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無能と呼ばれた少女は最狂の堕天使を召喚しました。  作者: アズライト
第1章 全ての始まり
4/43

契約と教会と打ち上げ

五話を四話に統合しました。

内容は殆ど変わっていません。

「さぁ。君の願いはなんだ。金か、名誉か、国か、ハーレムか、世界征服か、世界平和か、あぁ、この世界の神になりたいでも良いよ。如何なる願いも叶えよう。」


階段をゆっくりと降りて、リーシェの元に歩いて近寄ってくる。


「あっ―――あっ―――」


当のリーシェは、押し潰されそうな威圧感を放つ存在が底冷えするような低い声で話しかけながら近いて来くこの状況に、その場に座り込んで恐怖で体を震わせ、泣きそうになっていた。

端から見たらリーシェが襲われそうにも見える状況だが、観客席は静まり返り、肝心の教師や騎士、魔王である学園長ですらあまりの威圧感にその場を動くことが出来なかった。闘技場にいるすべての人が生物の本能として感じてしまったのだ、〝あんなものに人間が勝てるはずがない、下手に動くと間違いなく殺される〟と、それでもアルティはリーシェの元に行こうとしたが、体が言うことを聞かず通路に倒れこんだ。


「リーシェ・・・」


泣きそうになりながら、自由に動かない手足で通路を這って、リーシェの向かうのだった。


「ん?どうした。何でもいいのだよ。」


リーシェから返事がないので、再度呼び掛ける。


「はっ―――ひぃ―――」


しかしまともな返事は返って来ない。


「ふむ・・・」


流石に何かおかしいと思い、リーシェから目線を外し、観客席の方を見た。

目があったであろう生徒や一般客の一部は失神していた。


「・・・あぁ。威圧か。なるほどそれでまともな反応が返って来ないわけだ。」


やっと気づいたようで、纏っていた威圧が嘘のようになくなった。


「すまないね。私は人間の感情には疎くてね。この程度の存在感で動けなくなるとは、思わかったよ。」


そう言ってリーシェに手を差し伸べる。


「立てるかね?」


「は、はい。大丈夫です。」


差し出されたてを取って立ち上がった。

見上げているときは異様に大きく見えたが、立って見ても結構大きくかった。190cmはありそうだ。


「さて、改めて君の願いを問おうか。」


改めて願いを問われた、リーシェは少し考えた。

果たして言っていいのだろうかと、先程まで死にそうなほどの恐怖を感じていた目の前の存在に「私の召喚獣になって下さい。」などとストレートに言って大丈夫だろうか、機嫌を損ねて殺されるのではないだろうかと、こんな恐ろしい存在を自分の召喚獣にしていいのかと、色々考えたのだが、今が公開召喚儀式の途中なのを思いだした。もう一度召喚しても来る保証はないし、なにより失敗したら落第になる、なので思いきってお願いしてみることにした。

