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1-15-2 記憶(2)

ヤバい、このまままだと地面に激突するっ!!


『ココココココ……コメットさんっ!!!!』


“うっ…………全身に何かが流れ込んで…………。”


『駄目だ……ルピナスッ!!!! 舌噛むなよっ!! 旨いエサ食えなくなるぞっ!!!!』


本当に何なんだコイツ……。

ユーリアは片方の触手を天高く上げる。触手の内部から薄っすらと黄色い光が洩れ、周囲に火花がパチパチと散る。待て、真下に向かって何かぶっ放すつもりじゃないだろうなっ!?


「おっ、おい、ぶっ放したって、確かに勢いは殺せるかもしれないが――――」

『……ここに居る奴みーんな鉄。電磁力最大、疑似重力波発動……ッ!!!!』


内臓が熱い。骨格が熱い。人工筋肉が熱い。皮膚の下に隠れる全身のビス一本一本が振動する。コイツ……あのイカの時のやつ、やるんじゃないだろうなっ!?


『持ち上がれこの野郎っ!!!!』


“なっ、何なんですかこれはっ!?”


ユーリアの黄色く光る触手が下方向に向けられる。

同時に上昇気流に煽られるような感覚と、内臓が持ち上がるような感覚が交差し合う。

つーか、下から上がってきた鉄片や砂鉄が雨のように当たってめちゃくちゃ痛い。痛いってレベルじゃない、皮膚が切り裂けるっ!!


“いっ、いけません……物理防護魔法展開っ!!”


鉄片と砂鉄は1メートルほど離れた位置で溜まり、大きな塊となった。

……待て、これがあったんなら、そのまま落下しても良かったんじゃ……。


“いえ、先ほど流れ込んできた膨大な闇属性の魔力のおかげで防護魔法が大幅にパワーアップしたといいますか…………あの、従来の防護魔法なら落下に耐えられるような性能はありません。その代わりに緊急脱出機能がわたくしには備わっているのです。”


「闇属性……あのガラス玉を取り込んだのか――――」


地面まで到達したのか、ゆっくりと地面に足が付いた。


『ごめん、上がってくる砂鉄にまで気が回らなかった。怪我無いか?』

「いや、無いけどさ……。」


お手だの馬鹿犬だの言うこいつが珍しくわたしの心配をしている。素直に礼を言いたいけど……口が動かん。


“この度はまことに、まことに申し訳ありませんでした。”


「いや、こいつが作った闇属性の魔石をガラスで練ったやつの所為だからお前の所為じゃない。」

『おい、落としたあんたが悪いんだろうっ!?』


“あっ、あの、喧嘩なさらないでください……。”


……チッ、そうだな。こんな見知らぬ場所で喧嘩してる場合じゃないな。

だけど本当に見知らぬ場所……か?

なんというか、東の方角に真っ赤な光と、もう一つ、月光のようなものに照らされる場所が見えるが……。わたしたちは確かに西から来たよな?


「ここは何処かまた照らしてみてもいいか?」


“レーダーに掛かる生物がおりませんので問題は無いかと思われます。”


『おい、やめろよ。レーダー範囲外の魔物が来たら困るだろ。』

「それならさっきの滅茶苦茶な雷魔法で寄ってきてるだろ。」


再び小さな風船を作るように光属性の魔力を送り出す。小さく小さく、いつ暴発してもいいように――――


『おいっ!! デカ過ぎるぞっ!!!!』


“なっ、何なんですかそれっ!?”


しくじった。クリティカルが発動して、コハルさんの照明魔法並みに大型化してしまった。クソが。

とりあえず、目の前にあると何も見えないし目がやられるので高く浮かせよう。

元があの大きさなら最初から最大で撃ってたらどうなってたんだろうか。


まるで第二の月のように明るく周囲を照らす。

ここは、コンクリートの建物の上か?


平たいコンクリートの床の端は錆びて朽ちたフェンスで囲まれている。あんまり高くは無いが、ビルの上だろうか。照らされている範囲はかなり広いが朽ちたビル群がどこまでも続いている。

…………一か所気になる所がある。あの建物に付いた傾いたエンブレム、どこかで見たことがあるような。


『あれ…………クレイマーシュ王国の王立研究所マークだ。』

「お前……よく知ってたな。」

『あんまり表立ってはしてなかったけど、大昔あそこと帝国はよく取引してたみたいだからね。色んな噂を聞いたことがある。』


まぁ、魔物を開発しようとしてたとこだからな。帝国と繋がっていてもなんら不思議ではない。

ということはだ。ここはあの研究所の一部、何が埋まっていてもおかしくは無いということだな。

あの魔の樹海に全て埋もれてダンジョン落ちしてしまったかと思ってたが一部はこの世界に……一体誰がこんなところに飛ばしやがったんだ?


“皆さん、わたくしはもう大丈夫です。今すぐにわたくしに跨って下さい。”


『どっ、どうしたの?』


“エネミーレーダーに反応がありました。この直下、一匹、二匹、三匹……どんどん増えていきます。”


「あぁ、眠っていた魔物が、ユーリアの雷魔法に反応して動き出したのか。」

『おいっ、お前のこの光の塊の所為って可能性だってあるだろっ!!!!』


“喧嘩しないでください。わたくしの防護魔法の可能性だってありますし。”


チッ、危険地帯のド真ん中で喧嘩するもんじゃないな。


シャァァアアアアアアアッ!!!!!!


