五話
蓮の術を解き始めてから半月が早くも経った。八割方は解けたがまだ二割が解けていない。睦月も予想はしていたので驚きはしていない。
翠蘭も二日に一度は様子を見に来ている。毎日見にきたいらしいが状況が許さないのだと当人が言っていた。蓮は「お体を大事にしてください」とだけ告げておいたが。
翠蘭はにこやかに笑いながらわかったと言ったのだった。
「蓮様。術を解いてからはお元気になりましたね」
五十鈴が嬉しそうに言った。銀苓も頷いている。蓮は首を傾げた。
「そうかしら?」
「ええ。以前よりも外に出歩かれるようになりましたし。喜ばしい限りです」
五十鈴はそう言いながら緑茶を入れた。茶器を蓮に手渡してくる。礼をいって受けとると口に含んだ。ほんのりとした苦味が広がる。それを飲みながら蓮は考えた。まず、自分の封印が解くのにこんなに時間がかかるとは思わなかった。国の危機が目の前で及んでいるのに自分は何もできない。無力感がかなりある。
「蓮様。今が正念場です。術さえ解ければ後は陛下に協力するだけですよ」
銀苓が励ますために言ってきた。蓮はそうよねと頷く。
五十鈴や銀苓も頷く。蓮はふうと息をついた。青い空を見上げて目を細めたのだった。
「蓮様。後もう少しになりましたね」
そう睦月が声をかけてきた。蓮は頷いた。
「そうね。これも睦月様のおかげだわ」
「私は大した事はしておりませんよ。術の解除は部下たちに任せておりましたから」
睦月はにこりと笑いながら言った。
「それでもあなたや兄様達が動いてくれなかったら私はずっと封印をかけられたままでした。こうやって、姫巫女としては役立たずなのに。助けていただいた事には感謝しています」
蓮が笑いながら言うと睦月は目を見開いた。
「…姫、役立たずなどと。我らはそのようには思っておりませんよ。むしろ、先王のために幽閉されてしまったあなたに申し訳なく思っているほどです」
「睦月様…」
「だから、役立たずなどとおっしゃらないでください。蓮姫はいられるだけで特に王にとって支えになっていますよ」
睦月に笑顔で言われて蓮はかえって恥ずかしくなった。自分は何にもできずにいたのに。それでも、兄や家臣達は地下牢から出して日の光の下で暮らす事を勧めてくれる。綺麗な衣服や美味しい食事。良い香りのお香にお洒落な調度品に囲まれたお部屋はもったいない程だ。兄はそれでも蓮に対しての詫びには足りないと言っていた。今でも十分なのだが。けど、不思議になる。何故、今になって兄は蓮を解放しようと思ったのだろうか。それを今度聞いてみようと思ったのだった。
翠蘭は蓮と五十鈴、銀苓に娑浬の五人で自室にてお茶を飲んでいた。
「蓮姫。以前よりもだいぶお顔色が良くなりました。地下牢から出た時よりもお元気になられましたし。ようございました」
娑浬が嬉しそうに言う。蓮ははにかみながらも笑った。
「娑浬様がそう言ってくださるとは思いませんでした。元気になれたのは五十鈴や銀苓、兄様方のおかげです。皆さんが助けてくれなかったら今の私はありません」
「こちらこそそう言っていただけるとは思わなかったですね。蓮姫が健やかに過ごしてくださってこそ我らも安心するというものです」
娑浬がにこやかに言うと翠蘭も負けじといった。
「わたしもそう思うぞ。さて、蓮。後数日もすれば封印術なども解けると睦月が言っていた。千里眼で調べてもらう事になるが大丈夫か?」
「…そうですね。私には千里眼で敵方を調べる任務があるのでした。後、龍神様をお呼びする事と」
蓮は背筋を伸ばして翠蘭を見た。
「そうだ。蓮が元気でいれば、能力も十分に活用できる。龍神を呼び出すとなればかなりの霊力を使う。そのためにも体調管理には気をつけてくれ」
「わかりました。助けていただいた分は働きます。私の力を国のために役立てていただけるのでしたらこれほど嬉しい事はありません」
蓮が深々と頭を下げると翠蘭は應庸に頷いたのだった。




