四話
蓮の封印を解くために術者が集められた。その数は十人程でその中でも特に優れた者が封印解除の中心的な役割を果たすらしい。
蓮の封印術を診た術者はそれが大変に強固で一人で解くのは難しいと言った。何故、蓮の千里眼をこれだけ固く封印しなければならなかったのか。
翠蘭は術者の長である睦月を呼び出した。睦月は年が三十を少し過ぎたくらいの男性だ。もとは平民だが大変な霊力の持ち主で才能を先代の長に見出されて今の地位にある。
彼に蓮の千里眼を封印しなければならなかったのは何でなのかと問うた。睦月は秀麗な顔をしかめて考え込んだ。
「…姫の千里眼を封印したのは先代の長です。わたしめが聞いた話だと先代の陛下は蓮姫の千里眼の強さに恐れをなし、忌み嫌っておられたとか。王妃様がお諌めなさったのですが。結局、秘密裡に蓮姫が幼い内に封印をなさいました。確か、姫がまだ二歳程にはなられていたかと」
「そうだったのか。父上も愚かな」
翠蘭が吐き捨てるように言う。睦月も何とも言えぬ表情をする。
二人して少し沈黙した後、先に声を発したのは翠蘭だった。
「睦月。今からでも遅くはない。蓮の封印を解いてやってほしい。兄として頼む」
「陛下。蓮姫の封印は先代の長がかけたものの中でも一番と言っていいほど強いものです。しかも、複数の術が施してある。それを一気に解くと姫に多大な負担を強いることになります。一つずつ解いた方が良いかと思われますが」
「…そうか。複数の術が。それは厄介だな。わかった、蓮に負担が少ないやり方のほうがいいな。睦月、あの子の封印はいつ頃までかかるか聞いていいか?」
翠蘭が問うと睦月は顎に手を当てて答えた。
「そうですね。多分ですが、十日はかかるかと。ですが、これは最短の場合です。長ければ一月はかかるでしょうね」
「わかった。では、今日は遅いからな。明日から早速、封印解除を頼む」
「かしこまりました」
睦月は王である翠蘭に深々と礼をしてみせた。この翌日から睦月や術者たちによる封印解除が始まったのだった。
蓮の体中に流れる気脈を読みながら睦月や他の術者たちは慎重に自身の霊力を流し込んでいく。呪文も唱えるとぱきんと小さな音がして一つ封印術が砕けて消える。
「解けましたよ。まずは一つ消えました」
「そうか。封印といっても禁呪が含まれているな。後、記憶操作に幻影もかけられている。ここまでする必要があるのか?」
「長。あたしに言われても困ります」
睦月に軽口で返すのは術者といえど女性だ。彼女は名を梅香といって年齢が二十歳になる。若いが術者としての実力は国でも睦月に次ぐものだ。赤毛の髪と茶色の瞳でスオウ国では珍しい色彩を持っていた。
「…ねえ、睦月殿。いつになったら解放されるのかしら?」
「後、もう少しお待ちください。私以外は皆女人ですので。ご安心ください」
睦月はにこりと笑いながら言った。蓮はうんざりしながらも頷く。睦月以外は全員女性なのは本当だった。
何故かというと男に妹の体は触らせられないと翠蘭がごねたからだ。まあ、確かに問題はあるということで睦月は術者で女性ばかりを引き抜いて連れてきた。
幸い、スオウ国では女性であっても霊力が強ければ術者になれる。長である睦月が手を握る事で霊力の強さを判定して霊石でも確認するのだ。その二つの試験を経て見習いとみなされる。
睦月や他の術者たちに認められてやっと一人前になれるというのがこの国での術者の通る道だった。
「…はい。今日はここまでにします。お疲れ様でした、蓮姫」
「はあ。ありがとうございました」
蓮が礼を述べると睦月はにこりと微笑んだ。彼が合図をすると術者の女性陣は蓮の体の各所に触れていた手をはずして離れた。
そうして、蓮を置いて部屋を出ていく。十人は必要だと睦月に言われたが。実際は一気に解除すると負担がかなりかかるらしいので六人ほどで今日はやった。まだ、初日なので長い戦いになる。
蓮は深くため息をついた。部屋に置いてある藤の蔦で作られた椅子に座る。五十鈴と銀苓は廊下で待機していた。
机に置いてある水差しから茶器に水を注いだ。それをあおって水を喉に流し込んだ。冷たい感覚が体に広がるような気がした。
破璃が嵌め込まれた窓からは日の光が差し込むが。蓮はそれをまぶしいと思う。術を解かれた彼女は今、瞳の色が兄の翠蘭と似通った青緑の色になっていた。
幻影の術により瞳の色が変えられていたのだ。蓮は明日になったら余計に別の自分になってしまいそうで身震いした。
窓の向こうの空は晴れているのにどんよりとした気持ちになったのだった。