床を突き破って一匹現れやがった。クソッ、頭はライオンで尻尾は蛇で胴体は……何なんだっ!?


“キメイラですか……趣味が悪い。”


グゴォォォオオオオオオッ!!!!!!


今度は頭がカバで尻尾が……サメ?


『うぉあああっ!! 尻尾の先に小さなサメが三匹っ!!!!』

「キメぇな。」

『キメラだけにな。』


ぷきゅーっ!!


…………おいおいおいおい、今度は頭がウサギで尾がサメの頭×五匹かよ。可愛い顔してやがるが、尻尾が厳つすぎる。


『アッ、顔……カワイ――――』


プギャァァァァァッ!!!!!!


『アッ、顔、こっわ。』


愛くるしい顔は最初だけ。こっちを凝視するように目を細めた途端、皺くちゃで鋭い牙むき出しになり威嚇し始める。やっぱりウサギは……碌でもねぇ。


“とんだクリーチャーハザードです。さっさと飛んで逃げましょうっ!!”


再び棒で浮遊し、急いであの真っ赤に燃え盛る謎の場所に飛んだ。心なしか、周りの空気が薄っすら光ってるように感じた。


◇◇◇


「あの爺さん、何してんだ?」


“シッ、見つかるよ。”


森の中に入り、大木の周りで二人で何かしている。


「では嬢ちゃん、この木に触れてごらん。」

「うん。」


“あのノアちゃんがルピナスちゃん以外の言う事を聞いてる……。なんてことなの……。”


プラムがノアと呼ぶ子が大木に手を触れると、木の表面に基板の裏のような模様が生じ、電流が流れるように緑色の光の筋が木全体に広がる。

木に付いた梨らしき実は電球を灯すように淡く輝き、今度は梨から木の中心部に向けて白い光の筋を返す。光っていた梨は徐々に暗くなり、消え、実も茶色く変色しやせ細って次から次へと地面に落ちた。


「ふぉっふぉ。ナシは惜しいがこれで…………愛しきエーファには代えられん。」


“エーファ? ……エーファって……………?”


「エーファよ、お主はあの忌々しいアネモの実験生物で終わってはならぬ。お主は生を求め、広大な世界を求め、一人でよく抜け出しておったの。王族である身のワシとよく旅をしておったの。お主は我が人生にも光を齎した。今度はワシがお主に光を齎そうぞ。」


アネモ…………。エーファという名は確か……イヴのデーツ語だったか。ということは、やはりあのエーテルランドのAE社のことか……。

シーフ時代の時にAE社について調査する依頼が来たことで詳細を知り、アサシン時代にはシーフ時代では知り得なかった、人工生命体の製造技術も持っているという情報を、回収対象であった帝国に逃れてきた元従業員から聞き出したことある。

おそらく、エーファってやつはその中の一体か。オルビスでも大概なのに、人工生命体なんぞ……あいつ等……。


“あの……それって……?”


「ふむ、あとは気長に待つだけかの。」


木の表面の光の筋は消え、ノアはふらついて膝から崩れ落ちた。


“ノアちゃんっ!!!!”


「待てっ!!」

「ふぬ、誰かおるようじゃの。」


チッ、気付かれた。プラムに仕掛けたブツの魔力からして、この爺さんはとんでもねぇヤツだ。下手したら廃人にされかねん。だが……。


「おい、爺さん。その女はどうした?」


“ノアちゃんに何したのっ!!?”


「馬鹿、お前は引っ込んでろ。」

「フォッフォッフォッ。お主等は一部始終を見ていたようじゃな。」

「さぁな。来た頃には木に手を付けてたからな。だが、何で木に手を付けただけで倒れるんだ?」

「ふぬ。嬢ちゃんは大丈夫じゃ。一時的に魔力を使い果たしただけのこと。直回復するじゃろうて。」


“ノアちゃんっ!! 痛いっ!!!!”


プラムは勢いよく飛んで近づこうとした時、見えない何かに衝突してそのまま地面に落ちた。あの工場周りに張ってあるような防護魔法か。


「すまぬが、今から何人たりともこの木には近づけん。なぁに、直ぐにでも目を覚まして立ち上がるじゃろうて。」

「…………う…………ん…………。」

「おぉ、目を覚ましたな。元気な子じゃ。すまぬな、治癒魔法は専門外じゃからの、ほれ、自力で立てるか?」


爺さんはノアに手を差し伸べようとするも、無表情で手の甲を叩かれた。


「ふむ、もう解けてしまったのか。まぁ、その方がこの子らしくていい。姿かたちはそっくりじゃが、やはり中身はエーファではないの。」


ノアは大きく背伸びをして立ち上がり、無表情でじっとこっちを見ている。アイビーに負けねぇぐらい可愛い顔つきしてやがるが……この表情が平常なのか……?


“あぁ、ノアちゃん、良かった。”


プラムも自力で羽を広げ、ふらつきながらノアの頭の上に乗った。爺さんの手をナチュラルに叩くノアが拒否しない感じ、お前の定位置はそこなのか?


「さて、ワシも撤収するかの。」

「待て、お前は一体何をしていたんだ?」

「長年探し求めた条件にぴったり当てはまるこの木、生み出そうとしておるのじゃ。」

「…………一体何をだ?」

「…………ふむ、思い出してしまう可能性もあるし、あんまり言いたくないのじゃが、ここまでは言ってえぇかの。オルビスじゃ。」


“ちょっ、あのオーパーツをこれでっ!?”