何でもいいと言ってたし、まぁ大丈夫じゃないかなと。


「あの・・・えーと、私の・・・召喚獣に・・・なって下さい。」


「・・・何?」


呆れたような声を出された。


「ええと・・・その・・・ダメでしょうか?」


相手の顔色を伺うように確認をする、最も顔は見えないのだが。


「・・・フフッ・・・フハハハハハハハハハハ―――」


突然頭を抱えて心底可笑しそうに笑い始めた。


「これは驚いたねぇ、まさかこの私を召喚獣にしたいなどと言い出した人間は君が初めてだよ。フハハハハハ―――」


「やっぱりダメ・・・ですか?」


「いやはや、久しぶりに人間の悲鳴以外で笑ったよ。」


「ひ、悲鳴!?」


なんか物騒な言葉が聞こえてきた。


「召喚獣ねぇ・・・いいだろう、面白そうじゃないか。なってあげようか?君の召喚獣に。」


「本当ですか!!」


「あぁ。いいとも、人間と共に生活をするのは、私も興味があったしね。それに100年足らずの契約だ、暇潰しに丁度いいからねぇ。」


「ありがとうございます。」


「ふむ、では契約といこう。手を出して。」


差し出されたリーシェの右手をゴツゴツした鎧の手で掴むと、右手の手のひらのに置いた。


「君の名は?」


「リーシェ・アストルです。」


「そうか。では、リーシェよ。私の名はべリアルだ。種族名は便宜上、堕天使と言うことで通しておこう。」


「堕天使のべリアル・・・さん。」


「これから君が私の主になるのだよ。私に対する敬称や敬語は一切不要だよ。」


「わかった。べリアル、これからよろしくね。」


「あぁ、よろしく頼むよ。さて仕上げだ。」


べリアルの右手にのせたリーシェの右手の甲に、べリアルの左手を重ねてた。


「一瞬痛むよ。」


「うん・・・んぐッ―――」


熱した鉄を押し当てられて皮膚が焼けるような痛みが一瞬して直ぐに収まると、べリアルが左手を離した。


「これは・・・」


右手の甲には、波打つ円にナイフの刃のような形の8本が等間隔に並んだ太陽を思わせるような赤い刻印があった。


「トライバルサンだよ。まぁ、特に意味はない。契約者との魔力パスとして繋がっていれば正直何でもいいからね。さてこれで契約は成立だねぇ。」


「そうなんだ。改めてよろしくべリアル。」


今度はリーシェから握手を求めた。


「あぁ。我が主、リーシェ。」


べリアルは、握手を返した。

バキンッ―――という音がして、べリアルの纏っていた鎧が砕け散った。

と言うか全裸になってしまった。


「へ?」


「これは・・・」


突然鎧が弾けとんで全裸になったべリアルをポカンとした表情で見ているリーシェを余所にべリアルは原因の思考に耽っていた。


(まさか、強制解除されたのか・・・他の宝具も使えない・・・と言うことは、契約者に合わせて能力が自動調整されたのか。なんと面倒な設定をしてくれたものだねぇ、あの神王は―――)


なにかを確認するかのように手を開いたり閉じたりしていた。


「って、ちょっと。早く前隠すか何か服着てよぉ!!」


正気に戻ったリーシェは、慌てて目元を両手で隠しながら叫ぶ声がアリーナに響き渡った。


********************************


「あぁ・・・何と言うことでしょう。」


一般席に座っていた、緑色の作業服を着た男がスーツケースを手に席を立ち出口に向かい歩いていた。


(まさかこんなところで、悪魔に出くわすとは・・・)


先程召喚された恐ろしい存在の押し潰されんばかりの気配を思い出して体を震わせた。


(間違いないありません。あのおぞましい姿と気配、神を冒涜する赤い翼、まさか学園で召喚されるとは・・・悪魔崇拝者を匿うばかりか、よりによってこんなこと大勢の人の居るところで、悪魔を召喚するなど言語道断。許されざる、背信行為です。これは早急に、教会への報告が必要ですね。)


