眷属
17話を6話に持ってきました
その日、彼らは神の奇跡を目の当たりにした。
それはきっと奴隷である彼らにはもう二度と訪れないだろう。
少なくとも、私、クーリ・コクリナそう確信している。
「ママ、おなかすいた。」
一緒の檻に檻に入れられたがまだ幼い娘のアリアがボロボロの巻頭衣の裾を引っ張りながらリースを見上げる。
「もう少しの辛抱よ、朝になったらパンが貰えるからね。」
そう言い聞かせながら、優しく抱き締めて頭を撫でる。
奴隷として捕まってから2週間ほどが経過したが、ここでは1日に一度は必ず食事が支給される。固い黒パンと水だけではあったものの、何とか飢えをしのぐことが出来ていた。
「いやだぁッッ!!ここからだしてくれぇぇッッッ!!!」
「お願いします・・・娘に、娘を返してください。まだ幼い子供なんです。」
「ふざけるなぁぁ、ふざけるなぁぁぁぁ、お前ら絶対ぶっ殺してやる!!」
「おい!!俺の妹は無事なのかぁぁぁ!!おい、答えろよ。クソ野郎ッッ!!」
「私のッッ、私の夫を返してぇぇぇッッ!!!この人殺しぃぃぃぃッッッ!!!」
船に積み込まれてから、この倉庫に運び込まれる間に、周りの檻に入れられた人達はありとあらゆる罵詈雑言が1日中飛び交っていた。
無理もないだろう。クーリたちは、全員が魔大陸にあるグレドルト共和国の国民で1月ほど前にカルディニア帝国が突如侵略してきてあっという間に首都を占領されたらしい、そして占領された首都から帝国軍の人達が次々に村を襲いそこに住まう人達を捕まえて奴隷にしていったらしい。
クーリたちが住む村も襲われ、娘と一緒に家のクローゼットに隠れていたが、すぐに見つかりせめて娘のアリアだけは、と必死に抱き締めて庇っていると兵士達も諦めたのか、クーリとアリアを引き剥がすを辞めて私たち二人に首に枷を嵌め馬車に連れ込まれ、今に至る。
「うるせーぞ。静かにしろ!!」
奴隷商会の従業員らしき男が、騒いでいた人達を順番に棒で殴り黙らせていきました。
「はぁ。なんで俺がこんな仕事をしなけりゃならねぇんだ。」
「しょうがないだろう。こんな仕事でも金払いはいいんだから、手を動かして亜人どもを黙らせろ。」
「へいへい。でもさ、俺らほんとにいるのかよ。」
「奴隷どもの様子をみるやつが必要だろう。逃げ出すかも知れないしな。」
「いやいや。ないでしょう。奴隷には奴隷紋が付いてるし、首の枷は一定以上距離を離れたら爆発するらしいし、仮に外に出れたとしてもこの倉庫に武装した傭兵が5人もいるし、外には傭兵が5人とCランクの魔術士が二人いる。それになにより、元Aランク冒険者の〝剛力〟のでベルトと〝炎者〟のオルメナがいるしな。」
そう言って男は、倉庫の中央にある木箱に座り何かを相談しあっているAランク冒険者の二人をチラッと見た。
「明らかに過剰戦力だろ。」
「最近は、過激派の亜人グループの〝黒の王冠〟の活動が活発になっているからだそうで、元Aランク冒険者の二人もその為に呼ばれたみたいだしな。」
「まじかよ。でも、これだけ厳重なら、襲撃も怖くないな。」
「ああ。余程のことがない限り安心だ。」
「しかし、ここの亜人どもは結構上玉が多いんだなぁ。」
そう言うと、舐め回すような目でたまたま近くにいたリースをみた。
「―――ッ!?」
ゾワゾワッと鳥肌が立ち、咄嗟にアリアを男達に見えないように抱き締めながら、男を睨む。
「おお、怖い怖い。しかし可哀想だなぁ。これからお前らは親子は引き剥がされて、母親のお前は、見た目がいいから娼館に買われそうだなぁ。娘の方は、幼いがまぁ、買い手は着くだろうさ。ペドロリ趣味の貴族さまになぁ~。」
「―――ッこの下衆が。」
アリアに聞こえないように、耳を塞ぎながら有らん限りの憎しみを込めて睨み付けた。
「おい。なんださっきからこのクソ女が。人が親切にテメーらの行き先を教えてやってんのにその態度はよぉ!!」
リースの態度が気に入らず頭にきた男は、棒で殴ろうと振り上げた。
「―――ッ!!」
クーリはアリアを庇うように縮こまる。
「侵入者だ。戦闘準備をしろ。」
木箱に座っていたデベルが立ち上がり、低く告げた。
「え?侵入者って、マジですか?」
クーリを棒で殴ろうとしていた男は手を止めてデベル方を見た。
「そうだ。しかも相当に強い。非戦闘員は下がれ。」
