奴隷商会襲撃事件
べリアルが奴隷商会を襲撃した後の話です。
いつもより少し短めです。
カルディニア帝国の帝都アルガザルムは国中を震撼させる事件が新聞の一面を飾っていた。
〝中規模奴隷商会グラッゾグループの倉庫に謎の襲撃者、すべての奴隷を盗み、元Aランク冒険者二人を含む22人を殺害か!?〟である。
その内容は、昨日未明に、見張り番の交代のために倉庫に来た男性が、外で番をして頭部が激しく破損して死亡していた複数の男性の遺体と魔術士の遺体、そして破壊された重厚な鉄の扉を発見して、公安憲兵及び騎士団に通報が入ったことにより発覚した襲撃事件で、公安憲兵と騎士団が到着し犯罪組織の犯行の可能性があるため周囲即時に一帯を封鎖して、倉庫周辺を調べた、外には頭部が激しく破損した男性(頭部の損傷が酷く個人識別不可)な遺体が4人と激しい頭部の損傷に右腕、両足を激しく損傷した男性1人と同じく頭部が激しく損傷が酷い魔術士の男性と女性の遺体が発見された。
いずれも剣や杖を抜いた形跡があり、ここで侵入者との戦闘が行われたもよう。
そして倉庫の入口の扉は厚さ10cmを越える鉄の扉であるにも関わらず、外側からの衝撃で捲れ上がっていた。
倉庫の中には外と同じく頭部の損傷が激しい男性の遺体5人並んで発見され、扉から1m程のところには従業員と思われる制服を着た男性5人と女性3人のやはり頭部が激しく破損した遺体が見つかり、襲撃者は無抵抗な従業員も手に掛ける非道な人物だと予想される。
そして、倉庫内には、炎魔術による複数の焦げ後や融解後、なにかがぶつかって出来た大きな陥没あとが壁、床が、扉など幾つもあったことから、かなり激しい戦闘が行われた予想される。
そして、炎魔術を使用していたであろう元Aランク冒険者〝炎者〟のオルメナ・トリストス氏が他の遺体同様に頭部が激しく破損していた。遺体の状態からほぼ無抵抗に近接攻撃で一撃だったと予想された。
そして、入口の2m手前には、全身血塗れで身体中の筋肉が裂け所々骨が見えて手足が有らぬ方向に曲がり、やはり頭部が激しく破損した元Aランク冒険者〝剛力〟のデベル・トリストス氏の遺体が発見された。遺体の近くにはデベル氏が愛用していた刃が完全に砕けた大剣も発見されたことと、遺体の損傷状態から壁や床の陥没はデベル氏が強い力で何度も繰り返し、叩きつけられ出来たものではないか公安憲兵が予想している。
そして、奴隷用の檻はすべて不自然に格子が壊れていた。奴隷の遺体は見つからず、それどころかすべての奴隷が居なくなっていた。
公安憲兵は、過激派亜人武装グループ〝黒の王冠〟や世界最大の宗教犯罪組織、邪神崇拝組織〝真なる神〟などの組織犯罪の疑いがあるので、騎士団が帝都全体で検問所が設けられて、今現在帝都への出入りに制限がかかている。
「おいおい・・・マジかよ。〝剛力〟のデベルと〝炎者〟のオルメナが死んだのかよ。Aランク冒険者を結婚を機に電撃引退したとはいえ、あの夫婦なら、よほどの相手じゃない限り遅れは取らないと思うけどな。」
朝刊をカフェでコーヒーを啜りながら情報屋のローブを着た男性は感慨深い表情で読んでいた。
「ん?そう言えば・・・この事件が起きる少し前にグラッゾ商会を紹介した執事の青年、大丈夫だったかね。死亡者のリストにゃあ載ってなったが・・・」
場合によっては鉢合わせたんじゃないかと、少し心配になった。
「俺が紹介した少し後にあんな事件が起きたんだ、勧めた方としちゃあ、ちっとばっか責任感じるよなぁ。」
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「しかし・・・今回の事件はまた、随分と用意周到にやられた感じですね・・・」
紺と赤の海軍風の軍服を着た、公安憲兵の若い男性が壮年の公安憲兵に話しかける。
「用意周到か・・・確かにな。お前は、今回の事件〝黒の王冠〟や〝真なる神〟みたいな犯罪組織がやったと思うか。」
「え?だって。組織犯罪じゃなければ不可能でしょう、元Aランク冒険者と武装した護衛を一方的に殺してかつ、150人もいた奴隷を誰にも気づかれずに連れ去るなんて個人じゃあ不可能でしょう。」
「それはわかっているんだか・・・俺にはこれが何故か個人の犯行に思えてならない。」
「どうしてですか?」
「殺しかたが余りに揃い過ぎてる。確かに世の中にはAランク冒険者を一方的に殺せるような化け物が何人か居ると思うけど、それでもこんな狙い済ましたように一方的に頭部のだけを破壊出来る奴は巨大組織と言えどそう多くはいない。」
「殺し担当と誘拐担当に分かれたんじゃないですか。」
「やっぱりそう思うか。」
「はい。」
倉庫の鉄の扉を潜り外に出る。
「ん。あれは・・・」
港の一角に敷かれたシートの場所には人だかりが出来ていた。
「あぁ・・・あれは被害者の家族だ。」
遺体にすがり泣く老婆や、手を握りしめてたまま崩れ落ちる女性、父と母の無惨な遺体を揺すり泣く少女が見えた。
「あの女の子、元Aランク夫婦の一人娘らしい。この事件で親を二人も無くしてしまって、辛いだろうな・・・」
「先輩・・・一刻も早く犯人が捕まるように僕ら公安憲兵も努力しましょう。」
「そうだな。」
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「どうして・・・どうして私を置いていっちゃたぉぉ―――」
褐色の肌に黒髪ショートカットの紫色の瞳を持つ少女、クオン・トリストスは両親である頭部がない母と身体中がぼろぼろで見る影もない父の嘆き悲しんだ。
(私はただお父さんとお母さんと一緒に暮らせればそれでよかったのに―――)
悲しみの中には、怒りが込み上げる。
(どうしてどうしてどうしてどうしてただそれだけだったのにどうしていきなり奪われなきゃいけないの!!!私たちが何をしたって言うの―――)
そして怒りだけにとどまらず殺した相手への憎しみが芽生える。
(許さない・・・許さない許さない許さない許さない許さないッ―――)
それは殺意へと姿を変えた。
(絶対に見つけ出して惨たらしく殺してやるッ!!!)
少女の瞳にはどす黒く濁った殺意に埋め尽くされていた。
明日の話はリーシェたちが打ち上げをした後の朝からの話です。
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可能な限り返そうと思います。