闘技場を出て、出入口前の祭りのように賑わう大通りを抜け、人気のない場所にある黄色の家のドアをノックした。


「今日のご飯は?」


「トンカツだ。」


木製の扉が開き、周囲を一度確認したのち神父は中に入った。


「どったの?なんかあった?」


黒色ローブにフードを深く被った少年が入ってきた神父を見るなり、首を傾げながら出迎える。


「ああそうだ。早急に調べて貰いたいことが出来た。皆を呼んできてくれ。」


「既にみんないるよ。」


少年が指を指す方向を見ると、暖炉の側の机の上に座りパンをかじるローブの男と壁際で椅子に座り本を読むローブの女性がいた。


「あれ?ロムド神父じゃん。」


男は机から飛び降りると、ロムド神父の側にきて顔を覗きこむ。


「ん~、何かあったって顔してるね。何かな、何かな、上手い屋台でもあった?いい女でもいた?そ・れ・と・も背信者でもいたかな?」


オモチャを与えられた子供のよにはしゃいだ声で、ロムド神父を問い詰める。


「うるさいですよ、グラート。ロムド神父が困っているでしょう。そもそも貴方が、どうでもいい事を喋るから本題が話せないんですよ。」


読んでいた本を閉じて、椅子から立ち上がり机の側に立った。


「何か大事な話があるんですよね?ロムド神父。」


「そうだ。とりあえずこれを見て欲しい。」


ロムド神父は、スーツケースを開けるとその中から紙を一枚取りだして机に置いた。


「ん?これって生徒の履歴書?」


そこには顔写真、名前、家族構成、血縁関係、交遊関係、階級、財産など個人情報が書かれた紙だった。


「そうだ。この生徒を調べてくれ。主に本人の日常的行動と周囲人間との関係をだ。」


「リーシェ・アストル・・・極普通の女生徒にしか見えないのですが。」


「いや、この女は悪魔崇拝者だ。現に先程の公開召喚儀式で、大衆の前で悪魔を召喚したのだ。」


「まさか?!冗談だよね?」


「間違いありません。私は観客席からこの目で見たのです。あのおぞましい姿、存在感、間違いなく悪魔です。しかもその悪魔とあろうことかそのまま召喚獣として契約したのです。」


「へ~。そりゃたしかに本当なら相当な危険人物だねぇ。早急に殺した方がよさそうだねぇ。」


「そうだ。だが何事にも手順がある。まずは君たちでこの女のことと、周囲の人間関係を探り、他の背信者とその関係者を洗い出して欲しい。」


「なるほど、うまくいけば学園に潜む背信者を一網打尽に出来るということですね?」


「そうです。それに魔王が支配するこの学園島は神の信徒である我々要求に従わないばかりか上陸すら拒否し、更には島内にいた信徒達を武力で追い出したのだ。これは許されざる愚行であり背信行為だ。しかし今回の事を理由に強制調査を行い、悪魔の子孫である亜人と背信者達を大量に取り締まることで、教会の絶対なる威信を取り戻し、私はその功績を称えられ司祭に昇進し富と権力が手に入る。更に世界の平和への大いなる一歩に貢献出来るのです。これぞ一石二鳥、いや一石三鳥になるのですよ。」


「「「おぉぉ!!」」」


ロムド神父の熱弁に、三人は称賛の拍手を送った。


「この計画を遂行するためにも、私は一度本部に赴き、この事を早急に伝え強制調査と異端審問の申請を行います。あなた方は他の諜報員と協力して事を進めてください。」


「「「了解。」」」


「それと、この資料を調査に役立てて下さい。」


スーツケースから二つの紙束を出して、机に置いた。


「私が個人的にピックアップした、生徒、教員、島民およそ2000人分の個人情報です。」


「あぁー。だからスーツケースなんて持ってたんだ。それにしてもセキュリティ厳しいのによくこれだけの資料あつめられたね。」


「内通者のお陰ですよ。まぁかなり高い金額支払いましたがね。」


「学園側に内通者がいたんですね・・・」


「では、私はこの辺で失礼するよ。連絡船の時間もあるしね。」


そう言い残して、スーツケースを手に家から出て行った。


「なぁ。もしかしてこれ今から全部調べなきゃいけねぇの?」


机の上の紙束を見て、グラートは面倒くさそうな声をあげた。



********************************



「はぁー。やっと解放された・・・もう外真っ暗だよ。」


「まぁ、案の定大騒ぎになってたねぇ。」


蝶ネクタイのバーテン服を着たべリアルは他人事のように呟く。


「そんな他人事みたいに。」


「だが私を召喚したのは君だろう。ならば主である君があれこれ聞かれるのは当然のことではないかね?」


「そりゃ・・・そうだけど。」


べリアルとの契約を済ました後、アリーナ中に駆け込んできたアルティがべリアルに全力の攻撃魔法を放とうとするのを必死で止めたり、生徒席で周りの生徒達に召喚儀式が終わるまでひっきりなしに質問攻めにあったり、終わったら終わったで、職員室に呼び出され、先生達に囲まれて、あの呪文はなんだとか、あの純金のペンダントは何処で入手したのかとか、10節詠唱なんて聞いたことないとか、べリアルは何者なんだとか、解剖させて欲しいとか、授業点あげるから私のために論文を書いてきて欲しいとか、あれこれ質問攻めにあってその結果この時間になったねのだ。