オルビスって言えば、例の人に最も近い機械だろ?

世界中の技術者や研究者がこぞって再現しようにも匙を投げた至高の機械人形だろ?


「おい、待てよ、それをどうやってこんな木から作るんだ?」

「ふーむ。気になるのなら、極東の大陸のゼッペルという地を調べるがよい。あの場所にはかつて世界樹が存在した。世界樹は世界各地に何本かあったが、あれは特別じゃった。あの木の種類は月桂樹。これは梨の木じゃが、何より光と闇で祝福されておる。見事なバランスでな。あとはワシが持つ生命を司る緑魔法と体を司る土魔法を加えれば完成、そして今に至るというわけじゃ。」


簡単にさらっと言ったが、本腰入れてやっても誰も掴めないものだったやつだぞ。こいつ……どれだけの年月、探し求めたんだ?


“……お爺ちゃん、それで本当にやるつもりなの?”


「もう引き下がれんぞ。というわけで、お主等の記憶を消すかの。」


クッ、やっぱり気やがった。クソッ、どうやって回避すりゃいいんだっ!?


「メモリー……デリート。」

「やっべぇ方が気やがったっ!!!!」


“きゃっ……ノアちゃんっ!?”


「うるさい。」

「ぐぬふぉっ!」


どうしていいか分からず、防御姿勢を取ろうとした時、ノアは左手の拳で爺さんの顔面をぶん殴っていた。指先に出ていた灰色の光は破裂し、一本の白い歯と鼻から出た一筋の血を飛ばして地面に転げ落ちた。


“の……ノアちゃん、やりすぎよ……。”


……ノア……てめぇ、爺さん相手に歯飛ばすぐらいぶん殴るなよ。いや、おかげで助かったが。


「ぐぬぬぬぬぬ……お転婆が過ぎるの……。いや、エーファも同じだったか。」

「おい、爺さん。てめぇ、メモリーデリートを人間に向けたらどうなるか分かってやったのか?」

「……まぁ、廃人一直線じゃの。」

「てめぇ。歯ぁ食いしばれ。」


今度はアタシの拳で殴ってやろうかと思ったが相手は年寄り、吐き出しかけた怒りを飲み込み抑え込む。


「冗談じゃ。メモリーデリートはワシには使えん。イレースでも発動までに時間が掛かってしまう。からかってやろうと思ただけじゃ。」


何でこの状況で人様をからかおうとするんだコイツは。というかイレースでも同じだろ。もう一本ぐらい歯飛ばしてやろうか。


「仕方がない。嬢ちゃんに殴られたついでにワシの魔力をほぼ全部吸収されてしもうたし、何も出来ん。時空魔法で抜けた歯を再生しなければならんからの。じゃが、今聞いた話は絶対に喋るんじゃないぞ。絶対じゃぞ。」


爺さんは腰を叩きながら集落の方へ戻って行った。

絶対に喋るなって、あのクソムシが居るんだから無理だろ。クソムシもあのノリだと絶対に口が軽いし喋り散らかしそうだな。

……しかし、時空魔法にそんな使い方があるとはな。あと、ノア、てめぇ、殴っただけで人様の魔力を吸い取れるのかお前は。


“パロマちゃん、ごめんね。ノアちゃんを見つけてくれてありがとう。”


「あぁ、別に構わないが……。」


余計な時間を使っちまったが、別に嫌な感じは無い。

ノアはじっとこっちを見ている。見事に無表情だが何か言いたそうな目だな。


「あぁ、どうした?」

「ノアだよ。」

「あっ、あぁ。アタシはパロマだ。」


ノアは背中に六本の羽を生やし、じっとアタシを見つめる。立ち位置を替えても顔や体の向きを変え、ずっとこっちを見ている。


そういえば、この木の周りに防護魔法が施されて――――


“パロマちゃん、前っ!”


視線を前に戻すと、無表情のノアは左手を握りしめ、後ろに引いていた。

ヤベッ、こいつ、まさか……っ!!


間一髪のところで拳を躱す。拳はアタシの右サイドテールを掠り、同時にガラスの割れるような音が発せられた。


“防護魔法が……綺麗に割れちゃった……。”


「……………おい、危ねぇだろ……?」


ノアは腕を引き、あれだけ無表情を貫いていたのが微笑んだ。お前もからかってんのか?

困惑するこっちのことなんぞお構いなしに宙に浮く。そしてアタシを見下ろして手をこっちに伸ばす。

…………アタシも飛べってか。


試しにアタシも四本の羽を出す。同時にノアは飛び、木の周りを舞って木の頂上で静止した。そしてもう一度見下ろす。


「…………チッ。プラム、行くぞ。」


“うっ、うんっ!”


アタシが浮くとノアは森の外へ飛ぶ。

どこへ向かうのか知らないが、西の方角へ飛んで行く。


「おい、どこへ行くんだっ!?」


静止してそう叫ぶと、ノアも静止してこっちを向く。

どこへ行くのか知らねぇがアタシも来いってか。クソッ、こんなことしてる暇なんてないが…………仕方ねぇな。あの感じだと一人にしてはおけないし、付いていくか。



結構な速度で飛んだが、もうあのキメラどもは付いてこないだろうな……?