「え?でも、外には、5人の傭兵と魔術士が―――」
「ぐぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ―――」
「あぎゃぁっっぁああぁぁぁぁっ―――」
男の言葉を遮るように外から甲高い悲鳴が聞こえて、直後、ドゴッ―――という音をたてて分厚い鉄の扉が捲れるように吹き飛んだ。
「聞こえなかったの?早く退避しろって言ってんのよ。」
「は、はいッッ―――」
突っ立ったままの男にオルメナにどやされ、男は急いで倉庫の端に退避した。
とりあえず、殴られずにホッとしたクーリは倉庫に入ってきた侵入者の様子をみた。
そこには燕尾服を着た、若い好青年が立っていた。
「まさか・・・助けにきてくれた。」
助けに来てくれた人の可能性が高いと信じ青年の様子をみていると、青年が指を鳴らすと、抜剣した傭兵が一瞬で頭が破裂して死亡した。
「え?今のは何をしたの・・・」
クーリは何をしたのかまるでわからなかったが、少なくとも凄く強いことだけはわかった。
それからその青年は、自身をべリアルと名乗り、元Aランクの冒険者と戦闘を開始したが、それは終始一方的なものだった。
最初は元Aランクの冒険者二人の連携攻撃に一方的にやられていたが、10回ぐらい目から見飽きたとか言って先程まで一方的に喰らっていた剣撃を片手で止めて吹き飛ばすと、炎魔術を放っていたオルメナの前からいきなり消えて後ろに現れたかと思うと、まるで、蝿でも潰すかのようにオルメナ頭部潰し、それに激昂したデベルが筋力強化の魔術を4重に掛けて先程とはうって変わって目にも留まらないすさまじい速さでべリアルべリアルの首を跳ねた。
「ああ・・・あれは、死んだ・・・」
流石にべリアル首が飛ばされた時に終わったと思ったが、あろうことかべリアルの首を跳ねれたにもかかわらず、まるで逆再生するかのように再生してして、捨て身の一撃を放ち瀕死のデベルの頭部を潰した。
「いったい何が・・・起こって・・・」
理解が追いつかず混乱していると。
「さぁ。選択の時だ。」
と言いながら、指を鳴らすと全ての奴隷の檻の鉄格子と首の枷が一斉に砕け散った。
「ママ。くびのが!!」
「そうだね。なくなったね。」
アリアはそう言うと、枷のなくなった首を触って驚いていた。
格子も首の枷も外れたのに皆外に出ようとしないのは、べリアルの先の戦闘をみて、何かを警戒していたからだろう。
それを汲み取ってのことだろうが、べリアルが。
「出たまえ。諸君」
と言うと同時に皆一斉に檻の外に出て解放された歓喜に包また。
「これでかえれるね。」
「そうだね、帰ったらなにしよっか?」
「ママのごはんがたべたい。」
「うんうん。いいよ、一杯作ってあげるからね。」
リースとアリアも外に出て、喜びを分かち合った。
「そうだアリア、ママと一緒にお礼言いにいこう。」
「おれい?」
「そう。助けてくれた、あのお兄さんにお礼をね?」
「うん。おれい、いく。」
そうして、クーリとアリアの親子はべリアルに近づき、頭を下げる。
「あ、あの・・・助けて頂きありがとうございました。」
「ました。」
クーリが礼をするとアリアもそれに習ってチョコンと礼をした
。
が、べリアルから、帰ってきた答えは予想外なものだった。
「君たちは何か勘違いをしているのではないかね?」
「え?」
私は何を言われたのかわからず、目を丸くしてしまった。
助けに来たのではないのなら、いったい何をしに来たのだろうかと。
「私は選択の時間だと言ったはずだ。」
皆に同様が一気に広がった、そして。
「君達には選択肢が二つある。私の元に来て忠実なる駒として働くか。従わずに死ぬか。」
そう言った瞬間、皆が一斉に反発し始めた。
無理もないだろう。やっと解放されたと思ったら、奴隷になるか死かを選べと言われればそりゃ、反発するだろう。
「従わなくてもいいけどねぇ―――」
そう言いながら、指を鳴らそうと構えた。
「こうなりたくはないだろう?」
そのまま指を鳴らすと、どさくさに紛れてこっそり外に出ようとしていた、従業員8人の首が一斉に破裂した。
「ひぃぃぃ―――」
従業員の首を飛ばした時の顔がまるで人を殺すことを生き甲斐にでもしているかのように、口元を大きく歪めて狂気に満ちた笑みを浮かべる、恐るべき存在に恐怖してリースはアリア抱えてしゃがみこんだ。