終わったら打ち上げをアルティがミナトちゃんも呼んでするつもりだったのに、先生達の話がいつ終わるかわからなかったので、アルティには先に帰って準備をお願いした。


「ところでさ、べリアルと・・・その・・・一緒の部屋で暮らすことになるんだよね。」


「それは当然だろう。私は君の剣であり、盾であり、手足であり、頭脳であり、家政婦でもあり、夜の友でもあるのだから。」


「最後のは言わなくてもよかったよねぇ?!」


「そうか。君が望むなら、私は一向に構わないが・・・」


「もぉー、そういうことそう言うことは絶対に頼まないから。」


顔を赤く染めて、ふんすかと怒った。


「そうじゃなくて・・・その・・・私は家族以外の男性とは・・・その、一緒に暮らしたことがないから・・・だから・・・なんて言うか・・・」


頬を染めて指をもじもじさせながら上目遣いで、べリアルを見る。


「・・・君は、私が思ってたより随分と純情なようだねぇ。」


「な、なによぅ。だってそうでしょう。動物とか精霊ならともかく、人型で、会話ができて、性別が男なら、気になるでしょう?!だってひとつ屋根の下で見知らぬ男女が一緒にくらすんだよ!?」


「少し落ち着きたまえ。我々は見知らぬ関係ではないし、君の言い分だと、人型モンスターでも異性対象に含まれることになるのだが・・・」


「違うもん。ちゃんと人間の男の子の話だもん、モンスターは対象じゃないの。一緒に暮らすなら、女の子の方がいいもん、女の子が好きだもん!!」


男性と暮らすことの不安の話から女の子が好きというの告白にまで話が飛躍してしまい、このままだと大暴露大会になりかねないと思ったべリアルは話を無理矢理終わらせることにした。


「わかったよ。その事は部屋に帰ってから話合うことにしよう。だからここではこの話はもうやめにしよう。ここは飲食街だからね。」


べリアルに諭されて、周りを見ると変な人を見るような視線が二人に集まっていたことに気づいたのだった。


********************************


「最悪だぁ・・・」


先程飲食街で、恥ずかしい会話と性癖の告白じみた事を大勢の人に聞かれて逃げるようにその場を立ち去ったのだが、周りの人にはなにやらヒソヒソと囁かれていた。ただでさえ、今日のことで悪い目立ちしてしまっているのに、更に変な噂が立ちそうで、憂鬱な気持ちで一杯だった。


「まぁ、たいして気にすることではないと思うよ。君の今までの呼び名にレズが追加される程度だよ。そう、例えば・・・特待無能レズとかね。」


「だ・か・ら。レズじゃないって言ってるじゃん!!一緒に住むなら女の子の方がいいってだけで、私にそっちの気はないの。大体なによ特待無能レズって、より悪化してるじゃない。これじゃあまるで私が特別に無能な女好きっ言ってるみたいじゃない。」


「別にいいじゃないかね。レズの二文字増えるぐらい、何処の誰が何を愛そうがそれは個人の自由だ。他人がそれに対し意見する権利も義理もない。とやかく言う人間の事など放って置けばいいだろう。」