“何故だか分かりませんが、時速300キロを超えて出せるようになったみたいです。”


「……なぁ、三分の一だから100キロの風圧が掛かるんだろ?」


慣れてしまったからどうともなかったが、ユーリアは再び気絶していた。加速によるGに負けたか。


“防護魔法を出しておけば良かったですね。今なら形も自由に変えられますし、流線形なら支障を来しませんし……。”


もう少し早く気付くべきだったな。まぁ、いいけど。


「この地形、見たことがあるな。あのマギサ草で覆われた高い丘とそこにある四角い大穴……。」


“あれ全部マギサ草ですか。あんな指定有害植物がこんなに……。ですがこの程度で済んでる感じは、この地は余程栄養も含有魔力量も無いのですね。”


「ゴミで覆われた地だからな。」


“そうですか……。”


「もう少し南東の、あの光差す場所に寄れるか? それなら確信が持てる。」


“了解しました…………ですが、あの、エネミーレーダーに青い玉が三つ確認できます。”


「誰か地上に居るのか?」


“いえ、その…………凄まじい速度で――――”


「ルピィちゃーんっ!!!!」


聞き覚えのある声が――――


「うわっ!!!!」

「ルピィちゃんっ!!!!」


まさに凄まじい速度でノアがぶっ飛んできた。


“衝撃を検知。緊急バランスモード移行、スタビライズ強化三段発動っ!!”


「うわうわうわうわうわ……。」

「あはははっ、ルピィちゃんおもしろいーっ!!」


ノアが横から物凄い勢いでぶつかってきた。棒はバランスを取ったつもりか、わたしは勢いよく左右に振れ、鉄の内臓がミックスされる。脳震盪にもなりそう。ノアも指さして笑ってんじゃないぞ。


“通常モードへ移行。危なかったです。”


いや、危なかったじゃねーよ。なんてクソみたいな機能付いてんだよ。うっ……吐きそう。


“ルピナスちゃん久しぶりー。”


「プラムも居るのかよ。おい、薬屋から出すなって言ったろ?」


“ごめん、ちょっと色々あってさ。あと、パロマちゃんも一緒に居るよ。”


「誰だ、パロマって?」

「あっ……アタシだが……。」


ノアに似た羽を背中に生やし、宙に浮いていた。


「あっ、えーっと……わたしは……。」

「あぁ、あんたはルピナスだな。こいつに聞いてる。つーか、このノアって子、さっきまで表情がほとんど無かったのに急に表情を見せ始めたな。どういうことだ?」

「どういうことだと言われてもな……。」


ノアは思いっきり抱き着く。


“ノアちゃんはね、ルピナスちゃんが大好きなのよ。”


「大好き……ねぇ……。まぁいい、おいプラム、ここで終わりならもう戻っていいか?」


“うん。ルピナスちゃんと引っ付いたら、もうキューブパズル以外に興味を示さなくなるからいい。”


「キューブパズル…………じゃあ、戻るな。ルピナス、お前そいつのことしっかり見てろよ?」


しっかり見てろって……本当に何があったんだ?

パロマは月明かりが照らす方へ飛び去った。というか、コイツがそっちから来たってことはここは……。


「プラム、ここは教会の直ぐ近くか?」


“うん。目と鼻の先。というか、どこ飛び回ってたの?”

“あの燃える航空機から来た飛ぶアンデッドに追いかけまわされて東の方角へ飛んでいたのです。”

“…………棒が喋ってる。”

“あっ、わたくしは箒型デバイス、コメット8000と申します。”

“こーんな細いデバイスがあるんだ……どこに脳みそ入ってるんだろ。いや、それよりも、東の方へ飛んでてどうしてここに?”

“いえ、東の方角へある程度飛んだとき、不思議な現象が起こりまして、どうも西の端にワープしてしまったようなのです。”


果て同士を繋ぐワープ……もしやルナクローラーならどういうことか知っているかも。


“ルナクローラーって、ローリエさんのことよね?”


「あぁ。ヤツなら、この世界中を飛び回ってるだろうから知ってるかもしれない。それよりも、一周回って教会まで戻ってきたのならもう一度あの航空機の墜落地点に戻ろう。もう無駄かもしれないが、コメットのエネミーレーダーで一度スキャンしてみた方がいい。」


“そうですね。”

“あの、あたしは火にめっちゃくちゃ弱いから、パロマちゃんかコハルちゃんのところに戻ってていい?”


「あぁ、無理するなよ。」


プラムも羽をひらひらと羽ばたかせながら飛んで行った。

よしっ、じゃあ行くか……と思ったがノアはどうしようか。


◇◇◇◇◇


「うーっ…………いったーい……。」


……テルミナちゃん、一体何したら、こんな瓦礫の山に埋もれるの?

