十三話
約三年ぶりの更新です。大変お待たせしました。
蓮は月歌と共に後宮の一画へと案内された。
年かさの侍女が手際よく若い侍女達を紹介する。それによると最初に紹介されたのが佳林で二番目が綺羅、三番目が紅蘭、四番目は賢蘭、最後が香林というらしい。年かさの侍女は深月だと名乗った。全部で六人が仕えるようだ。
その後、深月と桂林が食事を取りに行く。綺羅と紅蘭は湯浴みの支度に賢蘭と香林は衣装を選びにとそれぞれ行ってしまう。残ったのは月歌と蓮だけになった。
「……月歌。これからどうしましょうか」
「……とりあえずは様子見ですね。佐維様の指示を待つしかないかと」
「そうね。佐維さんの連絡を今は待ちましょう」
蓮が頷くと月歌は考え込んだ。どうしたものやらと呟く。
「……月歌?」
「いえ。ちょっと今後が心配で。蓮様、深月殿達が戻ってきましたよ」
「わかったわ」
深月達が戻ってきた。蓮は月歌から離れて浴室に向かったのだった。
湯浴みをしてさっぱりすると夕餉が運ばれてきた。深月達に蓮は月歌と二人だけになりたいと告げる。疑われる事なく月歌と二人きりになれた。
「……蓮様。ちょっと失礼しますね」
月歌はそう言うと銀製の棒を懐から出した。お粥と白湯と呼ばれる汁物、お漬物があるが。その内、汁物に棒を浸す。すぐに銀製の棒は茶色く変色してしまう。
「これはやめた方が良いですね」
「……本当ね。お粥とお漬物にも毒が入っている可能性が高いわ」
蓮が言うと月歌はため息をついた。やはり自分が付いてきて良かったと思う。こうして蓮は自国から持ってきた保存食で凌いだのだった。
夜になり寝所に入る。月歌も一緒だ。蓮は自分で寝間着を着ていた。寝台があって綿入りの掛け布団もある。蓮は寝所に置いてあった荷物の中から寝袋を出した。
「……月歌。もし良かったらこれを使って」
「え。良いのですか?」
「うん。寝台に一緒に寝ても良いけど。窮屈でしょう。後、この毛布も使ってね」
蓮はテキパキと寝袋と毛布を取り出すと月歌に手渡した。石床なので隅に置いてあった敷布も持ってくる。それを敷いてから寝袋を置くように言う。
「こうしておけば、身体が冷えるのを防げると思うの。寝台よりは寝心地が悪いかもしれないけど」
「……いえ。わざわざすみません」
「謝る必要はないわ。月歌、今日からしばらくは宿直をお願いする事になるから。これくらいは当然よ」
蓮の言葉に月歌は苦笑した。それでも寝袋にくるまって毛布も掛ける。確かに温かくはあった。蓮も寝台に入る。二人はそのまま寝入ったのだった。
翌朝、蓮はまだ明け方と言える刻限に目が覚めた。月歌は寝ている。蓮はそっと寝台から降りた。抜き足忍び足で荷物に近づく。麻袋を開けて一枚の布や歯磨き粉などを出す。昨夜に深月が案内してくれた洗面所という小部屋に入る。蓮は寝間着の中から翡翠の涙――蘇芳国の国宝の宝玉を取り出した。美しい翡翠は大昔に初代の巫女が守護神に与えられた宝玉で国の結界の要だ。幼い頃に母の王妃から教えられた事がある。父や兄も翡翠を肌見離さずに持っておくように言っていた。
(……龍神様。私はどうしたらいいのですか?)
翡翠を両手で包み込んで問いかける。じんわりと翡翠が温かくなりやんわりと光った。
『……我に仕えし巫女か。蓮。いや凰蓮。そなたはあの佐維という男を信じているのか?』
不意に低い声が頭の中に響いた。蓮の実名を言われて驚く。
(え、ええ。そうです)
『ならばよい。ではさらばだ。凰蓮』
低い声はもう聞こえなくなる。蓮はほうと息をつきながら翡翠を寝間着の中に仕舞いこむ。歯磨きをするのだった。
その後、洗顔を終える頃に月歌が起きてきた。早く起きていた蓮に驚きながらも着替えを持ってきてくれる。受け取ると手早く着替えた。月歌に洗面所を使うように言う。
「何から何まですみません。では使わせていただきますね」
「……ええ。後で髪結いをお願いね」
「わかりました。お任せください」
月歌は頷くと交代で洗面所に入る。蓮はその間に荷物の整理をした。半刻程して月歌は出てくる。
「あの。終わりました」
「じゃあ。髪結いをしてくれないかしら」
「はい」
月歌はそう言うと蓮を鏡台へ導く。櫛と香油入りの小瓶を手に持つ。小瓶の蓋を開けると香油を掌に振り掛けた。体温で温めてから髪に塗り込んでいった。そうした上で櫛で梳いていく。何度もしていると蓮の髪は艷やかさを増していった。一通りすると月歌は簪や櫛、造花などを用意する。器用に髪を結い上げていく。上半分を簪などで結い上げ、下半分はおろすという髪型にした。
「できました」
「……ありがとう。綺麗に仕上げてくれたのね」
蓮は満足そうに鏡を覗き込む。月歌も誇らしげだ。その後、深月達がやってくると何食わぬ顔で迎えたのだった。
昼になりやっと佐維達と会う事ができた。皆、元気そうだ。
「……良かった。蓮姫。無事でしたか」
「ええ。佐維さんもね」
蓮が頷くと佐維はそっと彼女の肩に触れた。いきなりの事に蓮は目を開いた。
「昨夜は心配で眠れませんでした。けど。今夜もお気をつけください」
「……わかった」
蓮がそう言うと佐維は苦笑する。肩から手を離す。そうして自身の与えられた棟へと行ったのだった。