「良くないよ。ますます誰も近寄らなくなっちゃうじゃん。特に女の子。」


「そうかね?私が思うに、既に君の身近に同性愛者がひとり居ると思うのだが。」


「え?そうなの?心当たりが全然ないんだけど。」


「・・・そうか。」


なにやら諦めたような口調だった。

そうこう話している間に、女子寮にたどり着いた。


「これは一般的に言う寮と呼べる施設ではないような気がするのだが。」


「大丈夫。それは私も同じだから。」


そう言われるのも無理はないだろう。

アンティーク調の天辺が槍のように尖った鉄柵に囲まれていて柵に沿ってヤシの木が等間隔に並び、玄関前の広いスペースには手入れされた芝生とレンガで敷き詰められた玄関までの道、休憩スペースには、白色の吊り下げ式ガーデンパラソルとガーデンテーブルとチェアが並び、玄関前スペースの中央には白い噴水があった。建物の方は、緩い扇型の10階建てで幅は数百メートル、赤レンガでできていて、至るところに金属装飾が施され、玄関口は大理石でできた4本の柱に支えられた厚みのある三角屋根で内側には大きなシャンデリアが二つあった。 


「もはやこれは寮ではなく、高級ホテルだねぇ。しかしこんなところに日常的に住んでいるとは、色んな感覚が麻痺しそうだねぇ。」


「べリアル、もしかしてこういう所に入ったことない?」


「いや。何度かは入ったことがあるが・・・日常的ということはなかったねぇ。」


高さ3m、横幅5mはありそうな白を基調して、金色の天使や動物の彫刻が彫られた両開きの重厚な扉をくぐり抜け、エントランスに入った。

エントランスは、天井まで吹き抜けになっていて、大理石の床に敷かれた赤い絨毯が中央の大階段にまで続いていた。


「「お帰りなさいませ。リーシェお嬢様、べリアル様。」」


エントランスの入り口付近には居たメイドと執事が恭しく礼をして出迎えられる。


「私の事も伝わっているとは、話が早いねぇ。」


「あっ・・・どうも・・・」


「リーシェよ、もっと堂々したらどうだね。庶民感丸出しではないか。」


「田舎の農村の出身だから、メイドさんとか執事に出迎えるられたり、お嬢様呼びされるのはどうにも慣れなくて・・・」


中央階段を登り、2階に並ぶ部屋を通りすぎ、部屋と部屋の間にある階段を2階ほど登って、赤い絨毯の敷かれた廊下を進み、314とナンバリングされた金属プレートの付いたアンティーク調の扉を開けた。


「ただいまぁ~。」


凄く疲れたような、声だった。


「あっ、お帰り。随分と遅かったね。」


奥の洋室からアルティが出迎えてくれた。


「ごめんね。なかなか先生の話が終わらなくて・・・」


「鞄持つよ。」


「うん。ありがとう。」


入り口のキッチンを通り過ぎ、洋室に入る。


「おじゃましてるよ~。」


「おじゃましてます。」


「おじゃましてる・・・」


ベッドの上に胡座をかいているミナトと食器を机に並べているルクシリアと見覚えのない臙脂(えんじ)色の右目の隠れボブヘアに猫耳の生えた女生徒がオーク肉のローストビーフ切り分けていた。


「はい。ミナトちゃんにルクシリアさんと・・・そちらの方は?」


「あれ。リーシェちゃんもしかして知らないですか?」


ルクシリアは意外そうな顔をした。


「えーと・・・すみません。知らないです。その・・・私、あまりその手の話しあまり知らないもので・・・」


どうやら結構有名な生徒らしいのだが、基本アルティ経由でしか情報が入ってこないので、校内の生徒のことは知らないのである。


「いい。気にしてない。私はミナトとルクシリアと同じ3年生。アールって呼んで。」


無表情だが柔らかく優しさ声で自己紹介する。


「はい、分かりました。アールさ・・・あれ?どこかで聞いたことあるような・・・」


んと言いかけて、何処かで聞いたことがあるような気がして、思考を回転させる。そう言えば最近クラスメートがその名前を口にしていた気がする。

そうあれは確か―――


「もしかして・・・〝幻影亡霊(シャドウ・ゴースト)〟のアールさん!?」


「なーんだ。リーシェちゃん、やっぱり知ってるじゃん。」


アール、彼女は十二魔戦将のひとりで、〝幻影亡霊(シャドウ・ゴースト)〟の二つ名をもつ校内序列三位の生徒である。


「どうして、私の部屋に?」


「いやね、私がルーちゃんにリーシェちゃんの部屋で打ち上げするけど来る?って聞いたら、アーちゃんが会ってみたいから自分も連れって行って欲しいってリーシェと・・・そこの召喚獣に。」