出てるの足だけだし……地面に付いた二本の深い轍掘れからして、あの速度で走ってて停まり切れず誰かさんの家にドカーン……って感じ……かな。

戦闘の時はそんなこと無かったでしょうに……。ところでこの家……まぁ、後ね。


「あの、今すぐに瓦礫を退かしますねっ!!」

「この声はコハルさまっ!! う~ん……力が漲ってくるぅ~っ!!!!」


声だけでもこの効果。神と熱狂的な信者みたいだわ。怖ッ。


「てやぁーっ!!!!」

「わぁっ!!」


コハルちゃんに瓦礫が当たろうがお構いなく崩れた家屋をぶっ飛ばす。

瓦礫は周囲の家々に大穴を開け、跡形もなく吹き飛んだ。中には両手を上に向け、足を広げて立ち、天を仰ぐテルミナちゃんの姿が。


「ふっかーつっ!!!!」

「うふふっ、ふっかーつ、ですねっ!」


…………あら、この気配……。


「あぁっ!!!! せっかくのメルのバッグがぼろっぼろっ!!!!」

「あっ、あの、バッグに指を触れてもいいでしょうか?」

「コハルさまっ!! 光栄ですっ!!!!」


“あー、あの、わたし、もうそろそろ見回りに行きたいから、テルミナちゃん、コハルちゃんを頼むわね。コハルちゃんも、あのトンデモ照明魔法でアンデッドはイチコロだから、みんなが集まってる教会に着いたら、可能な限り展開しててね。”


「クソムシ、まかせてっ!!」

「ク……いえ、ケプリさま、お言葉通りに。」


今なんかコハルちゃんまでクソムシって言いかけたような。いいえ、テルミナちゃんに釣られたのね。うん。


さて、あの子が教会にやってきたわね。ちょっと一声掛けようかしら。それに……コハルちゃん込みで対面させるのは危ういしね。


◇◇◇


「纏めて掛かって来やがれっ!!!! ぅおらぁっ!!!!」


……あいつが、あの老い耄れ筋肉ダルマがアンデッド相手に暴れてやがる。あんなクソデカい斧に、色からして光属性か何かをエンチャしてぶん回して、よくふらつきもせず立ってられるもんだな……。

ウチの筋肉ダルマどもでは到底無理な芸当だな。あんなのに目付けられたら一発で壊滅だ……。


“ねぇ、あなた。戦わないの?”


「うぉわっ!! クソムシてめぇ、こんな時に羽音消して近づくんじゃねぇっ!!」


“あら、ごめんなさいね。それよりも、ほら、集落の連中ったら、あれだけ居て戦ってるのはジョンさんだけ。一部の元戦士や元魔導士たちも抵抗こそしてるけど、あとはみーんな安全なところに引っ込んでるわ。まぁ、光属性が使えるのはジョンさんだけだけど。”


「そりゃ、仕方ねぇだろ。非戦闘員や腕に自信の無いヤツに無理させるのは酷だろうさ。」


当然だが、みんな自分の命が大事なんだ。それに、あのクソジジィに拉致されて来たやつや、何等かが原因で来てしまったやつの集まり、そら、精神も相当参ってるだろ。碌に飲み食い出来るものも無いんだから体力的にもな。

こんな地に放り込まれて、まだ戦えるほどの強靭な精神力の持ち主なんて、ごく一部だ。たとえ、英雄と称えられる凄まじい能力を持った歴戦の猛者だとしても、こんな所じゃネズミ同然だな。


……本当に、あのジョンとかいう筋肉ダルマ、一体ナニモンなんだ……?


“……ウフフッ。”


「何だテメェ、何微笑んでやがるんだ?」


“いいえ、口は悪いけどよく出来た子ねぇって。”


うっせぇわ……。


“それよりも、あなたは戦わないの? 今だったら直ぐにでも英雄になれるわよ。”


「はぁ? 名声なんて要らねぇよ。なーんの役にも立たねぇ。足枷になることだってある。」


それにこんな狭っ苦しい集落の英雄なんて、どんな井の中のクソガエルだよ。恥ずかしい。


「……つーか、アタシは風属性と時空属性しか使えんぞ。」


“いいんじゃない? 停止魔法でアンデッド全部停めてしまえば随分と楽になるわよ。集落の人々の非戦闘員のレベルアップだって出来るしね。”


「お前、魔力欠乏に陥れてアタシをスクラップにでもする気か?」


“あなたのその小さい華奢な体、どれだけの金属があるってのよ。潰して屑屋に持ってっても100エルぐらいにしかならないわ。”


……チッ、このクソムシが。てめぇはその辺のスクラップでも転がしてろ。


“あら、冗談よ。あなたの規格外の魔力、わたしを超える時空属性、あなたね、わたしの弟子に――――”


クソッ、なんであんな虫野郎に構わなければならんのだ。時間の無駄だ。

…………だが、クソムシの言う通り、あれだけの巨大なゴーレムを、それも群体のような動きをしていたヤツを停めた……アタシはアタシで……よく分かんねぇな。


「飛ぶアンデッドまで居やがるのかっ!? しゃらくせぇな、全員落ちやがれっ!!!!」


“あっ、マズい。パロマちゃーん、離れてっ!!!!”


クソムシの叫ぶ声が聞こえたその時、筋肉ダルマの体が、視界が揺ら――――


「―――――っ!!!?」


体が地面に引っ張られ、全身を地面に叩きつけられた。


……何が起こったのか分からない。だが、地面は非常に柔らかく、何とか多少の傷程度で済んだ。そうでなければオイルまき散らしてグシャってただろうな。

…………なんだこの土、あの教会の庭の畑か。耕されてるのか。つか、くせぇな。これは牛糞……いや、人糞でも混ざってるのか……?


「きったねぇっ!!!!」


“だっ、大丈夫?”


ペッ!!

柔らかかったのはいいが、肥料混ざりまくってんじゃねーかっ!!!!


