」
ヤバイヤバイヤバイ!!
残金ゼロだぞ!!
そりゃ財布に多少は入ってるけど、小銭しかない!
絶対に今日、ダンジョンで稼がないと……!
「あ、お客さーん」
「なにぃ!?」
「……いや、ドローン初めてっすよね?ダンジョンでスイッチ入れとけば周りの魔素吸って勝手に配信始めるんで。探索んときは入れっぱなしで、トイレとかの時はちゃんと切っといてくださいね。結構多いんすよクレーム」
ああ、配信ね。犯罪行為の抑止として、義務化されてるんだろ!知ってるよ!忘れてたの!
「……わかりました。ありがとうございます……」
「いえいえ、お客さんボーッとしてるから、心配になっちゃって。頑張ってくださいね〜」
手を振る店員さんを尻目に、ダンジョンの入り口へと近付いていく。駅の改札に似た──というか瓜二つの──機械に、マイナンバーカードをタッチすると、ゲートが開く。
ゲートの奥にある階段を進めば、ダンジョンだ。日本という国が俺に保障している基本的人権が、建前に変わるエリア。これから長い付き合いになるコイツとの初邂逅だった。
◇◇◇
──剣術スキルを獲得しました。
「はぁ?」
素振り一回しただけで?
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