「あっ・・・」


そう言えば部屋に入った瞬間から、一言も話さなかったので地味に存在を忘れていた。


「ガールズトークに男が割って入るのは無粋かと思ったのでね。暫し様子を見ていたのだが。」


「いや、まだ自己紹介ぐらいしかしてないよ。」


リーシェが突っ込みを入れる。


「なら、私も自己紹介しようか。」


仰々しく両手を広げた。


「私の名はべリアル。邪悪を司る堕天使である。そして、悪そのものであり狂気そのものでもある。」


「「「「―――ッ!?」」」」


召喚されたり時ほどではないがべリアルから放たれる威圧にリーシェ以外の全員が険しい表情で身構えた。


「あれ?みんなどうしたの?」


契約者であるリーシェはべリアルの威圧は効かないので、みんななんで身構えたのか分からずにキョロキョロしていた。


「なに。後半のは冗談だよ。これはちょっとした()()だ。今はリーシェの召喚獣をしているのだ。主の友人ならば、私も有効な関係を築いていきたいからね。今後ともよろしく頼むよ。」


威圧を解いて、急にフレンドリーに話だした。


「あ、ああ。私はミナト・マカベだよ。」


「わ、私は、ルクシリア・リーフレックです。アルティ・リーフレックの姉です。」


「・・・アルティ・リーフレックです。」


みんなまだ少し警戒ような声色で自己紹介をした。


「ふむ。全員の自己紹介が終わった所で、夕食にしようじゃないか。」


テーブルに着くように促すと、ミナト、アール、ルクシリアに向かい合うような形でアルティ、リーシェ、べリアルが席に着いた。


「さて。君達、ワインは好きかな?」


「「「「「え?」」」」」


全員が見事にハモった。


「どうした?酒は宴会ごとの定番だろう。」


「あの、お酒は買ってませんけど・・・」


「うん。買い出し。料理はなに作るかあれこれ話あってたら、忘れた。」


この世界では15歳で酒、煙草、賭博、風俗が認められている。


「問題ない準備しよう。」


べリアルが右の指を鳴らすと、なんの前触れもなくワインボトル4本とグラスが6つ出現した。


「ななじゅ―――失礼、暦が違ったね。これは、シャトー・ペトリュスと言うヴィンテージワインだよ。」


「今。何処から出したの?」


アールは目を輝かせながらべリアルに尋ねる。


「これは、俗に言うと空間魔術というやつだよ。」


「凄い・・・」


「まさかそんな高位の魔術を無詠唱で使うなんて・・・」


「さて、これで1つ乾杯といこう。」


ボトルを一本取り、何処からともなく取り出した栓抜きでコルクを抜いた。湿った土のような独特な香りがテーブルに広がる。


「なんか・・・雨上がりの土みたいなにおいがするね。」


「だね。なんか不思議な香りだよ。」


べリアルは立ち上がりみんなのグラスに注いでいく。


「随分と色が濃いですね。」


「黒紫色って感じだね。」


「さて、全員に行き渡ったね。それじゃ乾杯といこう。」


「えっと。どうすればいいの。私お酒飲んだことないんだけど・・・」


「うん。私もない。」


リーシェとアールはワインで乾杯などしたことないようなので、べリアルが説明する。


「なに、そう難しいことはない。ワイングラスを互いに少し傾けて、グラスの腹どうしを軽く当てればいい。それがワインの乾杯だよ。」


「なるほど、分かったよ。」


「理解した。」


「では、乾杯。」


「「「「「乾杯。」」」」」


全員グラスグラスを掲げて、互いに傾けてグラスの腹で乾杯していく。

コーン―――コーン―――と小気味良くワイングラスが音を響かせる。


「さて、ワインとはまず香りを―――」