“…………あら、コハルちゃんのスペシャルミックス肥料が濃いところに叩きつけられたのね。”


「なっ、なんだそのスペシャルミックス肥料ってやつはっ!?」


“……あっ、あぁ……聞かない方がいいわ。ううん、別に生う〇ちじゃないの。錬金済みで物質的には別だから大丈夫よ。”


「あぁクソッ!! 何の糞を錬金したってんだよっ!!」


畜生が……。でもコハルか……ここはヤツの畑か?


“偶然にもあなたの目的の人に助けられたってことね。”


「あぁ? 今お前何て……?」

「うぉっしゃぁっ!! 飛び虫どもを叩き落したぜっ!!」


アタシは飛び虫の中の一匹か……。


“援護する?”


「…………あの勢いなら大丈夫だろ。目立つ真似はしたくはないし、そもそも糞まみれのアタシじゃ牽制にしかならんだろ。」


“………………? ちょっと見せなさい。”


「あぁ? 何をだ?」


“…………………………やっぱり、重力属性が宿ってる。ランクはGだけど。”


はぁ?

いや、意味分かんねーし。祝福の岩屋とかでの修行で得られるのなら知ってるが、何で勝手に魔法属性が生えてくるんだよ?


“XSランク以上の持ち主からその属性の攻撃を受けると、無属性持ち以外でも稀に得ることがあるの。”


「初耳だがな……。というか、無属性は喰らうだけで得られるのかよ。」


“やったわね。アンデッドには効かないけど、今すぐにでも使い込んでCぐらいまで上げる価値はあるわっ!!”


何で虫野郎がそんなに興奮してんだよ。つーか、クソムシが勝手に鑑定してんじゃねぇわ。


“ジョンさーん。この灰色の子、パロマちゃんが手伝いたいんだってーっ!!”


「おいクソムシ勝手なこと言ってんじゃねぇっ!!!! アタシは手伝わねぇぞっ!!!!」

「おう、何だ、子供じゃねぇか。だが雰囲気があの金髪娘と似てやがるな。良いぜ、技を見せてみろ。」


クッ、逃げようにも筋肉ダルマに重力魔法で落とされるか、クソムシに延々とつき纏われるやつか……。時間、ねぇのに……。


“時間停止魔法でみーんな停めれば逃げられたのに。わたしとジョンさんにはちょっとだけしか効かないけどね。”


…………チッ。ファストトラベルを使うにしても、あれは周囲に敵が、正確にはエネミーサーチで見れる範囲内に敵性の者が居ないことが条件だから無理。ワープ移動も移動距離は知れてるし、本来必要なクールタイム内に連続使用すると大幅に魔力の消費量が増えてすぐガス欠になる。


仕方ない。そこまで来てるアンデッドの群れの1ウェーブ分だけぶっ飛ばしてずらかるか。


「ふぬ、風属性か。」

「アンデッドに効く属性は持ってねぇぞ。」

「構わん。ワシに力を見せつけろ。」


お前はただ力が見たいだけなのか。生憎だが、そんな強い魔力も筋力も何もない。だが、やるからには手は抜かん。


「粉微塵になれっ!!」


風の渦をイメージし、ただ右から左へ、左から右へ魔力をぶん回す。中の下ぐらいの広範囲基本魔法、竜巻。ただ魔力を込め続け大型化し、敵の群れへ突入させる。粉微塵にしてしまったら増殖して大惨事だ。それだけは避けなければ――――


「ほう、単純ながら凄まじい魔力、ますます滾るな。」


“集中してるとこ申し訳ないんだけど、初級の内の中レベルにある風の刃を交えて粉微塵にしちゃいなさい。”


「馬鹿言え、増殖してしまったら手に負えんぞっ!?」


“粉微塵にしたら、時空魔法の定番、亜空間解放からの、今覚えた重力魔法を合わせてブラックホールを発生させなさい。”


「はぁぁぁ? むっちゃくちゃ言うんじゃねぇっ!!!!」

「おっ、これか?」


何かさっきよりも膨れ上がったような気がする筋肉ダルマは、指を迫りくるアンデッドの壁の方に向ける。


「ふんぬっ!!!!」


アンデッドの壁の上に漆黒の球体が生じ、同時に凄まじいほどの風が吹き荒れた。


“ジョンさんがやったら何もかも吸い込んじゃうわよ。”


「細かい操作は苦手なんだよな。ハッハッハッハッハッ!!!!」


大笑いしてる暇か。教会こそ吹き飛ぶことは無いが、せっかく耕された土は砂嵐になるわ、飛ばされそうになってるやつはいるわで大惨事だぞっ!!


“もう2隊列分は吸い込んだから止めるわね。”


クソムシの腹部から水晶玉のようなものが現れ、それは薄っすらと紫色に輝いた。


“はい、魔力回収。”


「おいおい、渾身のブラックホールが消えちまったぜ。」


水晶玉はより濃い紫色になり、再び腹の中へ消えていった。


“おいしくいただきましたっ! というわけで、あれと同じことをしてみなさい。”


「何度も言わせんなっ!!」


っつっても、クソムシと筋肉ダルマは期待の眼差しを向ける。逃げられねぇ。

時間を停めても逃げられねぇ。絶対に。いや、今ならファストトラベルで――――


“敵、かなり減ったけどファストトラベル禁止ね。”


クソッ、このクソムシ、何しやがったっ!?

ファストトラベルしようにもかき消されるっ!!