「さぁ。どうするかねぇ。」
あんなものを見せられた後で、べリアルに命令に従わないと言うものはいるはずもなかった。
「そうか。では、全員私のために働いてもらいましょう。」
そう言って、拍手をすると、いきなり景色が檻に囲まれた薄暗い倉庫から、明るく広い屋敷のに変わった。
「なんだこれ。どうなってやがる・・・」
「幻覚かな?」
「なんの魔術なんだ?」
突然変わった景色に皆驚いていた。
「さて、諸君。概要の説明をしようかねぇ。」
皆一斉にべリアルの声のする方を見た。
「先程私は。君たちには駒となってもらうと言ったが、なにも奴隷にしようというわけではない。君たちには私の眷属となってもらい、我が主の為に働いて欲しいのだ。」
皆ざわめきが起こった。
「眷属?なんなんだそれ・・・」
「奴隷契約とは違うのか?」
「いったいどういう・・・」
困惑が広がるなか、べリアルは両手を広げて、演説を始める。
「そう眷属だ。これは、奴隷契約とは違い、何かを制限するものではなく力を称えるものだよ。こんな風にね。」
そう言ってべリアルが、近くにいた足の悪い老人に手を向けると、老人の足元が赤く光ると首の根元に赤い波のような刻印が一周現れた。
「ん!?これは!!!」
足腰の悪かった老人が驚いたようにスッと立ち上がった。
「信じられん。足が動く、立てる。それに体が軽いし長年の腰痛も吹き飛んだ!!若い頃より、力があふれるわい!!」
老人は腕を回してピョンピョン跳び跳ねる。
「まじかよ。」
「すげー。」
皆驚きの声を上げた。
「眷属になれば、怪我、病気、欠損、障害、疾患、餓え、全てが完治し、かつ私の力の一部が譲渡されるため、身体能力、魔力も全てが大きく上昇する。」
皆の足元が次々に赤く光出し、首の根元に赤い波のような刻印が一周現れる。
「すげぇ。足が生えてきた。」
「持病のヘルニアが一瞬で。」
「む、娘の病が一瞬で・・・」
「さっきまで腹痛かったのに、痛みが収まった。」
そしてそれはリースとアリア親子も例外ではなかった。
「ママ。おなかのマークが・・・」
「うん。ほんとだね。なくなってるね。」
受けた暴行の傷や空腹感だけでなく、檻に入れられる間際に、奴隷商の男に入れられた奴隷紋すら綺麗サッパリ消えていた。
「君たちには私のために働いてもらうが、無論きちんとした労働条件のもとでね。基本6時間労働、週休2日制、祭日ももちろん休み、衣食住完備で、月に銀貨25枚を約束しよう。残業代もね。」
この時代にしてはあまりの厚待遇に皆歓喜の声を上げた。
「家族がいるものや親戚、友人の移住も許可しよう。」
「そして君たちの大事な物を奪い、犯し、壊し、殺した憎き帝国に囚われた仲間を助けだし、我々が帝国に復讐をするのだ。奴らに思い知らせてやろうではないかね。誰を敵に回したのかをね―――」
そう言って煽るように、手を掲げた。
「「「「「おぉぉぉぉぉぉぉぉッッッ―――!!!」」」」」
今までで、一番大きな歓声が上がった。
「そうだ。帝国を許すなぁぁぁぁッッッ―――」
「夫の仇を取っ手やるッッッ―――」
「そうだ、やってやるぞぉぉぉぉッッ―――」
「祖国の恨みを晴らすんだぁぁぁぁッッッ―――」
べリアルの発言にみんな乗り気のようだった。
「ママ、これからどうなるの?」
アリアは盛り上がる周りの大人達を見ながら、不思議そうにリースに聞いた。
「大丈夫よ。これまでよりいい生活が出来るかもしれないね。」
「ほんと!」
「うん。本当よ。今までよりも美味しいもの一杯食べさせてあげるからね。」
「うん。」
そう言って満面の笑みを浮かべた。
「これより我が組織は帝国に根を広げ、内側より蝕み、崩壊させることを目的とする。ここに宣言しよう、今日より我らが組織名は〝根を広げるもの〟である!!!」
「「「「「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉッッッ―――!!!」」」」」
本日二度目の大歓声が巻き起こった。
皆の歓声に包まれながら、クーリはこれはもう二度と訪れない奇跡を噛みしめながら、優しくアリアを抱き締めた。
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可能な限り返したいと思います。