「「「んっ・・んっ・・・ぱはぁ―――」」」


乾杯が終わるや否やリーシェ、アール、ミナトは一気にワインを飲み干した。


「・・・しまった。ちゃんと飲み方を教えておくべきだったねぇ。」


「な~にこれ、すっごい。しゅごい滑らか~。」


「う~ん。のおこうな。ジャムみたい~。」


「あぁ~。甘いし、飲みやしゅ~いよ。」


「・・・もう既に酔ってないかね。君達3人・・・」


味わうことなく、ガボガボ飲み始めたら3人とは対極に、アルティとルクシリアは味わうように、チビチビと飲んでいた。


「凄い・・・この煮詰めたジャムのような極上の味わいと滑るような比類ない舌触り・・・間違いなく一級品のワインですね。」


「良質な酸味と甘味の絶妙なバランス・・・滑るような舌ざわり・・・こんなワイン飲んだことないよ・・・」


流石に二人は貴族なので、味わいかたを知っているようだった。


「これはしょっちゅう飲むような酒ではないのだから、そこの二人を見習って味わって飲むことをおすすめするよ。一本金貨50枚は下らないのだからね。」


「「ぶふぅ―――」」


だいぶ酔っていてべリアルの話が聞こえていない三人はさておき、アルティとルクシリアは口に含んでいたワインを吹きそうになった。


「こほっ、こほっ―――き、金貨50枚!?」


「う、うそ・・・そんなにするんですか!?」


アルティはワインの金額に目を見開き、ルクシリアは怖くなって思わずグラスを両手でテーブルに恐る恐るおいた。

この世界の金貨の価値は、日本円で1000万円、べリアルが入手したシャトー・ペトリュスは日本円で一本50万円ほどしたので実際は銀貨50枚(銀貨1枚が1万円相当)なので、 金貨50枚と言うのは大嘘である。

因みに、金貨一枚あればそこそこ立派な一軒家が建つ。そう考えると恐ろしく高価だということは小さな子供でも想像に固くない。


「まぁ。こういう時しか飲まないものだし、どうせ私一人では大して消費もできないからね。好きなだけ飲むといい。」


「本当に?後で請求したりしませんか?」


「請求するぐらいなら、最初から出しはしないからね。払えるとは思えないからね、気にせずに飲むといい。今を楽しもうじゃないか。」


そう言って右手に持ったワイングラスを細いステム部分を持って、笑顔を浮かべる仮面の口の部分にこぼしことなく綺麗に流し込んだ。


「じゃ、じゃあ。遠慮なくいただきます。」


「私も貰います。」


そこから先は、テーブルの上のオーク肉のローストビーフや魔菜のシーザーサラダ、フライドポテト、魔魚の刺身などをつまみながら、リーシェがべリアルを召喚獣したときの話をしたり、どの子が好きとか嫌いとか、流行りの服の話とか、ブームになっているスイーツの話とかしていたのだが。

最終的にみんなお酒が入りすぎて、ミナトがド下ネタをかましはじめたり、アールがキャラ崩壊を起こして猫化したり、アルティが抱きつき癖を発揮したり、リーシェが四人を口説き出したり、ルクシリアが酔いつぶれて寝たりした。


「で、これを私が全部片付けないければならないのかね・・・」


テーブルに突っ伏してワインボトルを片手に酔いつぶれたルクシリア、部屋の角で猫みたいに丸まって寝息をたてるアール、ベッドの上で大の字で大胆に足を開き足を開き寝ているミナト、そしてベッドにもたれ掛かってお互い抱き合うように寝ているリーシェとアルティの姿があった。


「地獄絵図だねぇ。食い散らかしてるし、部屋中酒臭いし・・・まぁ、酒を提供した私にも責任の一端はあるしね。・・・・・片付けるかねぇ。」





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