“しかし不思議な力によってかき消されたっ! 古典よねぇ。後で時空属性の神髄、転送封印の神術を教えてあげる。”


退路を断たれた。

この野郎……チッ、ままよっ!!



うっ……物凄い熱風だ。これに近づくのは無理じゃないか?


“何度かアプローチをかけていますが、どの方向からも物凄い熱風で、せめて風でも吹いていれば……。少し離れて休憩しましょう。”


風ならノアだが……威力をしくじると航空機を破壊しかねん。アンデッドの体をも損壊してしまったら増えてしまう。

一旦距離を取り、休憩する。暑すぎる。水分が欲しい……。

しかし、さっき遥か後方で発せられたやつはなんだったんだろうか。


“あれは重力属性と何かですね。小型のブラックホールとでもいいましょうか、とてつもない手練れがあの中にいるようです。敵か、味方かは分かりませんが。”


…………味方であればジョンさんだろうな。一体何者なんだろう。


『ん…………えっ? あっつぅっ!!!!!』


やっと目ぇ覚ましたのか。


“あの航空機の中、もう真っ赤で何が何やら。”


『そりゃ……燃えてるんだし……。』

「寝ぼけてんな。エネミーレーダーだ。」

『えっ、コメットさんそんなことも出来るのっ!?』


だから寝ぼけんなっつーの。


“……いけません。敵襲ですっ!!!!”


つい数秒前まで全く居なかったところに、さっきのアンデッドコウモリが集まってきていた。まさか、宙を舞う塵からも発生してやがるのかっ!?


“まさかかもしれません。とりあえず、目の前のアンデッドを蹴散らしましょうっ!!”


『レールガンで粉微塵にしてやるっ!!』

「待て、こいつには光魔法しか効かないっ!!」


こいつは何処までも追ってくる。退路なんてもう無い。わたしの光魔法、目の前の敵をぶち抜けっ!!


『うぉあっ!!!! ちょっ!! お前何を……。あっ、ノアちゃんっ!! 目瞑ってっ!!!!』


“いけませんっ!! 直視したら目が潰れますっ!!”


クッソが、レーザーで纏めて焼き殺すかと思ったらクリティカルしやがったっ!!!!

光の彼方に薄っすらとしか見えないが、とんでもなく太いレーザーが指先から出続けている。そして、止まらない。止まらねぇ。マジで。


『ちょいちょいちょいちょいちょいちょい、すっごい圧なんだけど、風圧じゃない何かの圧を感じるんだけどっ!!?』


“はっ、反動で後ろに進んでますっ!!”


クソ野郎……光魔法の癖に水をぶっ放したように反動があるから動かすにも……その先に居る人か何か、絶対に当たらないでくれよ……。

右手を支える左手の腕の無いような人工筋肉で動かせない右腕を押し上げる。何とか上へ上へ、何もない空に向けて、重たい重たい雲へ向けて、ぶっ放――――


“あんまり上に向けると今度はこっちのバランスが取れませんっ!!!!”


『バカかっ!!!? ロケットブースターを斜め上に向けたら、それこそ仰け反ってそのまま地面に突っ込むか半回転かするぞっ!!!?』


クソ野郎、今更どうすることも……出来ねぇっ!!


“いっ、いえ、わたくしの底力で、おっ、押し返してみせますっ!!!!”


『どっ、どうするの?』


“わたくしは真横以外や上下左右以外に先端を真上に向けて飛び、成層圏を突破することも、真下に向けて飛び、敵軍基地へ特攻することも可能です。”


このエーテルランド製飛行デバイス、物騒過ぎないか?


『……軍事企業だし、もしかして兵器も兼ねてる?』


“最大出力で押し上げつつ位置を修正しますっ!!”


最大出力って、この極太レーザーはいつ消滅するか分からんのだが……。

途中で消えてしまうと、一気にバランスを崩して真っ逆さまな気もする。


棒は振動しつつゆっくりゆっくりと正面へ向かせようとする。そもそも、このデバイスのエネルギー残量は大丈夫なのだろうか。


“こっ、根性ですっ!!!!”


『うわわわわ…………。』


“…………くっ、動きませ…………”


「ダメかっ!!!!」


“――――ノアさまっ!?”


「ノアがやるーっ!!」


ノアの腕が体から離れ、声が響く。このレーザーの光で何が起こったか分からないが、徐々に持ち上がって何とか正面を向いた。


『うわわわ……ノアちゃん……すごいっ!!』


“ノアさまッ!! 維持ですっ!! このまま維持してくださいっ!!”


ノアがコメットを支えてくれているのか。よっ、よしっ、このタイミングで――――


「おわっ!!!!」

『ちょっ、何でこのタイミングで縮んで来てんのっ!!!?』


“いけませんっ!! ノアさま、力をお緩め下さいっ!! このままでは真下を向いて――――”


細くなりつつあるレーザーは航空機に直撃、周囲に居たアンデッドらしき物体は蒸発し縮んでいく。何とか前のめりで耐えている。今の内に横に振って発生源の全てを浄化するぞっ!!


“なっ、何とか位置の再修正が出来そうですっ!!”


もし要救助者が居たら大変だが、もう炎上して時間も経ってるし、もう燃えていない箇所は存在しないほどに炎が包み込んでしまっている。ここはもう、アンデッドの殲滅に切り替えて消える前に航空機全体をレーザーで焼き払いたい。だが……クソッ、間に合うか……。


“随分と敵性マーカーが減りました…………えっ?”


