十四話
蓮はこの日の夜も月歌と一緒に寝所に入った。
食事は朝や昼も月歌が作ってくれたが。材料は佐維に言って宮の厨房からこっそり分けてもらった。肉は少ないが野菜や果物も分けてもらえたので贅沢は言っていられない。月歌はお茶も淹れてくれた。
「……姫様。確か、蘇芳国に戻れるのは半月程経ってからだと聞いていますが」
「そうなのね。じゃあ、しばらくは気が抜けないわ」
「ええ。特にお食事は気をつけないといけません」
月歌の言葉に蓮は難しい顔になる。二人とも初日に出された食事のせいで白來国の侍女達を信用できないでいた。食事の全部に毒が入っていたからだ。
「月歌。衣装や調度品などにも毒が混ざっている可能性があるわ。蘇芳に帰るまではあちらから持ってきた衣装を着た方が良いかもしれない」
「……そうですか。わかりました。佐維様達に知らせておきます」
「頼むわね」
蓮が言うと月歌は跪く。侍女としての礼をしたのだった。
白來国に来てから五日が過ぎた。この日も月歌に朝食を作ってもらう。実は蓮の為にと用意された宮には小さな厨房がある。ここで月歌は二人分の食事を作っていた。
「……できましたよ。姫様」
「ありがとう。月歌の分もあるのでしょう?」
「ええ。今日は姫飯と山菜の汁物、沢庵漬けです」
月歌が言うとお膳が置かれる。毛皮の敷物の上だが。蓮はいただきますと手を合わせてからお箸を手に取った。姫飯や汁物はほかほかと湯気を立てていて美味しそうだ。蓮は姫飯を口に入れた。程よく温かいし噛めば噛む程に甘みが出てくる。汁物も薄味だが。おだしが効いていて美味である。
「……うん。今日も美味しいわ」
「そうですか。それは良かった」
その後、二人でぽつぽつと話す。お膳の中の食べ物を完食するまで続いたのだった。
翌朝、蓮はいつも通りに明け方に起きた。が、月歌がいない。どうしたのだろうと思ったが。歯磨きや洗顔を済ませて蘇芳国から持ってきた衣装を着る。そうしていると珍しく深月と桂林の二人がやってきた。
「……おはようございます。スオウの姫様」
「……おはよう。深月殿、桂林殿」
白來国の言葉で言うと深月と桂林が驚きの表情を見せる。蓮は牢獄から開放されてから白來語を猛特訓した。おかげで日常会話をするまで上達している。それを侍女達は知らなかったらしい。仕方ないと思った。
「スオウの姫様。いつも一緒だった侍女殿はいかがしました?」
「あら。あなた達はあの子がどこにいるのか知っているの?」
「……いえ。存じません」
深月は平然としていたが。代わりに桂林が青ざめた顔色で答えた。
「……本当に?」
「じ、侍女殿はじきに戻ってきます。ですので少々お待ちください」
「そう。だったらいいわ。身支度は手伝ってもらわなくて結構。あなた達の本心はよくわかりました」
蓮が二人を見据えて言うと深月は冷たく笑った。桂林は紙のように白い顔色にもはやなっている。
「……へえ。たかが小国の娘ごときが。偉そうな口をきくようになりましたね」
「偉そうなねえ。それはそうと。私の侍女はどこに連れて行かれたのかしら」
「……察しが良い事で。あの小娘だったら地下牢ですよ」
深月の言葉に蓮はにっと笑った。普段では見せない冷たい表情だ。口元は笑っているが目は笑っていない。
「……そう。地下牢ね。だそうよ。影の皆」
「なっ?!」
蓮が告げた途端に黒い装束の男達が音もなく現れた。兄である蘇芳国王――翠蘭が心配して密かに同行させていた者たちだ。六人もの影達は素早く深月と桂林を捕縛する。蓮は影達に二人を見張っておくように告げた。
「……任せたわよ」
「はっ。御意に」
影の一人が頷くと蓮は深月に近づいた。腕と足を拘束されているので深月は動けない。蓮は彼女の腰の辺りを探る。ちゃらと音がした。上衣の裾を捲ると鍵束がある。それを器用に外した。
「借りていくわね。深月殿」
「……く。騙したな。小娘が!」
「あらあら。先に騙したのはどちらかしら。よく考える事ね」
蓮が言うと深月はギッと睨みつけた。が、蓮は意に介さずに笑ってみせる。
「小娘。地下牢に行ったってあの侍女はいないよ。わが君の妾になる予定だからねえ」
「……妾ね。下衆な趣味だこと」
一際嘲って言うと深月は皮肉げに笑っていた顔を醜く歪めた。隣の桂林は土気色の顔で震えている。
「小娘。何が言いたい?」
「深月。そなた、わたくしの名は知っているのだろう。何故言わぬ」
蓮は王女然とした口調で話した。深月と桂林はぽかんと口を開く。それも仕方ない。蓮は町娘よりは丁寧という程度の言葉遣いだったからだ。蓮っ葉ではなかったが。
「……姫様。この二人を問い詰めても吐きはしないでしょう。侍女殿の居場所は我らが掴んでおります。今からそちらへお行きください」
「……わかった。任せる故、逃がすな」
「御意」
蓮は頷いてから踵を返した。影の二人と走って地下牢へ急いだのだった。