『どうかしたの?』


“赤いマーカーの中に一つ、青いマーカーがあります。”


『ちょっ、話の流れからして赤いマーカーが敵なら――――』


クソッ、一人生存者が居やがったっ!!!!



◇◇◇◇


あー…………あたいってやることあるんだよね。でも、何だか、今は仰向けで空を眺めていたい気分。


「ぐごーっ!! んがっ…………ぐぅ~…………すぴぃ~……」


……メーヴェちゃん、こんなところでぐーすかぴーすか、すっごく肝の据わった子ねぇ。さっきの弱気な発言はなんだったのかしらって感じ。寝相も悪いから回避しても直ぐに次の手が飛んでくるし、鋼の肉体のあたいなら大丈夫だけど、この子、手骨折するわよ。


だけど、見た目は人魚と見間違うぐらいに美しいのに、すんごく勿体ないわ。ほんと。まぁ、寝顔は可愛いけど。

あたいもそんな体が欲しかったわねぇ。ちぇっ。


……なにあれ。


「ちょっ!!!!」

「ぐがっ…………んぁあ? 何事だ?」


何だか分からないけど、もんのすごく光る謎の棒がここから少しだけ横に照射されてるんだけどっ!?

いや、ほんと、なに? どこぞの最新型兵器ッ!?


「うわぁ、ありゃエーテルランドが隠し持ってる衛星兵器じゃん。アハハッ、ついに地上に落ちてきたかぁ。あぶねぇな。」

「いやいやいやいや、笑いごとじゃない。ってか、あたいは戦闘用だから光には強いけど、あなたは生身よねっ!? 目ぇ潰れるわよっ!!」

「ううん、あたいは人間じゃないよ。ガイノイドだよ、作り物。」


えっ…………待って、あなた作り物なの? 

世界最高の人形師でもびっくりの造形。すんごくよく出来てる。ってか、パロマちゃん並みによく出来てるわ。ルピナスちゃんはオルビスだから規格外だけど、それに匹敵してるわ。えっ、本当に?


「この皮膚の下はガッチガチの鉄の塊だよ。ほら、胸の皮の下も金属製だから、表面しか弾力ないぜ。」


あっ、本当だ。なるほど、だからさっきの小型の大砲みたいなやつも片手で撃てたのねぇ。


…………。


「いや、今はそうじゃないっ!! 逃げるよっ!!」

「あれ、上がり始めたな。」


極太レーザービームは徐々に上へ上へと持ち上がる。このパターン、絶対どこかで支えを失って暴れるパターンだ。照射された先はどうなってるか分からないけど、とにかく反対方向に逃げるしかないわっ!!


「この船お気に入りなんだけどなぁ。」

「船なんて後で幾らでも作ってあげるわよっ!!!!」


嘘。船大工どころか単なる大工仕事すらしたことがない。


「約束だぜっ!!」


速攻でバレるとは思ったけど、思った通り素直だなぁ……。転がっていた大きな銃を手に取り腰のホルスターに差し込んだ。


「おらぁぁぁあああっ!! 逃げるぜっ!!」


思いっきり船の中に向かって走り出した。船じゃなくて遊戯施設なのでそっちに出口があるから間違ってはない。だけど、そんな悠長なこと……いや、メーヴェちゃんにはパロマちゃんやノアちゃんのような機能は無いし、白いあの子やコハルちゃんやあたいみたいな頑丈さも無いしで、要は一般人なんだ。

そういえば、ルピナスちゃんは一般人階級ね。普通って、少ないなぁ。


「何だ? 逃げないのか?」

「いや、あたいに掴まってよ。飛び降りるから。」

「何でだよ?」

「いや、間に合わないし。ってか、こんな会話してる暇ないかも。」


極太レーザービームは相変わらず斜め上を向いてブルブルしている。その内、支えがパッキーンして……。


「あたいだけ先逃げていいんなら、アレやってもいいか?」

「アレ?」


メーヴェちゃんは船首の先に立ち、両手を前に向け、両手に水色のオーラを纏ったあと、両手を広げて全身で十字を作る。


「水よ、来い。」

「えっ……うっぷっ!! んぐんぐーっ!!!!」


大量の水が押し寄せ、この船の周囲は疎か、遊園地全体が水に浸かってるような……って、こんな水も何もない世界で水って、しかも広大なこの世界が水没ってっ!!!!


「息、出来るぞ? だってこれ、水っぽいけど、水じゃないし。あたいの水属性の魔力で疑似的に作った水のようなものさ。」

「えっ、あっ……喋れるし息出来るわ。」


そういえば、あたいに呼吸なんて必要ないの忘れてたわ。水なんてもう相当ぶりよこれ。


「あたいさ、水の中だと自由に泳げるし、無敵なんだ。」


メーヴェちゃんの下半身は薄青いオーラに包まれ、腕と足には水色のヒレのようなものが付いていた。


「じゃあ、先行くな。ほいっと。」


あっという間に高い所まで泳いで行ってしまった。

まるで本当に人魚のように美しく舞い、メインマストの上からこっちをみて手を振る。あたいの跳躍力でも無理よ、あんなとこ。

ほんと……見た目通りの美しさね。泳ぎも声も……。寝たり喋らなければだけど。

…………あたいも離れないと……それよりも、水の中の移動なんてこの体じゃ初めてよ。こっちが不利になっちゃったわ。どう責任取ってくれるのよっ!

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